第15話 やりサークルって、滅びればいいにって思うよね
大学ってダルいよな。俺みたいに、なりたい自分が決まってなかったら特に。
サキさんみたいだったら、充実してるんだろうな。
今日の俺の横には、高校の時と同じくスズキが歩いている。
学部は違うけど、よくつるんでいる。リカは最近、忙しいみたいだ。
大学に入ってから、目まぐるしく時は過ぎていった。
俺は、とにかくバイトをする必要があった。
東京まで行くには新幹線じゃなく、飛行機を使わなければならない。
1ヶ月、フルで働いて、ようやく往復の航空券が買えるんだ。
その苦しさがサキさんへの想いを忘れさせるって?
馬鹿いうんじゃねえ。オタクの一途、なめんなよ。
そうして、初めてのお給料をもらった俺は、スズキと一緒に居酒屋に出かけていた。この居酒屋は安くて、旨い。スズキ、俺の金だからと散々飲み食いしたら、バイト代が0になっちまうぜ。
「そうだ! ケンジ、最近リカちゃんと話したか?」
「あ? 話してないな。バイト、忙しいし」
すると、スズキは顔色を変えて俺に顔を近づける。
「さっき、リカちゃんが自転車サークルの飲み会に連れて行かれてたぞ!」
「馬鹿!! あいつ、何やってんだよ。ヤリサーじゃん」
「飲み会に行けなくなった子が、リカちゃんに代理をお願いしたらしい。でも、その女は男とグルだ。俺、偶然聞いたんだ。『上手くいった』って」
大学にも馬鹿がいるんだなと、俺は不快になる。
「で、どこに行ったんだ?」
スズキは本当にいい奴だ。
「俺、その女に話しかけたんだ。今日から自転車サークルに入りたいって。そしたら、代表は東広町の『トニックショット』ってクラブにいるって教えてくれたよ。オタクが何言ってンのって感じだったけど」
すぐに『東広町、トニックショット』を検索する。
「今、何時だ?」
「21時!」
こっからだと、バスも電車も時間がかかる。
タクシーしかないな。
「スズキ! サンキュウ。俺、ちょっと行ってくるわ!」
「おお。リカちゃん守れよ! あと、ここの会計忘れないでね」
ちゃっかりしてやがる。でも、スズキ。本当にありがとう。
俺は財布の中身を確認する。今日、もらった給料は5万。スズキに奢って残りは4万5千円しかない。東京までの往復航空券は4万円なんだぜ。
(恨むぜ! リカ!!)
タクシーを止め、東広町のトニックショットと行き先を告げる。
当然、急いでくださいとお願いする。すぐにタクシーは、音を立てて走り出した。
メーターの数字が次々と変わっていく。
3000円が過ぎる頃、ようやくそのクラブの前についた。
残り4万2000円!
店構えがギラギラで腰が引けるぜ。俺の服装で大丈夫か?
へっぴり腰で中に入ろうとすると、黒い服のお兄さんが呼び止める。
「お兄さん。自転車クラブの人?」
「あ、あ、そう、だけど」
とっさに嘘をつく。
「じゃ、会費3万ね」
「えっ? 3万?」
すると男はニヤニヤしながら、
「安い安い! お兄さんだって、そのつもりで、きたんでしょ」
クソが! でもバレたらまずい。
すぐに3万出して、ぎごちなく中に入っていく。
残り1万2000円!
俺はクラブなんてテレビでしか見ていない。
きっつい香水の匂いと汗と煙草の匂いが入り交じっている。
店内はめっちゃ薄暗い。しかも、うるせえ!
でも、思った以上にここはヤバかった。やっちゃってるじゃん、そこで!
暗い中、俺はリカを探して、うろうろする。
いた!
何だ? 上のガラスの箱みたいなところにいやがる。
リカはぐったりして、あまり動けないみたいだ。
おい、肩を抱かれてるじゃん! 俺はそこに上る階段に足を掛ける。
すると、別の黒服が行く手を遮る。
「この上はVIPルーム。ただでは行けないわ」
口に手を当てて、片目を瞑っている。ゲイかよ。俺は必死で頼みこむ。
「この上に幼馴染みがいるんだ! 頼む! 通してくれ!」
「上に行くには5万円かかるわよう。貴方の幼馴染みさん、モテモテのようね」
俺は財布の中から1万2000円を取り出す。
「今、これしかねえけど、通してくれたら来月に残りを必ず持ってくる。必ずだ! 頼む!」
俺は思わず土下座してしまう。
ゲイは静かに俺から金を受け取ると、胸ポケットに金を捻り込む。
「まあ、いいわよう。貴方の幼馴染みさん、助けてあげるといいわあ」
とウインクする。
俺はゲイに一言だけお願いをし、全力で階段を上っていった。
キイキイと耳障りな音をさせながらガラス箱のドアを開ける。
「え、え~。リ、リカを迎えに来た……んですけど」
キョドる俺だが、頭から血の気が引く。
こいつら、もうリカの周りを取り囲んでやがる。犯罪だぞ!
「あっ? お前、誰だよ!」
近くにいたチャラ男が笑いながら話しかけてくる。
何だ? 薬でもキメてんのか?
「俺は友だちだよ」
すると、チャラ男はゲスな笑いを顔に浮かべる。
「お友だちは帰るんだな。リカさんはこれから俺たちとお楽しみだ!」
こいつら大学生に見えねえよ。
俺はおもむろにポケットからスマホを取り出す。
「いいのか? この会話は全て録音されてます」
明らかにチャラ男はひるむが、代表らしきヒゲ男は動じない。
「それは、お前がこれから消すだろうよ。痛い思いをしたくなかったらな」
チャラ男3人が近寄ってきた瞬間、後ろのドアが開く。
「チャラさ~ん。今、表にパトカー来てるけど」
明らかに代表はビビっている。
「ねえ、このままじゃあ見られちゃうわよ。下でやってる子たち、どうすんの?」
主犯はリカを立たせると、俺に突き出した。
「ほら、返したぞ。警察にちゃんと説明しろよ! 何もしてないんだからな!」
リカをモノみたいに扱いやがって、クソが! 俺はリカを背負ってガラス部屋のドアを開ける。最後に釘さしておかないとな。
「もう、リカに関わるなよ。関わったら、この録音と下の階のビデオ動画を大学と警察につき出すからな!」
俺を睨み付けてきたけど代表は力なく頷く。俺はゆっくりと階段を下りていった。
店から出るときに、あのゲイの黒服がドアを開けてくれた。
「あなた~、かっこよかったわよ~」
「いえ、助かりました。で、残りのお金ですが」
すると、黒服は胸ポケットから1万2000円を取り出して、
「これは、お車代で~す。お金はいらないわ。もう、ここには来ない方がいいわよ」
と、言って俺たちの背中を押してくれた。
ぐったりしているリカをタクシーに押し込んで、俺も横に乗り込む。かなり酒を飲まされたみたいだな。
「お客さん、行き先は?」
やべえ。俺、リカのマンション、知らないわ。実家は遠すぎる。
しゃあねえ、俺のアパートにすっか。
俺のアパートに着いたとき、タクシーメーターは割増料金で7000円を示していた。
1日でバイト代が十分の一になったぜ。
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