〘死は救済〙とかいう奴に両親殺された。
異世界転生ヤッター!とか思っていたのも束の間、大貴族の両親が死んだ。
下手人は聖女とかいう奴らしい。
なんでも両親が悪事をしていて、それを見咎めた聖女が闇夜の鉄槌を下したという経緯のようだ。
そこまで聞いて、俺は生前に読んだ小説を思い出した。〘死は救済〙とか言って死んだ超利他主義者の物語だ。
俺はその聖女が可哀想でならなかった。
人それぞれ幸せの形は違うと思うが、そうだとしても、死ぬまで世界に献身し続けた彼女が、最期まで救われないのはおかしい。
俺がその世界にいたら、絶対に彼女を幸せにするのに、とか考えていた。
しかし本当に転生してしまうとは……、神様も俺に彼女を救えと言っているのかもしれない。
内政官と協力して大聖堂を建てる計画を立てた。
教会に連絡を取ったら二つ返事で了承、早速建造に取り掛かった。
領民の反応は賛否両論だった。聖女は領地を救ってくれた恩人だが、大聖堂の建造には莫大な費用が掛かる。何だったら息子も殺すべきだったとかいう極端な意見もあった。
俺は現代チート(笑)で効率化された政策と未来の構想をバンバン打ち出し、内政官に怒られながら街を住みやすく変えていった。
結局俺の考えなど穴だらけだったので、内政官が居なければとうに失策して暴動&抹殺されていたかもしれない。
しかしそうはならなかった。
1つ2つと政策が軌道に乗ってくると、反対意見は手のひらを返したように消えていった。住みやすくなっていくのに、不満など出るわけもない。
大聖堂が完成すると司祭が訪ねてきて、その偉容に讃美の声を挙げた。
目論見通り教会の本部を大聖堂に移すという話しが持ち上がり、俺は二つ返事で了承した。
その日も内政官と頭を悩ませていた時、速報が飛び込んできた。聖女が大聖卿になるという話だ。
数日前、前大聖卿が崩御され、次は誰にするかと教会内で揉めていたらしい事は知っている。それがどう罷り間違ったのか、聖女がその地位についたというのだ。
目下の街からは歓声が聞こえてくる。
自分たちを救った聖女が世界最大宗教の事実上最高司祭に昇格したのだ。その気持ちも分からなくはない。
「お初にお目にかかります。聖女改め大聖卿となりました、レイフィアと申します」
大聖卿の容姿は何処にでもいる平凡な女性でありながら、その雰囲気は常世から逸脱したものがあった。
彼女が憧れていた静謐な雰囲気は、一周回って圧を感じる程に達していた。
俺は来る日も来る日も彼女と交流した。
彼女を神聖視するものは多いが、彼女の本質は全く別にあることを俺は知っていた。
ある日、彼女は初めて自分から俺に声を掛けた。
「貴方の両親を殺したのは私です」
「ええ、知っています。両親が悪事に手を染めていたのでしょう」
「では何故私に優しくするのですか?」
「誰よりも頑張っている貴女が、好きだから」
その時のレイフィアの複雑な感情が混ざった表情は、一生忘れられないだろう。
程なくして俺とレイフィアは結婚した。
彼女は物理的に人を助け、俺は間接的に民の生活を支えた。
次第に俺の領地は聖都と呼ばれるようになり、ほぼ全ての入居者が信徒となった。
生涯で彼女との間に二人の子を儲けた。
俺は彼女の良き理解者として、幸せにできたと思う。
優しい笑みのまま静かに目を瞑る彼女を、家族で囲いながら見送った。
死は救済?
馬鹿言っちゃいけない。
コイツにゃ死を惜しむ位、幸せになってもらわなきゃ嘘だろ?
なあ、転生させてくれた神様よ。
死は救済というのなら。 珠ノ 海月 @harukanatuyume_
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