第16話 オタクは据え膳なんて食べられないよね
アパート1階の6号室が俺の部屋だ。2階じゃなくて、本当、良かったよ。
「リカ。しっかりしろ」
「うん……気持ち……悪い」
ようやく、家の中にリカを入れる。やべ、汚部屋のままだったわ。
とりあえずソファに座らせ、水を準備する。
「ほら、飲めよ。リカ」
リカは力なく頷いて、水をコクコクと飲む。
そうして、どさりとソファーの上に横になる。
「ま、好きなだけ眠ってろよ」
やがて、くうくうと可愛い寝息が聞こえてきた。
俺ので悪いけど、毛布を肩まで掛けてやる。
俺も疲れて万年床の上に倒れ込むと、布団にくるまって眠ってしまった。
本当に疲れた……。
夜の2時頃だったろうか。
ん? 誰かが俺の腰に手を回してる。怪奇現象か?
ぐるっと回転すると、そこには下着姿のリカがいた。
こいつフリルのついた下着なんか着けてやがる。
しかも、目を瞑ってる。まだ、酔ってんのかよ。
やばい! 俺はまたぐるっと回転する。あまりにも刺激的な姿だよな。
俺の波動砲にエネルギーが充填されてるのが分かるぜ(宇宙戦艦ヤマトを参照セヨ)。古代艦長、セイフティーロック解除だけはしないでくださいよう。
すると、後ろでくつくつと笑うリカの声が聞こえる。
「酔わせた女の子を自分の部屋に連れ込んで、一緒に抱き合って眠るなんて。お前は何て悪い男なんだ」
はあ! 何言ってんだ、こいつ! 俺はまた、回転してリカと相対する。
「リカ! お前、ヤリサーから助けてやった恩人に向かって何だよ! 俺はな……」
最後まで言わせず、リカが抱きつく。
おいおい、柔らかいな。
「うん。分かってる。本当にありがと」
と話すと大きな声で泣き出した。
「ケンジ~。怖かったよう。あいつら私に触ってくるし嫌だったよう」
俺はぎこちなくリカの髪を撫でる。
あんな汚い場所にいたにもかかわらず、リカの髪からはいい匂いが漂ってくる。
でも、本当によかったよ。
「あれあれ? ケンジくん。私に何か硬いモノが当たってんだけど」
いつものリカだ。くそう、こんな時までからかって。
「俺だって健康な男子なんだよ! こんな状況じゃ、俺のエクスカリバーだって大きくなるさ」
「何? エクスカリバーって?」
すると、リカは俺の上に這ってくる。
片手で髪の毛をかき上げて、俺を見下ろしてくる。くそう、胸がでかい!
「ケンジなら、いいよ……」
何がだよ。
「助けてくれた、お礼」
その瞬間、俺はリカの肩を掴んでその場に座らせる。
「リカ、お前、オタクをなめてんじゃねえぞ! 俺がお前の身体目当てで助けに行ったとでも思ってんのか?」
「え、ち、違うけど」
俺が逆の方向でいきり立ったため、リカはきょとんとしていた。
「お前が大事な友だちだからだよ! ヤリサーの奴なんかに騙されるのが嫌だったんだ」
「友だち……」
「ああ、友だちだ」
「じゃあ、サキさんは何なの?」
何でここでサキさんの名がでてくるんだ? まあ、いいか。
「サキさんも、大事な友だちだよ」
すると、リカはなぜか安堵の笑顔になる。
「そっか、サキさんも友だちかあ」
何だこいつ? 女ってわからねえ。
「俺はなあ、笑ってるお前が好きなんだ。何て言うか一緒にいると元気になるし。それに幼馴染みだしな」
「え、好き?」
リカは明らかに動揺している。とりあえず、その部分は無視だ!
「大事な友だちの泣いた顔は見たくなかったんだ、それだけだよ」
「うん、それは分かったよ。で、何で私に触らないの?」
リカは自分のおっぱいをブラ越しに持ち上げてる。
俺は理性をフル活動させる作戦に出る。
よし! 素数を思い出せるだけ考えろ! 1,3,5,7……
それなのに、リカはさらに近づいてくる。
素数も無理!! って、奇数?
顔が近いよ! 近い! もう、あれしかねえ。
「馬鹿、お前! メイド諸君って漫画、見てねえのか?」
「メイド諸君?」
リカの接近がピタッと止まる。
「ああ、俺たちの心の叫びが書かれてるバイブル的な漫画だ。心惹かれた女の子が、処女じゃないと分かった瞬間の主人公の慟哭が切ないんだ!」
「なんで処女じゃないんですか!!!! って!」
リカはポッカーン状態だ。
「お前だって、将来の旦那にそんな思いをさせるのは嫌だろ!」
リカは心底呆れたという顔で溜息をつく。
「はあ、まともに聞いて損しちゃった。じゃあ、私、寝るね」
そう言うと、布団を被って眠ってしまった。俺……やらかしちゃいました?
童貞こじらせて、据え膳をひっくり返しちゃいました?
こんなにナイスバディーの女の子が、裸同然の格好で迫ってきたのに……。
あ~あ、これだからオタクは……。
背中を向けて、俺が後悔していると、
「馬鹿」
小さな声が聞こえた気がした。
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