第152話 厄介事

「神代さん、調子はどう?」

グレイスビルの休憩室に移動した翔太は、作業をしている神代に声をかけた。


「うーん……技術的な内容をどこまで盛り込むかで迷っているよ」


神代は基調講演の内容を一般受けしそうなテーマにしているが、聴衆はITエンジニアの割合が高い。

神代がどのような技術に関心があり、取り入れているか、興味があるエンジニアが多いだろう。


「ブログのコメントもすごいことになっているね」


翔太は手元のラップトップPCで、神代が投稿したWeb Tech Expoに関しての記事を確認していた。

コメント欄は神代の講演に対する期待で溢れかえっていた。


「うううっ、大勢の前で演技するよりプレッシャーだよぉぅ」


神代は舞台に出ることもあり、人前に出ることは慣れている。

しかし、自分の専門外である分野のことを大勢の前で話すことに緊張しているようだ。


「ついにあたしを抜いたんだよな」

「うわっ! ホントだ」


いつの間にか星野が翔太の隣りにいた。

ブログのアクセスランキングを確認したところ、これまでは星野が首位をキープしていたが、初めてその座を神代に明け渡していた。


「鈴音の天下もこれまでね」

「ぐぬぬ……ま、くまりーがイベントが終わるまでは貸しといたるわ」


星野は言葉とは裏腹に表情では悔しがっていなかった。

彼女はランキングにあまり興味がないようで、これは神代も同様だった。


(ランキングに一番執着している長町さんが、三位なんだよな……)

翔太はまた長町から何かを要求されそうで、身震いした。


「動画のアーカイブができたら、これもブログに投稿しよう」

翔太は自分がされたら嫌なことを、いけしゃあしゃあと言った。


ブログには動画の埋め込み機能が搭載されている。

これは長町からのリクエストによって実現した機能だ。 ※1


「ええっ! 動画に残るの!?」

「過去の基調講演も、公式サイトから観られるよ」

「うわー、知らなかったよ……」

「覚悟しときなっせ」


星野は誰に影響されたのか、エセ熊本弁で言った。


「動画に残るなら、間違えたこと言えないじゃない」

「そこは俺がチェックするから大丈夫だよ」


神代のプレゼンテーション能力は翔太の長い人生経験でもピカイチだ。

なんだかんだ言っても、神代なら問題ないであろうと踏んでいた。


「そういえば、何の話だったの?」

神代には、先程の風間の件を来客があったとだけ伝えていた。

用件を知った以上、誰と会ったかも言えない状態である。

を引き受けてしまったんだよなぁ……)


「あぁ、ちょっとね」

「おや、悪巧みかい? 越後屋さんや」

星野は時代劇の役者のような仕草でいじってきた。


「話をこじらせんなよ」

(まぁ、悪巧みなんだけどな……)


「――うげっ!」

翔太の携帯電話には、予想外の人物からメールが来ていた。


「何かありましたか?」

タイミングよく橘が休憩室に入ってきた。


「ええ、実は――」


⚠─────

※1 108話 https://kakuyomu.jp/works/16818093077567479739/episodes/16818093087154093999

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