第44話 ホントに逢えた!

 折り返すことを期待しているのだが、一向にその気配がない愛(?)犬コロ。


 もぉ~…このバカ犬、一体どこまで歩くんよ?今引き返してもキツイっちゅーんに、たいがいしてほしー。

 訳:いい加減にしてほしい


 不貞腐れて犬についていくことかれこれ数10分。

 あれから2本の橋を通過した。


 3本目の橋が見えてきたところで、


 まだ帰ろうとしやがらん。このまんま、リード放して犬ほたくって帰ろっかな。「コケたら逃げた」っち言い訳、通じるよね?

 訳:犬ほったらかして


 ボチボチ体力の限界が見えだしたので、よからぬことを考えだす始末。

 そんな時、橋の下に釣り人発見。

 どうやらその人は魚を掛けているらしく、沖の水面ではバシャバシャと水しぶきが上がっている。


 お。釣れちょーんかの?

 訳:釣れてるんじゃないの?


 何の気なしにその様子を見ながら歩いていると、


 ん?あれっち…。


 その男子にはどうにも見覚えが。

 というのもヒジョーに孝満みがあるのだ。

 が、しかし。

 目がオニのよーに悪いため、メガネを装着しているにもかかわらず、確信が持てない。


 ホントにタカくんやろか?


 そのまま近付いていく。


 だんだんと姿が明らかになってきたけど、やっぱり本人にしか見えない。

 一気に早まる鼓動。

 自然と早足になる。

 かなり近づいたとはいえ、いまだ本人と確認できておらず、確認できる距離まで行くがどうか決めあぐねていた。

 結局は、


 本人やなかったらすぐに離脱すればいいや。


 ということにした。


 いよいよ近くなってくると、土手の斜面には草を踏み倒してできた道がある。


 この道使って下りたんやろーね。


 とか考えていたら、コロは躊躇なくその道を下りだし、突如、釣り人に向かって加速する。


「うわっ!ちょ!コロ!」


 鈍さに定評のあるセイコは斜面でいきなり走られたものだから、咄嗟に反応ができず足が滑り、バランスを崩して派手にコケた。

 その時反動でリードを離してしまう。


 ウソ?ちょっ!


 抵抗のなくなったコロは、ものすごい勢いで釣り人に駆け寄って行く。

 近い未来に起こると思われる最悪な映像が脳裏をよぎる。


 それは…


 太腿にしがみつき、腰を振る映像。

 飛びかかった相手が犬を好きかもわからない、というのも怖かったりする。


 あの人、パニクったらどげしよ?


 色んな意味で青褪めるセイコ。


 コロはというと。


 飛びついたかと思うと、案の定腰を振っている。

 ●ンポの皮を突き破り、赤黒いソーセージみたいなモノがビローンと伸びている。それを飛びかかった相手の足に擦り付けていた。

 ここで、


 ペットは飼い主に似る。


 という言葉が頭の中を駆け巡り、


 あ~んもぉ。ウチ、好きな人にそげなことせんぞ…多分。恥ずかしいやんか。


 とんでも展開に泣きそうになる。




 魚を取りこんだ直後に飛びつかれ、


「うわ。」


 変な声を上げ、サオと魚を持ったままビックリしている男子。


 近寄ってみると、やはり孝満だった。

 コロのことを恐れている風ではないが、それはそれとして申し訳なさがハンパない。


「く、草杉くん!ごめ…」


 息が上がってしまい、何回かコケながらもやっとのことで辿り着く。


 突然の超絶気になる女の子の登場に、


「へ?木藤さん?」


 犬に飛びつかれた時以上にビックリしている孝満。


「ちょ!コロ!やめんか!」


 今も尚、腰を振り続けるコロの頭をひっぱたき、リードを引っ張り引き剥がす。

 そして、


「バカ!飛びかかったらダメやないね!」


 泣きそうな顔をしながら犬を叱り、続いて


「ご、ごめんね!い、いきなし走りだすもんやき、こ、コケてリードから手が離れた。ケガしちょらん?」


 顔を真っ赤にしながら謝った。


「いや、しちょらんばい。大丈夫。オレ、犬好きやし。」


 そんな孝満の顔に嫌悪感は一切ない。

 解放された孝満は、魚の口からハリを外しながら、


「こげんとこまで犬散歩させよぉって?でったん遠くない?」


 聞いてみると、


「い、いや、そ、そーじゃないでね、たまたま…ひ、久しぶりにね、ウチが散歩させたらね、いっつも引き返すところでね、引き返さんで…ここまでね、来てしまったん。」


 ということらしい。


「そらまた…なんか、大変やったね。」


「うん。」


 セイコは体力的にも非常にヘボいことを知っている。

 心配になったので、


「帰り、大丈夫?」


 聞いてみたら、


「が、頑張ってみる。」


 なんとも渋い返事が返ってきた。


 これは家まで送ってあげないと!


 決心する孝満なのであった。



 会話が途切れたところでポケットからスマホを出して、


「魚持ったとこ、写真撮ってくれる?」


 カメラを起動させ、わたす。


「わ、分かった。」


 受け取ると、カシャ!さらにカシャッ!


「こ、これでいい?」


 写りっぷりを見て、


「ありがと。」


 さらに、


「嫌じゃないなら木藤さんも魚持ってみる?んで、持ったとこ写真撮っちゃっか?」

 訳:撮ってあげようか


 孝満の計画的犯行。

 セイコの写真が欲しいのだ。


 あまりにも嬉し過ぎる提案だったもので、


「う、うん!も、も、持ってみる!」


 食い気味に返事してしまう。

 幸いなことに生きている魚は全然怖くない。が、今の反応を思い出すと、ちょっと恥ずかしくなった。




「こーやって持ったらいいき。」


 手本を見せる孝満。

 右手親指を魚の口の中に入れて下アゴを掴み、左手の掌で尻ビレの後ろを支え、クイッと上に曲げる、テレビでの撮影時、魚が大きく見える持ち方を教えると、魚を一旦草の上に置く。


「これ、持っちょってくれる?」


 コロのリードを孝満にわたすと、早速挑戦。

 しゃがんで魚を持とうとするセイコ。


 と、その時、事件は起こる。


 横に立ってその様子を見ていた孝満は、しゃがんで大解放したTシャツの中身を思いっきし奥の方まで見てしまったのだ。

 真正面から見る分にはバッチリ隠れていたのだが、上からだと覗き込むような目線になってしまう。


 圧巻の光景だった。


 デカ!谷間、でったんスゲーき!!


 超絶感動である。


 が。


 直後、激しく湧きあがってくる罪悪感。


 目ぇ逸らさんと!


 思ってはいる。


 しかし。


 あまりの絶景に、目が離せなくなってしまっていた。


 暴れる魚に悪戦苦闘中、首元の開きっぷりに気付いてしまい、


「ぅわっ!」


 手で押さえるが、時すでに遅し。

 恐る恐る孝満の顔を見上げる。

 すると…耳まで真っ赤にしながらをあっち向いている。

 このリアクションですべてを察したセイコ。


「草杉く~ん…い、今、む、む、胸、見よったやろ?」


 ジト目で問い詰める。


「いや…み、見てない…よ?」


 咄嗟にウソを吐いたものの、あまりに下手過ぎる。


 も~…顔、真っ赤過ぎるし!


 バレバレである。


「…か、顔、でったん赤いっちゃけど?…ウソツキ…」


 プーッと膨れ、怒ったフリをする。

 これがまた、異常なほどに可愛らしい。


 のは、いいとして。


 正直に言ったところで気まずくならないのはこれまでの付き合いで分かっている。

 だから、


「ごめん。ホントは見えた。」


 白状すると、やっぱり


「よろしい。」


 耳まで真っ赤にしながらも、許すのだった。



 気を取り直し、再度挑戦。

 なんとか言われたとおり魚を持って、


「こ、こぉ?」


 孝満の方を向くと、


「うん、そう。ちょっとジッとしちょってね?」


 ポーズをとらせ、


 カシャッ!カシャッ!


 何枚か撮って確認すると、


 !!!


 孝満が赤面している。


 はっ!


 嫌な予感がした。

 体勢を変えたときの乳首の擦れ具合で、隠れていた中身が頭を出していることに気付いてしまったのだ。


 ということは?


 写真に写ってしまっているということ。


「ちょー、写真見して!」


 ほぼ叫んでいた。

 素直に見せる孝満。

 予感は的中していた。

 クッキリと二つのポチッが浮き出ていた。が、しかし、恥ずかしくて言い出せない。

 ひとまず魚を草の上に置いて、


「ちょー待ってね。」


 あっちを向き、真っ赤になりながらボタンを閉めている。

 準備が整うと、再度魚を持ち、


「…お、お待たせ。もっかい撮って?」


 カシャッ!…カシャッ!


 撮り直させた。




 記念撮影も無事終了したので、


「…お、お魚、どげんする?」


 聞いてみると、


「そのまんま逃がしてくれる?」


 逃がしてくれ指令が出たので素直に従うことにする。


「うん。ど、どげんしたらいいん?」

 訳:どうしたらいいの?


「ん~っとね、下アゴ持ったまんま水に浸けてね、ソローっと指放しちゃったら勝手に泳いでいくよ。」


 言われたとおりにすると、指を解放した瞬間、


 バシャバシャッ!


 水をぶっかけ、勢いよく深場へと消えていった。


「うぇっ!」


 まともに水を引っ被り、薄いピンクのTシャツの胸の部分が透け透けになってしまっている。←写真を撮り終わると暑いので開けた。

 水が非常にダメなセイコはパニクって咄嗟にシャツを捲り上げ、顔を拭いている。おかげで下乳モロ見え(スポブラで包まれてはいる)という、かなりきわどいことになってしまっていた。

 拭き終わると同時に、


「ぅわっ!」


 何をやらかしたか理解して、捲り上げたTシャツを急いでおろす。

 水を含んで透け透けになったTシャツは、ブラの模様や色、形までくっきりと浮かび上がらせた。

 そのコトに気付いてしまったため、あっち向いてしゃがみこんでしまう。

 あまりにも見ちゃいけないタイプの動揺だったため、孝満は、


「濡れたやろ?はい、これ。拭き?」


 急いで首にかけていたタオルをセイコにわたし、反対向いて見てないことをアピール。



 乾くまで極力見ないようにしながら釣りを再開する孝満。

 しばらく投げては巻き、を繰り返していたけど何かを思い出したように動きが止まり、


「撮った写真、送っちゃーきワン切りして?」


 スマホを差し出してきた。

 恥ずかしくてどうしても聞くコトができなかった電話番号。思わぬ形で知ることになってしまった!

 奪い取るように受けとり自分のスマホに電話する。


 これでショートメールできる!


 とか思っていたら、勝手にLINEまでつながっていた。

 心の底から大収穫である。


 これでいつでもメッセージやり取りできる!


 喜んでいると早速、


 ピロン。


 LINEの着信音。

 画面には「たかみつ」の文字。


 嬉し過ぎる!


 喜び過ぎて、なんだか泣きそうになってしまう。

 開いてみると、嬉しさを隠しきれていないデレデレ笑顔の自分…と、40UPのブラックバス。


 うっわ~…これ、好きっちバレん?


 心配になってくる。


 でも、それはそれ。

 欲張りになって、


「く、草杉くん写ったのも送って?」


 と、調子こく。

 言った直後、モーレツに後悔…したものの、照れながら、しかし嬉しそうに、


「はい。」


 ピロン。


 見るとちょっと引き攣って笑顔になりそこなった孝満の顔。とはいえ男性アイドル並みにカッコイイし、なんとも愛おしい。


 永久保存版やね!


 思わずご機嫌になった。

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