川を流れるもの

千織

あれは、何だったのか

ある男がよ、山ん中さ入っで、川さ罠仕掛げだのす。

しばらぐ山のもの採っだりして時間を置いでさ、まだ戻って来たのす。


罠に引っかかっだ魚っこ見るべって近づいたらよ、太くて長ぇ綱よんた物が岩さ引っかがっでらのす。


恐る恐るそばで見るど、表面は滑らかで、白っぽくてぶよぶよしてらんだ。

まるで豚や牛の腸みたいなのだったのす。


男は気味悪くで、川さそのまま流すべって、近くさあった木の棒で岩がら剥がしだのよ。


その気味悪ぃ綱みでのは、そのまま流れでったのす。




流れが緩やかなとごろに差し掛かっだどぎ、そごに三人の童ど一人の先生が川遊びしてらんだ。


その綱は、童の一人の方さ泳いでっで、脚さ絡みづいで噛みづいだのよ。


「いでぇっ!!」


って童の叫び声がしで、驚いだ先生が駆け寄って見だらよ、綱の先が口みてぇになって、童の脚の肉を食ってらど。

血がどばどばど出て、川が赤ぐなっでよ、肉はあっどいう間に食いちぎられで骨が見えでらのす。


「いでぇ!! いでぇ!! せんせ、助けでじゃあっ!!」


童ば泣き叫んでよ、先生はその綱を強ぐ引っ張って、童の脚から外したず。

するど、ちょうど綱の膨らんだどごが掴まさってよ、綱の反対側の先から押し出されだように、細いミミズよんたのがたくさんたくさん出できたのす。


先生は叫びながらその綱こば川の遠くに投げ捨てでよ、脚食われだ童さ背負って逃げだのす。

他の童も一緒なって村さ走って帰ったんだ。





童の食われだ脚の先はみるみる間に腐ってしまってよ、可哀想だけども、切るしかなぐなっでしまったのす。

そんなおっかねごどあって、村が大騒ぎしでらどぎに、村の猟師が猪担いで帰っで来たど。


なんたら騒がし。

大変なことがあったのだが、気の毒に。


なんて、話をしてだらよ、話してらおっ母が、


「その猪の尾っぽがら出でらのは何だべ」


と言ったなす。


置いでら猪の尻のあだりがら、にゅるにゅるど腸のようなものが出で来たのす。


「なんだ? 死んだどぎに何が腹でも押ささっだべが」


と、猟師が言って、掴もうと手を伸ばしたら、いきなりそいつが噛み付いできたのよ。

猟師の薬指と小指を食いちぎっで、さらに腕に絡みつこうとするのす。


おっ母は叫んで、その場がら逃げで、助けを呼んだど。

猟師は近くにあっだ鉈で、そいつの胴体を切ってやっだのす。


そいつは切っても血は出ねくて、透明なぬめぬめした液体が出てくるのす。

さらに、その液体は魚の腐ったよんた臭いを撒き散らすんだ。

猟師はなんとかそいつの頭掴んで、引き剥がして、投げ捨てでよ、隣の家さ逃げ込んだず。



村の男らが武器を持って駆けつけたときには、そいつはもういねくて、ぬめぬめした液体の跡が川に向かってついていたんだず。

猪ばあらためると、中身はすっかり食い尽くされで、骨ど毛皮だげになってらんだど。



山さはおっそろしい知られでねぇ生き物がいるのす。

油断するなや。

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川を流れるもの 千織 @katokaikou

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