有名な怪盗の俺はライバルの美少女天才名探偵にいつの間にか重すぎる愛を向けられていた。

ふおか

俺のライバル






「さぁてと、あとはここから脱出するだけだな」


ある一人の仮面を被った謎の男…が豪華な屋敷を走っている。

その男は、屋敷の誰もいない窓に近づき窓を開けようとした。

男はここから飛び降りるつもりだろうか。

だが男は疑問に思った。

やけに人がいなさすぎることに。

そして男はふと窓から下を見ると、沢山の警備隊が待っていた。

どういうことだ? と声を出した時、右耳から、《コツ、コツ――》と音が鳴った。


「残念だったね。怪盗さん?」

「誰だ!?」


屋敷の辺りは暗く、同時に外も夜だ。

ただ一つの月によってしか光がない。

だからその声の正体が誰かわからなかった。

そしてその声の持ち主がその男の方へと近づく度に月の光によって照らされ、顔がはっきりと映った。


茶色の帽子とコートのようなものを纏い、金髪の肩に掛かるか掛からないぐらいの短い髪、そして何でも見透かすような緑の瞳。

そして宝石のような美しい顔。

その男性は一瞬だけ彼女に目を惹かれていた。


「ボクは誰か? …ボクは探偵のシャーロット・ホームズさ」


聞いたことがある。

数々の事件に関与し、全てを解決させた天才の探偵。

だがなぜ、そんな人物が? と男は思った。


彼女、シャーロット・ホームズと名乗る女性は続けて、


「その雰囲気を見るに、なぜここにいるのか、って聞きたいようだね」

「………………」


まるで考えていることが見透かされているようだ。


「ここの屋敷の持ち主に頼まれたんだよ。まぁ…それは表向きだけど、ね? ボク個人として君に興味があるんだよ。話によれば、何でも目当ての宝石を巧みに、かつ、綺麗に盗む。その手法は誰もが目を見開くもの。そして忽然と消える。そんなの興味を持たないほうがおかしいぐらいだよ」


そこで沈黙を保っていた男が口を開いた。


「嬉しいねぇ…こんな名探偵に興味を持たれるのは。けど、邪魔されるのは厄介だな」


男はもう一度窓の下を視界の端に捉えた。

彼女も男の視線先を追いかけるようにして、


「ああ、これね。申し訳ないけど君を今日逮捕させてもらうよ。そのための誘導だったのだから。怪盗の盗む手口はまるで魔法のようだ。でも、そんなファンタジーみたいなことは現実ではあり得ない。だから君は逃げるときも、足を使ってするしかないのさ。ならどういう風に逃げるのか。そこで十中八九、人気が無いところから、だからわざわざ人気が無いところを作ったんだよ。」


彼女は続けて、


「さぁどうする? 怪盗さん?」


その男性は退路が絶たれたようだが―――


「そうだな。私は魔法使いではない。しかしだからと言って、私が逃げれない道理はない」


その瞬間、その男の周りに煙幕が張った。


「っ!? 何をするのさ!?」


ケホ、ケホ と咳き込む探偵。

数十秒すると、煙幕が晴れていった。

そこで目を開く探偵。

そこには誰も居なかった。


「包囲されてるから窓以外逃げれないはず……窓が開いてる? まさか……ここから飛び降りても下には警備員がいるのに……ん? これは?」


探偵は窓付近に手紙のようなのが置いてあった。

内容はこうだ、


〃 今宵は楽しい夜だった。また会えることを願っている。  怪盗より 〃


探偵はこれを読んで、


「いいだろう。君を捕まえてやるさ。そして大人しく牢屋に入れてやろう。怪盗さん…」


彼女の心に火がついた。


……

………


「危なかったぁ〜。なんであんなとこに探偵がいるんだよまったく……」


俺は盗んだ宝石を見て、


「これも目当てのものではないか。ま、今日は名探偵とやらに会えたし、いっか」


――これが俺と彼女、名探偵との最初の出会いだ。



……

………



辺りはガヤガヤとしていて、ある人は楽しい雰囲気、ある人はうるさいと思うだろう。

俺は机に突っ伏しながら、ふと右前の方を見た。

少女と男に囲まれている一人の少女。

いや美少女というべきか。

その顔は俺が何回も見てきたものだ。

そう、彼女は――


「ねぇ! シャーロットさん! 今回の怪盗はどうだった!」

「ふふ、そうだね。今回も逃げられてしまったよ。さすが凄腕の怪盗だよ」


シャーロットは微笑んでみせた。


「でも凄いよねシャーロットさんも! あの怪盗を寸前まで追い込んでるんだから!」

「そうだな! あの怪盗が捕まるのも時間の問題だな!」


シャーロット・ホームズ。

探偵で俺のライバルだ。

なぜこうなってしまったか。

それは数週間前。



……

………



俺、いまみやかなは怪盗という顔をもっているが表ではただの学生である。

だから普通に学校に行くし、友達と遊んだりする。

それで俺がいつも通り学校に登校していると、校門の前に高級車が目に入った。

日本には無い車だった。

ただ俺はあまり興味が沸かず、そのまま校門を潜ろうとしたとき――その車の扉から見知った顔が出てきた。

思わず素っ頓狂な声を上げそうになったが寸のところで止まった。

そして心の中でこう思った。


なぜ彼女、探偵のシャーロット・ホームズがここに居るのだと。


しかも最悪なのが、彼女との距離が近すぎること。

彼女が視界に捉えた最初の人物が俺だった。

俺はその場から離れるため自然な動きで校門を潜り逃げようとした時、


「ねぇ君」


彼女に声をかけられてしまった。

俺はあくまで自然な表情で、


「俺……ですか?」

「うん、君だよ。それで唐突に悪いけど、君とボクってどこかで会ったことあるかな」

「どういう意味ですか?」

「う〜ん、なんて言えばいいかな〜。なんか初対面って感じがしなくてね」


彼女の瞳がじっと俺を納めた。


「俺はあなたと会ったことはないと思います。もし会ったとしてもこんな美少女のことは忘れませんよ」

「ふふ。君はお世辞が上手いようだね」

「あはは…ありがとうございます」

「君を見るに本当に初対面かもね。じゃあ君、止めて悪かったね」

「いえいえ大丈夫です。それでは俺はここで」


俺は冷汗をかきながら、教室へと向かった。



……

………



そして最悪なことは再び起こった。


「新しい転入生を紹介する」


またもや唐突に先生がこう発言したのだった。

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