姉。

海墨の姉。

警視正の期待の娘。


完璧主義者でプライドが山のように高い彼女が,大学の講義中であろうこの昼間に自分に連絡してくるなんて…どんな風の吹き回しだろう。


とりあえずメッセージ画面を恐る恐る開いてみる。


『授業中ですよね?何故携帯を弄んでいるのですか?』


単調な文章だが,何処か圧が強く押しつぶされてしまいそうだ。

そっちだってどうせ講義中だろ,とむっとなれば額に青筋を立てながら静かに反論する。


『授業内容に必要なことだったので調べていただけです,姉上こそ何故携帯を使っているのですか?』


『今日は教授の急用により講義は潰れました,勉強に集中なさい』


自分が海墨よりも圧倒的な権力を持っている事実を見せつけようとでもしているのだろうか。

そんな姉の態度に心底腹が立つ。海墨は大きくため息を吐けば微塵も湧いてこない罪悪感を呼び覚まし,とりあえず姉に謝っておいた。


『申し訳ないです,姉上』


『わかればいいのです。後ほど川端が迎えに行きますので,早く帰ってきなさい』


川端…秋穂家の執事のことだ。

はいはい,と小さく呟けば,数ページ進んでしまった授業に追いつかせるために教科書を開く。とりあえず適当に返信をしてしまおう。


『わかりました,ありがとうございます』


業務報告のような文面と,先ほど白波とはなしていた文面。

こんな姉とじゃなくて,白波とだけ話していたい。そう,心から願ってしまう。


スマホの電源を落とせば,頬杖をついて再度窓外の桜を見つめる。

桜吹雪に囚われる彼女の姿を思い浮かべれば,はやく明日にならないかな,と微笑んでみせた。

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特進くんとグローバルちゃん 梵 ぼくた @ututzoku

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