そこにはいつもの探偵はいなかった
彼女は、天才で美少女の名探偵は俯きながら
「…………ふふ、やっぱり君は面白いことを言うね。……ボクのことをこんなにわかってもらえる人なんて初めて見た。人生で…………初めて――――――」
その瞬間、ガチャリと俺の手首からなにか嵌まる音が鳴った………
――
「……………ははっ……まじかよ………」
その音の正体は―――手錠だった。
その手錠は探偵の手首と俺の手首に繋がっている。
いやまさか、この状況で手錠を掛けてくるとは思ってもいなかった。
「……………」
「……………」
沈黙が訪れ、辺りに風が靡く。
この静寂を破るためにその俯いている探偵に声を掛けようとした。
「…これ外してくれな――――――」
その瞬間。
ジャラ…!!
手錠の鎖が思いっきり引っ張られる音がした。
俺は、手首につけられた手錠が探偵により引っ張られ前へと放り出され、俺の顔と探偵の顔がすぐそこまでの距離になった。
そこで探偵は俯かせていた顔を俺に向けた。
「あはっ……あははっ…!!」
探偵の顔は正気ではなかった。
彼女のエメラルドのような瞳は、どす黒く染まっていて、そこには俺しか写っていなかった。
ジャラ…!!
また鎖の音がした。
「やっぱり君は凄いよ!! 厳重な体制の宝石でさえも、いとも容易く盗む、そして―――ボクの心さえも盗んだだから!!」
「な、なにをいって――――」
こんな急な変化、俺でさえもなにがなんだか分からない。
「ついさっきまで君を牢屋に入れようと思ったけど、やめるよ! 君はボクのものなんだから、ね!?」
俺は探偵の急激な変わりに固まっていた。
「どうして―――」
「どうして? …ひどいなぁ、ボクの心を盗んだくせにね?」
何を言ってるんだ。
その言葉だけが頭に浮かびあがる。
探偵には仮面を被っている俺の表情は見えないだろうが、かつてないほどに酷いものになっている。
そこである一つの考えたくもないことが、ふと浮かんだ。
この距離、体勢、手首に手錠、そして仮面。
このままでは、仮面が取られてしまう…!!
そのことに気がついた時には遅かった。
探偵の手が、俺の仮面へと触れていた。
「そういえば君って仮面外したことないよね? …あははっ! やっぱり好きな人の素顔は知らないとね?」
仮面が外される瞬間。
「「「ここら辺だ! あの怪盗が降りた場所がここだ! 探せ!!」」」
複数人の男性の声が近くで聴こえた。
「これは、警備隊の人達…?」
探偵が仮面を外そうとした手を止める。
そして同時に隙が出来た―――
…
……
………
「「「ここら辺だ! あの怪盗が降りた場所がここだ! 探せ!!」」」
ボクが怪盗の仮面を外そうとしたとき、複数人の男性の声が近くで聴こえた。
「これは、警備隊の人達…?」
なんで今? と怒りのような呆れが出てきた。
せっかくボクの怪盗の仮面を取ろうとしたのに。
そんな事を思っていると、急にボクの手首が重くなった。
重りがつけられたような。
ボクの手首には、怪盗と繋げるように手錠を付けていたはず……
そして、はっ!? とボクの手首を見ると、手錠がぶら下がっていた。
ボクがあの警備隊の声に気を取られている間に、怪盗は手錠を外したのだ。
「流石に仮面を外されるわけにはいかないからな。……何があったのか知らないが、また会おう。名探偵」
「まっ、待って――――」
ボクが怪盗に手を伸ばそうとしたときには、怪盗はそこには居なかった。
居なかった?
居なくなる?
逃げた?
逃げた?
逃げた――――――――
逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた
…………ふふっ。
ボクはニヤァ〜と口角をあげながら、
逃さないよ? ボクだけの王子様。
…
……
………
一人疲れ切った表情をした男がどこかの屋上へと立っていた。
「また会おうとか言ったけど、正直もう会いたくねぇんだよな……」
明らかにあのときの探偵はいつもと違った。
「しっかしまぁ、どうせこの怪盗が続く限りまた会うんだろうな」
……………
「あ、そういやうちのクラスにいるんだったな、あの名探偵…………………」
屋上に立っている男は知らない。
この先、あの名探偵シャーロット・ホームズがさらにヤバくなっていくことを。
有名な怪盗の俺はライバルの美少女天才名探偵にいつの間にか重すぎる愛を向けられていた。 ふおか @Haruma0000
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