ぼっちな俺はソロ充を満喫したいのにギャルが邪魔する

三葉 空

第1話 陰キャとギャル

 ぼっちは蔑称。


 けど、その状態は、至高。


 少なくとも、俺にとっては。


 誰にも邪魔されない、自分だけの時間。


 忙しなく、否応なしに人と関わることを強要されるこの現代社会において。


 それは何よりも、かけがえのない時間。


「ふぅ……」


 休日、俺は小高い丘のベンチにて腰を落ち着けつつ、飲料を含む。


 初夏で、今日は夏日、最高28度ほど。


 だから、事前にスーパーにて、スポドリを買っていた。


 水やお茶は不純物は少ないけど、利尿作用が高いから。


 これが、ベターなチョイスだと思う。


 下方、中央の広大な遊具エリアでは、親子連れがキャッキャとハシャいでいる。


 その風景をぼんやりと見下ろす俺は、1人ぼっち。


 でも、それで良い。


 誰にも邪魔されない、自分だけの時間。


 それこそが、何よりも至高。


 ぼっち、万歳。


 美しい緑の風景を目に留めながら、俺はスポドリを飲む。


 その時、


「……はぁ、ふぅ」


 と、妙になまめかしい声がした。


 俺は内心で舌を打つ。


 別にここは俺だけの場所じゃないから、仕方がないけど。


 もう少し、この1人の時間を満喫させて欲しかった。


「よいしょっ……あ、ベンチがある」


 金髪の、ギャルだった。


 しかも、黒ギャル。


 俺みたいな陰キャとは相対する、陽キャの代表格。


 ますます、気分が沈み、同時に苛立つ。


 仕方ない、ここは早々に立ち去ろう。


「よいしょっ……ふぅ」


 ギャルはベンチに座った。


 同時に、俺は立ち上がろうとする。


 しかし……


「……あっ、飲み物がない」


 全く、これだからギャルは。


 この夏日に飲み物を携帯していないとか、アホだろ。


 ていうか、ギャルのくせに、どうしてこんな疲れるとこまで来てんだよ。


 そもそも、ギャルのくせに、どうして1人なんだ?


 彼氏とケンカでもしたのか?


 と、勝手に思考を巡らせていると、ふいにギャルがこっちを向いた。


「あ、スポドリ……美味しそう」


「えっ」


 おいおい、まさか、この女……初対面の相手、しかも男に対して……


「あの、すみません。ちょっと、喉がかわいて……でも、飲み物を買い忘れちゃったから……恵んでもらえます?」


 ギャルって、本当にコミュ力おばけな。


 ていうか、女って良いよな。


 これが逆なら、即タイホ案件だから。


「いや、でも……口つけてるし」


「大丈夫、お兄さん、けっこうイケメンだから」


 どこがやねん。


 どっからどう見ても、クソ陰キャだろうが。


 この女、目が腐っているのか?


 ああ、目が腐っているのは、俺の方か。


 よく、死んだ魚みたいな目をしているねって、言われるし。


「か、彼氏さんとかに悪いし……」


「彼氏なんていないよ」


「そ、そうっすか……」


「ねえ、お願い。何なら、お金を払うから」


「いやいや、そこまでは……」


 俺はため息を吐く。


 そして、悩んだ末に……


「……どうぞ」


「ありがとう~♪」


 差し出すと、ギャルは嬉々として受け取り、


「いただきま~す♪」


 ゴク、ゴク、ゴク。


 よほど喉が渇いていたのか、一気に飲んで行く。


 その際、口から液体がこぼれて……垂れる。


 2つの大きな山の谷間に。


 それは、先ほどまで堪能していた、緑の風景よりも……


「……ぷはっ、生き返る~♪」


 結局、最後まで見てしまった。


 別に、そんなエッチなシーンでもないのに。


 静まれ、俺の心臓と股間よ!


「あ、てかゴメン、ぜんぶ飲んじゃった」


「いや、まあ……良いっすよ」


「じゃあ、お詫びに、下であたしがジュースおごるから」


「いやいや、別に良いっすよ」


「でも、それじゃ、あたしの気が収まらないの」


 気よりも、そのはだけた大きなモノを収めてください。


 ずっと、股間がムズムズしちまうんだ、ちくしょう!


「困った時はお互いさまだから」


 と、俺はありきたりなことを言う。


「え~、中身までイケメンとか、惚れる~♡」


 ギャルってやつは、本当に……


 まあ、安心しろ。


 俺は自分が決してイケメンじゃないことは知っている。


 だから、ちょっと可愛くて巨乳のギャルに褒められたからって、決して調子には乗らない。


「てか、1人?」


「俺?」


「うん」


「まあ……」


「実は、あたしも1人なの」


「えっ、マジで?」


「うん、マジマジ」


 思わず声を上げた俺に、彼女は苦笑する。


「たまには、1人になりたいな~、なんて思ったんだけど、やっぱりちょっと寂しくて……」


「はぁ……」


「だから、お願い。今日だけ、あたしとデートして?」


「…………」


 思考がフリーズドライしました。







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