「奴等は呆れている」

低迷アクション

第1話

 「アイツ等は呆れている。だから、動き始めたんだろうな…」


目元に傷が走る“男”は、紹介によれば“ヤバイ仕事”に携わっているらしい。


その人物の体験である。


「あんた、この話を記事、ネット?ああっ…まぁ、そうだな。それなら、信憑性なんて、どっちでもいいよな?まぁ、刺激的な内容だ。多分…」


彼の話によれば、かつて、人間をモノのように売り買いする文化が栄えた原始的な時代に比べ、


現在社会の方が人身売買は“増加傾向”にあると言う。


「戦争、貧困から逃げてきた人達を救済する機関と、その手の組織が繋がっている。

お互い、持ちつ持たれつだよ。NGO団体を担う救済機関は金がない。


チャリティー?足りない、足りない。あんなモンは金ある連中のちょっとした自己満…


人材欲しい連中のスポンサーは金持ち連中、お役人…それこそ、世界平和を謳う連中達だ。アイツ等の資金は潤沢…その大金の一部を人買いにあててる。


救済する連中も、多少の犠牲に目を瞑る。


“100人犠牲で、1000人救う”だ。


悪い事じゃない。今のあらゆる困窮が邪魔する社会では仕方ない。そんな中で正しい事するなんて立派だよ。俺には無理だ。


とゆう前提で話せば、勿論と言ってもいいと思うけど、軍隊とか、公的な連中は動けないし、動かない。国や法から逃げている人の理由は何であれ、認知なし、保証は皆無…


だから、何をしたって、されても…


加えて、船しか無かった昔に比べ、今はあらゆる移動手段が彼等の輸送を助けている。インターネットは人間同士の情報交換、出荷手配等の容易さ、便利な社会、技術の進歩は犯罪を円滑に進める手助け…


本当の正義を担いたい奴等はいないし、ジリ貧…国家レベルの相手の前じゃぁ黙る。

全ては闇に消えていく。照らす奴はいない。端的に言やぁ、光は無理だ。じゃぁ、どうする?って話だ」…



 その日、彼が商談に向かった先は、亜熱帯の国…銃を懐からチラつかせた取引先と会ったのは、深夜…観光地から少し離れた、植民地時代の色を残す屋敷…


仕事は、顧客の調達と商品の品定め…


人種様々、性別、年齢はニーズに合わせた(これ以上の記載は非常に不快となるので、省略する)


複数の“商品”が、男達の後ろに並べられている。


この手の商談は、現地に赴く事もあるが、相手が露骨、誇示するように、武装しているのは、初めてだ。


「どうかしたのか?」


男の質問に、相手は少し焦れたように肩を揺らし、


「いいから、早く決めろ」


と催促する。地元警察は、彼等のいいなり…ならば、国際的な警察機関が、ようやく重い腰を上げたか?いや、その手のキャンペーン、政治的な動きはない、とすれば…


「こちらに何か問題が?報酬に不満でも?」


相手は首を振る。しかし、納得できない。普通の仕事と違い、些末な疑問を、ないがしろにすれば、死に直結する危険性がある。だから、不味いとは思ったが、少し強めに問いただす。


向こうは銃を持っているが、気にしていては、このビジネスは成立しない。


男の態度に焦れた相手は、渋々と言った感じで口を開く。


「わかってる。ホテルか、観光地のように、人目ある方が、逆に目立たないし、外国人に被害が及び危険性を考え、警察も軍も来ない。


だけどな。気にしない奴等もいるんだ。ニュースは…そうか、来たばっかりで知らないか?


とにかく、往来のカフェで白昼堂々…」


室内の明かりが消えたのは、その時だった…



 銃をスライドする金属音が響いた瞬間、反射的に男は身を伏せる。


「来たぞ」


「やれ!」


と言う怒号、商品達の悲鳴が響く中、万が一の事態に備え、部屋の構造を把握していた男は、窓に向かい、錠を探りあて、ゆっくり開ける。


この手の事態は初めてじゃない。頭の中にいくつも浮かんだ逃走ルートは…


窓枠全体を覆わんばかりの巨大な目を前にして、一気に吹き飛ぶ。


「どけ!」


呆然と立ち尽くす自分を押しのけ、拳銃を“明らか人でない目”に撃ち込んだ男は、

それが瞬きした刹那…卵の割れた音と一緒に…


全身を破裂させる。


肉片の飛沫を浴びながら、後ずさった背中を固いモノが通過する。振り向けば、長い舌を伸ばした人間大の爬虫類?が天井を這い進む。


男達の幾人かが銃弾を見舞う。だが当たっているのか、当たっていないのか?怪物は、まったく気にも留めず、長い舌を上げる、振り下ろすを繰り返す。


舌が天井と床の往復を繰り返す内に、全ての銃声も男達の声も聞こえなくなった。


恐怖で硬直する自身の周りを商品だった者達が、外に向かって走り出していく。徐々に夜明けが進む熱帯の密林に消える、彼女、彼等は母国の言葉で、自分達を導く異形の者達を


「“ヴィメウ”」


「“ズーモク”」


と呼んだ…



 「連中の母国語で魔物や、怪物の意だそうだ。文明が進み、奴等の出番が無くなった。下手な怪談話なんかより、“人間が一番怖い”なんて言われる時代だ。


それぞれの正しいが横行し、誰もが、自分の信じた理念を掲げて、戦争や自己の利益を追求する多様正義の時代、この世界に悪はいない。いや、逆に悪しかいない。


連中が何故、人間を助けたかは不明だ。只の気まぐれ、人間から外された、人扱いされない彼等を哀れんだか…それとも、人々を恐怖に貶める仕事を取られた怒りか?


いや、呆れてんのかもしれないな?


火を生み出し、電気、空を飛ぶ、都市を吹き飛ばす兵器の発達を得て、伝承の怪物達が担う能力全てを手に入れ、自分達を追いやった。敵を退けたのに、いなくなったら、同じ人間同士で苦しみ、戦い、下を作りたがる俺達にな…」


そこまで喋った男は、自嘲的な笑いを浮かべ、口を開く。


「闇を照らすのは光じゃない。闇は闇しか、照らさない。少なくとも今は…」…(終)

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「奴等は呆れている」 低迷アクション @0516001a

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