第92話 技術的には可能
「ライブストリーミングか……技術的には可能だな」
「無理ってことじゃねぇか!」
マンスリーマンションの一室で、景隆はインターネット生中継を行えないか、柊に相談していた。
『技術的には可能です』とはエンジニアが使う表現で、一般的には何らかの障壁により実現性がないことを指す。
ここでいう障壁には、次のような理由が挙げられる。
・難しい
・予算がかかりすぎる
・時間がかかりすぎる
・手間がかかりすぎる
・意味がない
・優先順位が低い
このような表現が使われる理由として、エンジニアは通常、問題解決に前向きであるため、『できない』と断言することを避ける傾向がある。
または表現の正確さを重視し、僅かでも可能性があれば『できない』と断言できなくなる場合もある。
上司や営業がこの言葉を額面どおりに受け止め、『できる』と判断して後々にトラブルになるケースもある。
『技術的には可能です』が指し示すニュアンスは、この時代では広く知られていない表現であったが、柊は未来のミームを景隆に共有していた。
「今回は何が難しいんだ?」
「まずは帯域幅の制約だな」
「鷺沼さんも言っていたが、やはりそこか……」
この時代ではインターネットの帯域幅が狭く、高品質な映像や音声をリアルタイムに配信すると接続が不安定になる。
「処理能力の不足もある」
「これも解決できない問題だな……」
この時代のハードウェアでは大量のデータをリアルタイムで処理することが困難である。
「圧縮技術も非効率だし、さらに互換性の問題もある」
「サーバー側は新田の変態力でなんとかなるかもしれないけど、クライアント側はどうがんばっても一朝一夕じゃ無理だな……」
景隆は柊なら未来の知識で解決策が出てくることに一縷の望みをかけていたが、それは無残にも砕け散った。
「ちなみに、未来ではライブ配信はできるのか?」
「あぁ、ガンガンやってるぞ」
「くそぉ、羨ましいな……」
景隆は柊に動画のアーカイブをすぐに公式サイトにアップロードする案を共有した。
「なるほど、その辺が落とし所だろうな」
「Web Tech Expoが持っているリソースでは足りないから、サイバーフュージョンに話を持っていきたい」
「いいと思う、体力的にも問題ないだろうし、広告を入れれば梨花さんの集客力を利用できる。上村さんにとって悪い話じゃないだろう」
「サイバーフュージョンには柊から打診してくれ」
「あぁ、任せろ」
柊はサイバーフュージョンが運営するブログサービスに深く関わっており、コネクションを持っている。
「本当は
「かなりの投資額になるし、仮に資金調達できても、今回は間に合わないだろ」
「だよなぁ……」
景隆は需要が目の前にあるにも関わらず、自分が供給できないことを歯がゆく思った。
「なぁ、今後俺たちで、動画配信事業をできないか?」
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