第169話 予感

「ふむ、インターネット配信か」

霧島は翔太の説明をじっくりと咀嚼するように聞いていた。


霧島プロダクションの社長室で、翔太はサイバーフュージョンとの協業戦略を共有していた。


「映画『ユニコーン』の公開から半年後にDVDが発売されるため、このタイミングで映画を配信します」


映画の著作権は製作委員会が所有しており、サイバーフュージョンは映画のスポンサーであるため、配給に関して優位な立場にある。


「サイバーフュージョンが今後提供する動画配信事業に、キリプロさんの所属タレントを出していければよいかと思っています」

「橘の睨んだとおりの展開になってきたな」

「そうですね」


橘はかねてよりメディア戦略の多角化を模索しており、サイバーフュージョンはその連携相手候補の一つであった。 ※1

翔太の経験では、動画配信が本格化するのはしばらく先であったため、橘は相当先を見据えていたことになる。

そして、翔太の介入により、橘の目論見は前倒しで実現されることになる。


(そう考えると、俺がこの時代で梨花さんや橘さんに出会ったのは偶然じゃなくて運命なのか?……ってアホか!)

翔太の脳内ではお花畑的な妄想が広がりそうになり、慌てて首を振った。


「そうなると、サイバーフュージョンとの顧問契約は一旦切ったほうが良さそうですね」

「そうですね」


逡巡して言った橘の言葉に、翔太が同意した。


「ん? どういうことだ?」

「現状、私は霧島プロダクションから顧問としてサイバーフュージョンに出入りしていますが、今後は翔動の柊として振る舞ったほうが円滑に進むということです」

「なるほどな」


翔動はサイバーフュージョンと業務提携をするに当たって、今後は業務委託や受託開発をする可能性があった。


「その中で当事務所に関連する業務があれば、都度ご請求ください」

「自己申告になりますけど、いいのですか?」

「構いませんよ」


霧島は翔太と橘を唖然としながら眺めていた。


「柊、お前が俺たちにこの話を持ってきたのは今が初めてだよな?」

「そうですけど?」

「お前らいつも、その情報量だけでやりとりしているのか?」


翔太と橘は「それが何か?」と首を傾げた。


「長年連れ添った夫婦みたいだぞ」

「なっ!」「――っ///」


橘は珍しく、顔を真っ赤に染め上げていた。


「久しぶりに面白いものを見たな」

霧島はニヤリと口角を上げた。


「では、霧島プロダクションうちのタレントが動画を出す時は、その管理を翔動お前らに任せることにするか」

「そうですね」

「え! そんなにかんたんに決めちゃっていいんですか?」


霧島プロダクションの所属タレントの市場価値はかなり高く、それに付随する利権も巨額になる。

戦国時代にたとえると、一平卒の足軽が領地を与えられたようなものだ。


「今後、お前らは大きな力を必要とする日が来るはずだ。その力は早く持つに越したことはない」


霧島はたまに、翔太に予言めいたことを言うことがある。

そして、翔太も何か大きな事件に巻き込まれる予感があった。

前世景隆の記憶か?……いゃ、少し違うな……)


「ケホッ、ケホッ……」

「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ、持病だ。心配ない」


霧島の言葉とは裏腹に、翔太は自分や周囲に迫り来る不穏な気配を感じていた。


⚠─────

※1 27話 https://kakuyomu.jp/works/16818093077567479739/episodes/16818093078552161613

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