私的選外〜其の二

欲望の前の無力〜ゼンマシマシチョモランマ〜

　いやはや本日も快晴ですな。高い空、煌めく太陽、流れる雲、粒立つ汗に濡れる妖艶な拙者。

このワガママバディーは今日も拙者に語り掛けるのですぞ。

白濁スープに沈むオーション麺を啜れと。

そう言われては拙者も言う事を聞く他に無いので御座る。

過保護に思われたかもしれませぬが、愛のままに我がままに拙者はこのお腹だけを傷付けないのですな。

そして拙者が今回選んだ店舗は、二郎インスパイア系のパイオニア

「もやしの根を取るバイト募集の店」

流山おおたかの森駅前本店なのですな。

多忙極まる拙者の念願の再戦ですぞ、否が応でも腕が鳴るというもの。

あーもう辛抱堪らんタランティーノ。

ぐぅ～ぐぅ～と寂しそうに鳴く拙者のお腹の音に前の人も毎度ピクッと反応しておられる。

あいや失敬。こりゃ失敬。

むむっ。

むむむ、むむむ、むむむのむ。

なんとなんと、なんとのNARUTOのシカマル。

もしやこの御方はかの有名なラーメンフリーク動画配信者のNOBIRU様では御座らんか！

皆の衆！神が此処にあらせられるぞ！

その歯に衣着せぬ物言いと、重度の猫舌で有名なかの御仁。

はふはふさせても微塵も進まぬその箸は、もはや何故ラーメンを食べようと思ったのかと問いたくなるレベル。

一部の考察者からは、あまりの速さで動く箸が止まって見えている説が囁かれる程の猛者。

その食の遅さからロット乱しの悪魔の異名で界隈から恐れられている雲の上のお人！

現人神が此処に在り！

愚民どもよひれ伏すのじゃ！

そしてその身に纏いしお召し物は、オリジナルの「NOBIRU」Ｔシャツでは御座らんか。

驚く程の需要の無さに在庫が千単位で有り、倉庫のキャパを圧迫していると自虐ネタに昇華されておられる一品。

まさかこの目に拝める日が来るとは、なんとした僥倖であるか。眼福眼福。

お手々のシワとシワを合わせてしゃ〜わせ〜。

南〜無〜。

うん。

しかし。

ダサいで御座るな。

大概こういうものは実物は全然良いと相場は決まってる筈なのですがな、さすがの拙者もタダでも要らぬで御座るよ。

とほほ、とほほの緋村の謙信。飛天の御剣流。

あーしかしお近付きになりたいで御座るよ。

仲良くなってラーメン情報をやり取りさせて頂きたい。

そしてあわよくば動画内で声だけ聞こえる友人ポジションに収まりたい。

誰だお前ポジションを我が物に！

コメントの「他のヤツの声キモwww」に対して、パンピーのひがみ草ってリプしたいで御座る。

第一印象が大事であるからですな、変にマウントを取るのは禁物ですぞ。

こちらの求知心をアピールして、出来るだけ下手から相手の虚栄心を満足させるのですな。

例えばそうですな。

恥ずかしいですけど初心者でぇどうすれば良いですかね？

上出来！

これならきっと大丈夫で御座る。

さぁ言うのですぞ。

拙者よ。

言えっ言え。

などとやっておりましたらな、いつの間にか順番が来ていたという事があったのですぞ、我が妹よ。

「兄ちゃんって本当に間抜けだよねー、人間なんか相手に気を使ってさー」

無論ですぞ我が妹よ。

人間界は繊細なルールによって成り立っているのですぞ。それを守れぬ者にラーメンを食する権利などは御座らぬ。そんな奴は友も名乗れぬが道理。

「でも兄ちゃんさ、そんな回りくどい事しなくても魔界に拉致って来てゆっくり洗脳しちぇば良かったじゃん、他の皆もいつもそうしてるらしいよー」

…我が妹よ…

……天才か？