第168話 動画配信

「ふむ、動画配信か」

上村は考え込んだ。


サイバーフュージョンの会議室では、Web Tech Expoの神代による基調講演をインターネット中継することを検討していた。

この時代では、インターネット生中継をするための技術やインフラが確立されていない。

したがって、この会議では動画のアーカイブを即時公開する方法で検討している。


翔太と石動はインターネット生中継の可能性を模索したが、実現が難しいと判断した。 ※1


「Web Tech Expoの公式サイトのサーバーでは捌けないくらいのアクセスになりそうです。

事業規模感から、サイバーフュージョンさんが一番実現できそうだと判断しました」

鷺沼は経緯を説明していた。


「何しろ、あの神代さんですからねぇ」

佃は得意げな顔で言った。

佃はかなりこのイベントを楽しみにしているようで、会議前にはあの手この手で翔太から神代に関する情報を引き出そうとしていた。


「これはうちにとってはチャンスだね。中谷くん、できそうかい?」

上村はCTOの中谷を期待する眼差しで見ていた。

上村は多くの聴衆を集めることが多くのビジネスチャンスを生むことを理解していた。

その上村にとって、これは逃せないチャンスであった。


「既存サーバーの余剰リソースをどれだけ回せるかを調査します。

場合によってはマシンを追加購入する必要があります」

「わかった、予算を上げてくれたら承認しよう」


上村の決断は早かった。

翔太のこれまで在籍した企業では、これだけ決断力があるトップはいなかったため、羨ましいと感じた。

翔太はこの場に社長の上村が出てくるほどではないと思っていたが、この場に上村がいることで、驚くほど円滑に話が進んでいた。


「佃、ネットワーク機器の増強も必要になるが、見積もれるか?」

「はい、もちろんです!」

佃のテンションは最高潮だった。


「前向きに検討いただいて、ありがとうございます。予測される同時アクセス数などの情報は追って送ります」

鷺沼も翔太と同様に、サイバーフュージョンの決断力の早さに驚いていたようだ。

デルタファイブは保守的な文化で、かつ、予算を通すには海外の本社の承認が必要となる。


「動画のアーカイブは、神代さんのブログにもアップロードしたいです」

翔太は霧島プロダクションとしての要求を出した。


「神代さんのブログもサイバーフュージョンさんですね。データのアップロードは誰が行いますか?」

「マネージャーの橘さんが行います」

「では、データの受け渡し方法は追ってご相談させてください」


霧島プロダクション所属タレントのブログのアクセスログは、翔太の管理下にある。

広報活動の一助になると同時に、貴重なデータがとれると翔太は見込んでいる。


***


「上村さん、中谷さん」

会議が終わった後、翔太はサイバーフュージョンの重役を捕まえて言った。


「御社で本格的な動画配信事業をはじめませんか?」


⚠─────

※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」92話

https://kakuyomu.jp/works/16818093081647355813/episodes/16818093090488541723

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