この大会が終わったら、引退します

ナナシリア

この大会が終わったら、引退します

「この大会が終わったら、引退します」


 天才新入生と呼ばれた明石さんが、わたしに伝えた。


「え? 引退? どういうこと? まだ一年生じゃん。え?」


「文字通り、引退です。バレーはもう極めたので、別の競技をやりに行きます」


 確かに、明石さんの言う通り彼女はバレーを極めたのかもしれない。


「でも、せっかく上手なんだから続ければいいんじゃないの?」


「いえ、わたしがこのくらいできるのは当たり前です」


 彼女は天才の呼び声高く、実際にその通り天才だった。


 紛れもない天才だったけれど、彼女は天才すぎた。


「待って、明石さんがいないとこの弱小零細バレー部が……」


「……すみません」


 彼女は申し訳なさげに謝りながらも、バレー部を続ける意思はないみたいだった。


 明石さんが入ってくれたこの数か月間が特別だったんだと言い聞かせようとしても、忘れられない。


 明石さんが入ってから、わたしたち二、三年生も彼女に引っ張られて成長していた。このままいけば、そう思っていたのに。


「そっか……どうしても、辞めるんだよね」


「はい。もっといろんなことをやりたいので」


「じゃあ、せっかく数か月一緒にやったんだから、お別れ会くらいはやらせてよ」


「いいんですか? わたしは、言ってしまえばバレー部を裏切るんですよ」


 天才である彼女も、後ろめたさは感じているみたいだった。


 でも、バレー部は彼女にいい影響を受けたんだから、温かく送り出すべきだ。


「だって、仲間だから」


 わたしが言うと、彼女は涙を零した。


 そこまでのことは言ってないんだけどな。


「明石さん、いつ報告するの?」


「部長以外の皆さんには、この大会が終わった後に報告します」


「じゃあ、とりあえずこの大会、一緒にがんばろ!」


 明石さんは頬を濡らしたまま笑顔になる。


「***、*******」


 聞き取れなかったけど、明石さんがなにか言ったみたいだった。

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この大会が終わったら、引退します ナナシリア @nanasi20090127

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