第153話 窮地
「カメラもっと引いて!……そう、そこでいい」
オペレーションルームでは、風間がスタッフに指示を出していた。
アストラルテレコムのオペレーションセンターにあるオペレーションルームでは、映画『ユニコーン』の撮影が行われていた。
オペレーションルームは翔太が知っている景色から様変わりしていた。
デスクにはスタッフが用意したPCが設置され、周りにはカメラや照明機材が並んでいる。
オペレーションルームは二つのフロアを専有しており、その上階の一部はオペレーションルームを見下ろす見学ルームになっている。
上からのアングルを撮影するために、この見学ルームにもカメラが設置されている。
見学ルームでは、アストラルテレコムの責任者である加古川や、広報担当の蒼が様子を見守っていた。
「いよいよシーン125ね」
美園はこれ以上ないくらいに意気込んでいた。
シーン125は神代が演じる的場と、美園が演じる沢木がサイバー攻撃を撃退する場面であり、映画の最大の見せ場である。
神代と美園はこのシーンのために、多くの時間を稽古に費やしていた。
「神代、美園、脚本について話がある」
「「はい」」
風間の表情はいつになく真剣だった。
「脚本を変更する。これは決定事項だ」
「「ええっ!?」」
神代と美園は驚きを隠せなかった。
「美園、脚本のおさらいだ。サイバー攻撃の方法はどうなっている?」
「はい、あらかじめプログラムされた攻撃を私のオペレーションで防ぎます」
オペレーションルームの巨大モニターには、演出用のシステム監視アプリケーションが映し出されている。
これは翔動が受託し、開発したものだ。
擬似的なシステムが構築され、このシステムが攻撃を受けると巨大モニターにその様子が表示される仕組みだ。
このシステムはWeb Tech Expoのスポンサーブースでも展示される予定だ。
システムへの攻撃は自動で行われ、神代の指示を受けた美園がそれを撃退する段取だ。
臨場感を出すために、システムの防御が失敗すると、モニターにもその様子が反映される。
さながら、特務機関本部の指令室に安置されている第七世代有機スーパーコンピュータシステムのようだが、三つのシステムの合議制は採用していない。
「柊くんが謎の攻撃者として出演してもらうことになった」
「「えええええっ!?」」
神代と美園は驚きながら翔太を見つめた。
「といっても、柊くんの姿や声は映らない。システムの攻撃を自動操作によるものではなく、柊くんが行うんだ」
「そ、そんな……あんなに練習したのに」
美園は愕然としていた。
元の脚本では攻撃パターンがわかっているため、彼女はそれを防ぐための練習をしてきた。
攻撃者が翔太である場合、どのような攻撃をしてくるか、まったく予測がつかない。
「柊さん、本当なの?」
神代は信じられないという表情で翔太に尋ねた。
「あぁ、本当だよ」
「そんな……」
美園は絶望的な表情になった。
「美園さん、サイバーバトルと同じ状況だよ」
「ああっ! そうか」「たしかに!」
神代と美園は得心したようだ。
風間によると、サイバーバトルの経緯を聞き、このシーン125に反映させることを決めたようだ。
「言っておくけど、手加減しないからね」
「ええっ、なんで?」
美園は再び、弱気に傾いた。
「私から説明します」
二人の前にすっと橘が現れた。
「柊さんの攻撃が成功したら、神代が無償で柊さんの仕事を受けることで合意しました」
橘は契約書を差し出した。
内容は無償契約で、翔動と霧島プロダクションで交わされている。
「美園も同様です」
川口が出てきて、翔動とルミナスオフィスで交わされた契約書を提示した。
神代と美園をプロモーション活動などで採用する場合、その契約金額は莫大になる。
翔太は勝負に勝つだけで、この金額を無料にできるのだ。
翔動としては、このビジネスチャンスは逃せない。
「つまり、ガチの柊さんと戦って勝たないと、この撮影は失敗ってこと?」
美園は自分が追い込まれたことを自覚した。
「その代わり、あなたたちが勝てば、皇さんを一日自由にできます」
「「!!」」
橘の発言に神代と美園は顔を見合わせた。
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