素晴らしいほどに王道な物語を!
しろめし
世界の命運を握る決戦
仰々しく重厚な扉を開ける。ギギギギという音を出しながら開く扉。
開けた扉の先には………この世界を手中に収めんとする存在がいた。
魔王と聞くと皆何を思うだろうか。魔族を統べしもの。圧倒的強者。世界を支配せんとする者。まぁこんなものだろう。
魔王は強くカリスマがあり賢かった。小さい頃から神童と周囲から呼ばれ、数十年程経ち大きくなると大魔族と人々から呼ばれ恐れられた。更に時が過ぎると他に追随を許さない圧倒的存在となり生まれたときから持っていたそのカリスマで散らばっていた魔族共をまとめ上げ魔王となった。
魔王は小さい頃からその小さな身体に見合わぬ程の大きな夢があった。
それはこの世界のあらゆるものを手中に収めることだ。天も地も人さえも全てを欲した。傲慢だった魔王は大きくなってもその傲慢な野望は変わらず、魔王として君臨し人類に宣戦布告をした。
魔王は豪華に装飾された席に座り、その妖しく紅く光る双眸で開けられた扉の方を見つめている。
魔王の見つめる方向にいるは魔を滅さんとする者、勇者だ。
魔王に対面する勇者は爛々と輝く聖剣を持ち立っていた。
勇者は口を開いた。
「魔王、お前の悪行もこれまでだ。お前をここで倒し人類に平和をもたらす!」
勇者が持っていた聖剣はより眩く輝いた。
勇者は生まれたときから才能があった。剣の扱いは剣聖を打ち負かすほどに一流で魔法を使えば高名な魔導士が恐れる程に凄まじかった。そしてその才能に比例するように人格も備わっていた。困っている人を見つけたら迷わず助け、罪を犯しているものがいたらそれを償わせた。
勇者は人格者だった。やがて大きくなり人々を困らせ苦しめる魔王という存在を知った。勇者は思い立ち魔王に罪を償わせようと周囲の人々の制止も聞かず旅に出た。
「ほう、余を倒すとほざくか小僧。余は魔の頂点にして王の中の王、魔王であるぞ。貴様にそのような偉業ができるのか」
魔王は重々しく腹の底まで響くような声音で問う。
「ああ、できるさ。その為にいろんな人に背中を押してもらい助けてもらい協力し合ってきた。その期待、希望に応えるためにもここでお前を倒す!」
自信に満ち溢れた声で勇者は答えた。その声はとても澄んでおり辺りに響いた。
「ふっ、大言壮語を。余に歯向かってきたものはいつもそうだ。最初だけは威勢のよいことをほざき、最期には命を乞う。貴様も同じだ勇者よ。最期には貴様も地に這いつくばり泣き喚くことになるだろう。だがしかし余は慈悲深い。余の軍門に降るのであれば貴様の蛮行も許してやろう」
「断るっ!」
「そうか、ならば仕方あるまい。覚悟せよ」
そう言い魔王は手をおもむろに勇者に向けた。
「『
全てを燃やし尽くす獄炎が勇者に迫る。
「聖剣よ、僕に力を!」
世界の命運を巡る争いの火蓋が切られた。
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勇者は魔王から撃ち放たれる魔法を掻い潜り魔王に近づく。
しかし近づくに連れ攻撃は激しくなり魔法を避けるのが厳しくなる。
勇者は聖剣を使い魔法を切り払う。服の裾が焦げたり凍ったりするが気にしない。
対して魔王は勇者に興味を示していた。大概は初手で殆どやられるが勇者は魔王の放つ魔法の嵐にも耐えきっているのだ。
(ほう、まさかここまで耐えるとは。意外と人類も舐めるものではないな)
魔王は感心していた。
しかし魔王の余裕はここまでだった。
「『
と言う声が聞こえた瞬間、凝縮された魔力の塊がこちらの方へと迫ってくるのが感じ取れた。それに気づいた魔王は急いで防御魔法を構築する。
「『
魔王の前に複数の障壁が張られる。『
その程度の被害しか受けていない障壁だが魔王は驚愕していた。魔王の綿密で膨大な魔力で形成された障壁にヒビをつけられるとは思っていなかったのだ。
(これは………遊んでいる場合ではないな)
魔王は自身を殺せるかもしれないほどの力を持つ勇者を明確に敵と捉え、立ち上がった。
「お遊びは終わりだ」
魔王の手元には紫電が迸る漆黒の剣があった。
_______________________
勇者は魔王の様子が変わったのを感じ取った。先程までとは打って変わり、魔王の周りを漆黒の魔力が渦巻いている。手元には紫電が迸っている漆黒の剣がある。
勇者の持っていた聖剣は魔王の変化に対抗するかのようにより一層輝きを放っている。直視が難しいほどだ。
睨み合う勇者と魔王。先に動いたのは勇者だった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
聖剣を振りかざし斬りかかる勇者。それに対し魔王は
「『
といい漆黒の剣、魔剣で勇者の攻撃を防いだ。
カンッカッカンッ
何度も金属がぶつかる甲高い音を鳴らし、切り結ぶ両者。
しかし勇者の剣戟は切り結ぶたびに弱くなっていく。
魔王に魔力と生命力を奪われているのだ。現に魔王は切り合うたびにその力は増し、勇者を押し込んでいた。
勇者が疲弊し一瞬の隙ができる。その隙を魔王は見逃さず勇者の腹を蹴った。勇者は壁にぶつかり辺りに粉塵が舞い散る。
魔王は片手に魔剣を持ち佇んでいた。
_______________________
勇者は負けるわけにはいかなかった。この戦いが人類が唯一魔王軍に勝てる最初で最後の希望なのだ。二度とこのようなチャンスはない。
ここまで来るのに数多の人々が犠牲になった。
勇者の道を切り開くためたった一人で何千もの魔物と四天王二人を相手取り、相打ちとなった英雄。魔王城へ最短経路で行くため山と魔王軍の要塞をを核撃魔法で破壊してくれた大賢者。魔王軍の注意を引くために今も戦ってくれている剣聖。魔王を討ち滅ぼさんと応援してくれる人々。
家族や友人を守るために負けるわけにはいかなかった。
_______________________
粉塵が晴れる。そこには頭から血を流しなんとか立っている様子の勇者がいた。勇者は疲弊していた。今から倒れてもおかしくないほどに。
しかし勇者は絶望していなかった。その瞳にはまだ希望が残っていた。
(こんなところで倒れては駄目だ。気合で立て。感覚を研ぎ澄ませろ。魔王の癖は?力量は?どこが弱点だ?考えろ)
勇者は正面にいる魔王を見据えつつ魔王を分析していた。
魔王に罪を償わせるために。
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「なんだもう終わりか?勇者よ」
魔王は問う。
「いいや、まだだ。まだこれからだ」
勇者は一切諦めた様子はなくそう答え駆け出した。
「『
勇者は魔法を唱え行使した。それと同時に魔王にも変化が起こった。
(なっ、魔力の制御が不安定になった。それと魔眼と魔剣の力が封じ込められた、だと)
魔王は身体の変調にすぐに気がついた。なんとかしようとするも近づいてくる勇者の放った斬撃をどうにかしなければいけないため防御魔法を唱える。
「『
魔王の前に複数の障壁が現れ、勇者の放った斬撃に当たる。しかし先程とは違い勇者の斬撃により数枚破壊されてしまった。
「ぬっ」
魔王の弱体化だけであそこまで障壁は壊されない。魔王は勇者の異変に気づいた。
勇者の白髪と透き通った蒼い目が黄金に染まっているのだ。発している魔力も先程より莫大で流麗だった。
勇者は魔王の下へと駆ける。魔王は魔剣を持ち直し
「『
駆ける勇者を向かい打つ。
カンッカンッカンッカッ
激しく打ち合う両者。先程と同じような攻防だが、今は明らかに魔王が押されていた。
(ぐぬぅ、先程とは違い全ての攻撃が的確で力強い)
勇者がここまで魔王に優勢に進めていけるのは先程放った魔法『聖なる導き《ディバインポイント》』により正確な攻撃が放てるからだ。魔王の隙を見つけ的確に攻めていく。これにより魔王を苦しめていたのだ。
「ちっ、『
魔王は自分もろとも爆破し勇者と距離を離そうとするが
「『
魔法を破壊される。そしてそれにより生まれた魔王の隙。
勇者はその隙を逃すことなく
ザシュ
魔王の右腕を切り取る。魔王の右腕と共に魔剣も放られる。
「ぐあぁ」
魔王がうめき声を上げる。左腕を魔王は突き出し魔法を放とうとするが
「終わりだ魔王『
心臓を刺され魔王は動かなくなった。
勇者は魔王の心臓へと突き刺した聖剣をゆっくりと抜く。
勇者は心臓を射抜いても魔王のことを警戒していた。あの魔王である。
魔を支配し世界さえも支配しようとするもの。油断はできない。
勇者は血に濡れた聖剣を高くかざし魔王の頭へと振り落とした。
ザシュ
勇者の聖剣は魔王の左腕を斬っていた。
「なっ生きている!?」
勇者は急いで聖剣を抜こうとするが………抜けない。魔王は左腕に力を込め抜かれないようにしているのだ。
そしてそのまま勇者を右腕で吹き飛ばした。
「がぁぁ」
勇者はザザザザッと音を立てながら後退する。
「フハハハ、残念だったな勇者よ。余は命が2つある。貴様が奪ったのはその内の一つ。貴様はもう終わりだ、勇者」
魔王は再生した右手を開いたり閉じたりしながら勇者に向かっていう。
「ぐっ、かはっ。魔王、お前をここで―――」
「それは無理な話だ。今の貴様に何ができる。その身体ではもう何もできまい。人類はもう終わりだ。余の世界が始まる」
勇者は魔王を見据える。しかしその瞳には諦めが宿っていた。
すこしずつ勇者に近寄る魔王。死はすぐそこまで迫っていた。
『立ちなさい勇者よ。貴方はこのようなところで挫けてはいけません。魔王は余裕そうに見えますが実際は私の力により本来の力を大幅に削られています。魔王も余裕はないのです』
「め、女神様?」
その声は聞き覚えのある声だった。透き通った声音で勇者の頭にスッと入った。
『はい。貴方の仲間は今も貴方が勝つのを信じ戦っています。貴方もそれに応えなければいけません。魔王は無敵ではありません。必ず隙や弱点はあります。私も貴方を応援します。貴方の未来に幸あらんことを『
勇者は聖剣をグッと持ち、魔王を見据える。その瞳には先程の諦めではなく希望を宿していた。見ていたらわかる、魔王も余裕がないことが。先程のように魔力が辺りを渦巻いているわけでもなく、こちらを瀕死だからと侮る様子もない。しかしそれは勇者も同じだった。魔力も殆ど残っておらず、身体は傷だらけ、いつ倒れてもおかしくない。
それでも勇者は魔王を見据え戦う意思を持っていた。
「無駄な足掻きを」
「無駄なんかじゃない!僕は皆の意思を受け継いでここまで来たんだ!」
勇者は身体が軽くなっていくのを感じた。勇者は黄金に輝き始めた。黄金のオーラが勇者を包み込む。
「魔王、覚悟っ!」
勇者は再び魔王に挑んだ。
「ガァァァァァァァ」
魔王は叫ぶ。魔王もなりふり構えなくなったのだ。勇者は魔王の想像を遥かに上回るほど強くなっていた。
そのため魔王は禁忌魔法を用い異形の姿になっていた。腰からは2対の大翼が生え、腕は4本に、魔力も先程とは比べ物にならないほど膨れ上がり、身体も筋肉で膨張していた。
「グォォォォォォ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
それでもなお勇者は魔王を押していた。既に大翼は勇者に切り取られ、腕もあと2本となっていた。
魔王は後退しておりすぐ後ろには壁が迫っていた。魔王は大きく後退する。
ドンッ
「なっ」
魔王は壁にぶつかり隙ができる。これを見逃す勇者ではない。
聖剣を手に持ち魔王の胸へとその切っ先を向ける。
「終わりだ魔王!」
魔王はそのまま目をつむり…………ニタリと笑った。
「さようならだ。『
勇者の足元に幾何学模様が現れ勇者は炎に包まれた。
「カハッ、な、なぜだ。なぜ動けている!?」
聖剣は魔王の心臓を貫いていた。魔王の口から血がこぼれる。
「聖剣が護ってくれたんだ」
そういう勇者。勇者の持っている聖剣は先程までの輝きが失っており金属的な光を放つだけだった。
「フフッ、世界最強と恐れられた余ももう終わりか」
魔王は達観したかのように言う。勇者は魔王を警戒しながらもその話を聞く。
「聞け余を倒せし者よ。余を倒したところで世界は変わらん。人類は常に争い傷つけ合う。醜いものだ。歴史は幾度も繰り返される。余がいなくなったとしても新しい悪が誕生する。光がある限り闇もまたあり続けるのだ」
勇者は無言で魔王を見る。勇者はところどころ焼けただれている。聖剣だけでは流石に魔王の魔法を守りきれなかったのだろう。
魔王は聖剣により壁に貼り付けになりつつも勇者を見据える。
「ハハハ、勇者よ、貴様はこの世界に絶望しながら死ぬのだ。それが貴様の背負った業だ。フハハハ、ハハハハハハハハハ――――――」
笑い終わったとき既に魔王は事切れていた。
_______________________
あとがき
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