第5話

旅の道連れとなった二人の女の話をしよう。





※      ※      ※





アカと呼べと言った女は豊かな長い髪をしていた。美しく波立つその髪が風に揺れると、なぜか懐かしい風景を思い出させられるような気がして胸が締め付けられた。


少年の頃、海を見てはその向こうに行ってみたいと思い、山を見ては、その向こうには何があるのだろうかと思った。いつしか薄れてしまった冒険心のようなものを、彼女の髪は促すような道しるべのようなものに感じたのかも知れない。


「一炊の夢」と言う言葉があるが、彼女たちとの旅は長かった。


その長い旅の途中で、言葉は乱暴で気短に見えたこの女は、実は情に篤く決して嘘をつくようなことの無い誠実さを持っているのだと気づかされたのだった。


アカという名にふさわしく、裾も短く肩も露出したその服も濃い血の色をしていた。ただその服もだがその赤い髪も日の光が反射すると金色に輝いた。





反面ギンは確かに銀色の髪をし、パンツスタイルのその服も銀色ではあったが微かに青みがかっていた。ただ銀に青が混ざると、それは青が輝いて光って見えるように感じたりもするが、その青は本当に薄くて、これもまた角度に寄らなければ感じないほどだった。





アカとギンと言うと、コンビ名としては若干のズレを感じるようだが、その実はまったくのズレのない対の者である。





とある冒険の途中で、彼女たちは服を交換しなければならない事になったらしく、俺はその事を知らされていずに、髪を隠した後姿から服の身で彼女たちを間違えてしまった事がある。後で気がついたのだけれど、彼女たちは重ね合わせたように、そのサイズは一緒だったのだった。


「そりゃあね。あたしたちはあんたの夢の産物だからね。」とアカが笑う。





俺は時にはこのアカに母親のような思慕を感じ、時にギンに冷たい恋人を追いかけるような恋心を抱きながら、長い旅を楽しんでいたのだった。


その先は相当長い冒険譚。


しかし残念ながら、夢はいつも儚くて、君らに語るものがほとんどないと言う悲しさよ。





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薄っすらと覚えている俺の記憶によれば、ある時俺は砂漠にて手で穴を掘り、ファンタジー的に言うならば黒い水を探し当てていた。黒い水とはだいたい石油って事だよな。


それを手で掘って探り当てるなど、滑稽に他ならない。だけれど俺は夢中で、ふと気が付くと爪ははがれ、指までも第一関節第二関節と失っている。ああ、と思っても、欲望という魔物に取りつかれてしまったらしい俺は穴を掘ることを止めない。グギリと言う鈍い音と共に、じわじわと黒い水がしみだしてきて俺の体を沈めていく。


俺は慌てて立ち上がると、すでに両腕が関節の所から無いではないか。


俺は悲鳴を上げて夢の中で欲望という夢から目を覚ます。


悲鳴すら砂漠の砂が飲み込んでいく。


そして体は探り当てる事を望んでいた黒い水の中に沈んでいく。


そんな俺を危うい所で助け出し、アカが言った。





「大丈夫だ。これはお前の夢じゃないか。目を覚ませばいいだけだ。」





その時体が大きく揺れて、俺は意識だけが元の電車の中の自分に弾き飛ばされ、そしてその悪夢からリセットされるのだった。





なんだ夢の話ってそんなものかって思うかもしれないけれど、じゃあ、俺はあえて逆に聞いてみたいよ。


君らの毎日の現実の話をね。そんなに事細かく語れるって事、そうそうあるものじゃないだろう。それに記憶ってのは残酷な時の略奪者に奪われるもんなんだよ。





だけどある時、俺は廃墟と化した村でひとりの子供を拾ったんだ。


その夢だけは妙にリアルで、目が覚めても俺の記憶に居座ったと言う鬱陶しいものだった。


良かったら、その話を少々聞いてもらえないか。

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常闇の桃 @aobarasyouen

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