第13話 ビデオ通話って、後ろが気になるよね

 家に帰って、すぐにスカイプをパソコンにダウンロードした。

 だって、大きい画面がいいよね。

 マイクロソフトのアカウントを探すのに小一時間を要したぜ。


 さっそく、サキさんのスカイプ名を入れる。


 ん?


 サキさん、オンラインじゃん。まだ、夜7時だけど接続してみるか。


「プオーン、プオーン……」


 スカイプの呼び出し音、無機質だな。

 まあ、出ないよなと思った瞬間、


「ケンジくん? 早いね。もう準備できたの?」


 本人様、降臨!


「お、おう。さっきぶり」


「ふふっ、何? さっきぶりって」


 音声だけでも、破壊力抜群だぜ。で、早速ビデオに切り替えようとすると、


「あ、私、まだ、着替えが終わってないから、もう少し待って」


 と、ストップがかかる。


 ヲイヲイ。俺の妄想力が発揮される時間が来たぜ!

 さて、サキさんの下着の……。


 ガシン!!


 その瞬間、俺は自分のあごにパンチを食らわせていた。

 そのまま、ベッドに倒れ込む。


(ケンジ! お前、そんな奴だったのか? サキさんを汚す妄想なんか、すんじゃねえよ!)


 そうだよ。俺とサキさんは……ん? どんな関係なんだろうな?


 その瞬間、ぱっと画面にサキさんの顔が映る。顔、近い!


「ケンジくん! 見える?」


 つうかさ、サキさん、短パンなんですけど。生足なんですけど。

 その上、パジャマっぽいんですけど。


 いろいろやばい。


「ん? ケンジくん?」


「あ、ああ。見えてるよ(イロイロ)。声もバッチリだ!」


「わあ、良かった」


 まて! 俺の後ろには……。

 振り返ると、「天使が舞い降りた」のエルちゃんのポスターがでかでかと貼ってある!

 何で! 何で!! 剥がしておかなかったんだ!!(号泣)


「可愛い、ポスターだね(ニッコリ)」


 ぐああああああああ!!!

 ダメ押しいいいいいいいいいいいいい!

 ひと思いに「オタク! キモ!」って言われた方がましだったよ!


 俺が心にダメージを負っている間にも、


「ケンジくんの部屋って、いろんなモノがあるんだね。その小さな女の子の人形って何?」


 と、次々とパンチを繰り出してくる。

 殺して!! 誰かひと思いに俺を殺して〜(泣)

 ダメだ、このままでは俺のイメージが地に落ちてしまう。


「サキさん、ちょ、ちょっと待ってくれる?」


 俺が立ち上がった瞬間、サキさんが目に手をやる。


「ケ、ケンジくん。その、し、下着……」


 俺も着替え中で、トランクスのままだったああああああ!!!


 そんなこんなで1回目の接続はハプニングだらけで終了した。

 ケンジは心に大きなダメージを受けた。HPは0に近かったぜ。


 §


 6月も中旬になり、3年生は部活動が終了となる。

 当然、リカも陸上部を引退した。


「ケンジ、今日、一緒に帰ろ」


 リカが大きな音を立てて、教室のドアをあける。

 うん? 残っている男子が少しそわそわしてるな。リカが好きなやつもいるみたいだな。こいつ、気さくな奴だから自分から話しかけたらいいのに。


「おう、何だか久しぶりだな」


「寂しかった?」


 と、両手を後ろに組み、下から覗き込んでくる体勢でリカはニヤッと笑う。なんでこいつは、いつも俺を徴発するんだよ。

 また、二次元の子と仲良くしてたんでしょと、からかわれながら自転車置き場を通り抜けようとする。


 すると、そこにイケメン男子が現れた。


「ナナセさん、ちょっといいかな?」


 お! サッカー部副キャプテン、タケハラくんだ。

 相変わらず爽やかだな! ちなみにリカのフルネームはナナセ リカだ。


「ケンジ、ごめん。ちょっと待っててね」


「おう」


 俺は少し離れた場所で、無関心を装って空を見上げていた。タケハラくんの邪魔はしたくないんだよ。タケハラくんは2年の時、席が近くで話もしたんだ。優しい奴なんだよ。


 3分ほどしてリカが戻ってくる。


「お待たせ」


 やっぱり、ちょっと沈んでるな。こいつの理想は、そんなに高いのか? タケハラくん、いい奴だぞ。

 でも、こいつもいろいろ思うところはあるんだろう。ま、しゃあねえ。


「リカ、今日、タリーズ行かねえ? お前の好きなハニーウォルナッツドーナツ、奢ってやるよ」


「うん! 行く!」


 ようやく笑顔に戻ったな。まったく世話が焼けるよ。

 

「う~ん、嬉しいなあ。ケンジがコーヒーとドーナツを奢ってくれるなんて!」


「おい、俺はドーナツだけを……」


「小さいなあ。そんなんじゃ女の子にモテナイよ」


「ほっとけ」


 駅前タリーズのスクエアな感じの黒い自動ドアが開き、俺たちは中に入っていく。

 このタリーズの店内は真ん中に大きな四角い壁があるのが特徴だ。

 その周りに丸い木のテーブルを挟んで、「し」の字に曲がったモスグリーンの椅子がある。この椅子が俺のお気に入りなんだ。


 注文を済ませ、俺とリカはテーブルを挟んで向かい合う。

 ん? 何となく、緊張すんな……。リカもモジモジして落ち着きがないぞ!


「ケ、ケンジ、大学はどこに行くの?」


 こいつが、口ごもるなんて珍しいな。


「俺? 地元かなあ」


「私も地元の大学に行くつもり」


 その瞬間、アラームがピーピーと大きな音を立てる。

 俺とリカは、受け取り口まで行き、コーヒーとハニーウォルナッツドーナツを持ってくる。コーヒーは、二人ともデカフェなんだ。


「ケンジ、趣味が一緒だね」


 ちょっとしおらしく笑うリカは新鮮だ。これは、ぐっとくるな。


「リカは、どの学部に入るんだ?」


「うん、教育文化学部。自分の地域を盛り上げたいって思ってるんだよね」


「へえ」


 こいつも自分の将来を真剣に考えてるんだな。


「ケンジは?」


「俺は工学部だ」


 とりあえず、そこに決めている。


「何でそこに行きたいの?」


 たいした理由はない。ただ、夢の欠片にすがりついていると言った方が正確だ……。もう、ほとんど諦めてるけどな。


「まあ、パソコンとか好きだし、そんなとこ?」


 すると、リカは俺の目をじっと見据えて、


「本当はなにがしたいの?」


 と、聞いてきたんだ。結局、俺はうまく答えられなかったよ。

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