第120話 一騎当千

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「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」の第45-46話と同じ時間軸です

https://kakuyomu.jp/works/16818093081647355813/episodes/16818093084353094393

https://kakuyomu.jp/works/16818093081647355813/episodes/16818093084399903082


全体の時系列情報は下記を参照してください

https://kakuyomu.jp/users/kurumi-pan/news/16818093086120520701

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「いやー、めでたいっ!」

石動は日本酒の入ったお猪口をあおりながら言った。


「ねぇ、私もこの場にいていいの?」

新田は戸惑いながら寿司をつまんでいる。


「新田は功労者だから、遠慮しなくていいよ」

翔太はいつになく機嫌がよかった。


三名はMoGeの上場を記念して祝杯をあげていた。

いつもの安居酒屋ではなく、回っていない寿司屋だ。


「これで貸し会議室生活とはおさらばできるな」

「早くても三ヶ月くらい先だけどな」


「どゆこと?」

「所有している持ち株を売却できるまで、それくらいかかるということだよ。

そのときに、まとまった資金が入ってくるので、石動はオフィスを構えようとしているんだと思う」

「あんたたちはそれだけで通じるのね」

((ギクッ))


翔太は石動の思考をある程度トレースできている。


(たまに突飛なことを思いつくんだよなぁ)

MoGeへの介入は石動の発案から始まっていた。

翔太が人生経験で得たものは多いが、代わりに若さゆえの情熱や衝動的な感情は失いつつあった。

石動は翔太が持っている知識や経験を羨ましがっている反面、翔太も石動に対しての羨望がある。


「元は映画のスポンサー費用として用意した金だけど、十分お釣りが出そうだからな」

「そんなに投資したの? 詳しくは知らないけど未公開株ってリスクが高いんじゃないの?」

「それが、MoGeに投資するって決めたのは柊なんだよ」

「え? 柊が!? なんかイメージと違う……」


新田からも翔太はリスクを嫌うように見えているらしい。


「まぁ、勝算がそれなりにあったからな」

「そういえば、お前こそこそ動いてたな」

「あぁ、それは――」


翔太は霧島プロダクションの資本提携の経緯を話した。


「――ということで、霧島さんや神代さんにもお世話になったので、いずれちゃんとした形でお礼をしたい」

「よくそんなことが思いつくわね……私は明確な解が出せる問題解決なら得意だけど、そういうのは無理だわ」


新田はロジカルな思考が得意で、プログラミングのようなルールが決められている土俵では無類の強さを発揮するが、自由度が高すぎる分野は苦手だ。


「柊がやってるのは裏技ばかりだからな……」


***


「――それと、位置情報のAPIなんだけど、位置データを埋めるのは単純作業だからアルバイトを雇いたい」


翔動はMoGeが開発する位置情報ゲームの一部の開発を請け負うことになった。

新田によってプロトタイプが作成されており、翔太はこのことを指して『功労者』言っていた。


「確かに、ここにいる三人でやるには才能の無駄遣い過ぎるな……アテはあるのか?」

「アクシススタッフの子会社を使おうと思っている、それなりの人材はそろっているはずだ」


翔太はアクシススタッフの子会社に在籍している優秀な人材を確認しようとしていた。

この人材に実際に仕事をしてもらい、自分自身で判断するつもりだ。


「eラーニングもあるし、忙しくなりそうね」

「それなんだけど……新田」

「ん?」

「うちに来ないか?」


石動の表情はいつになく真剣だった。


「お、おぃ、石動……」


翔太は焦った。新田は是が非でも獲得したい人材だ。

石動の倍ほどの人生経験をもってしても、新田ほどのITエンジニアには出会うことはなかった。


『千軍は得やすく、一将は求め難し』と言われるが、新田はこの一将に値する人物だと柊は評している。

十人の平均的なエンジニアと新田一人のどちらを雇うか選ぶなら、翔太は迷わず後者を選択する。

IT業界において、それほど優秀なエンジニアは生産性が高く、さらに新しい技術を生み出す能力がある。


優秀な人材を確保するためには、金銭的な待遇だけではなくさまざまな面を考慮する必要がある。

ITエンジニアの場合は、扱っている技術だったり、開発環境に適したインフラだったりだ。

翔太の時代ではリモートワークができることが条件だったりもした。


したがって、翔太は新田にとって十分な職場環境を作るために、いろいろな準備をするつもりでいた。

石動が言っていたオフィスもその一環だ。


(今新田に断られたとして、次にとるべき手段は……)

柊の脳内はイオンを加速する加速器――超伝導リングサイクロトロンのように高速回転していた。

(☄🪐💫✴✳❇🧬🫧🌪️➰➿🌀〽〰⚡💠🔼🔼🔽🔽◀▶◀▶🆎)




「――いいわよ」

新田はあっさりと言い放った。


「ほぇ」

翔太は糸が切れた糸繰り人形のように脱力した。

翔太の脳内では一日ほどの思考を重ねていたが、実際には数秒も経過していない。


「おぃ、自分で言っておいてなんだけど、まだ条件とか言ってないぞ?」

さすがの石動も驚いている。


「だって、サイバーフュージョン今の会社より、こっちのほうが面白そうだもの……

それに――」

「マジかぁ……超嬉しい!」

石動は告白に成功した中学生のようになっている。


『はぁ……若いっていいなぁ……』

翔太はボクシングアニメの最終回のように、真っ白に燃え尽きていた。


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43-44話での、登場人物名のネタバレをようやく回収しました。

漫画『タッチ』の登場人物である新田由加は、主人公上杉達也が在籍する明青学園に入学をしています。

サイバーフュージョンの登場人物はすべて、明青学園のライバル校である須見工の人物から取っています。

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