古来より受け継がれしレガシィ。ケモナー。
「昨日の夜は流したんだけどさ……」
林間学校、二日目。
施設の講堂での補修の中、小太郎は小声で話かけてきた。
「あの玉羨って、妖魔なんだよな?」
あー……うん。
本当はそれ秘密なんだけど、つい口が滑っちゃって。
「またかよ。お前のネタバレ、もう二度目だぞ。いくらなんでも滑り過ぎだろうに」
いやホント、マジでごめん。
それについては弁明できない。
「でもまぁ聞いたからには仕方ない。この際だし、あいつについて教えろ」
そうだね。
那須國玉羨は妖魔……つまりは妖怪の一種だよ。
しかも、ただの妖魔じゃない。妖魔の中でもトップクラスに妖力が高いとされる妖狐族さ。
「確かにそれっぽい。見た目といい口調といい、想像通りの妖狐って感じ。それにしても開発者の奴、ついにやりやがったな」
やりやがった?
「玉羨のことだよ。虚空から包丁を取り出すのはまあ許そう。未来視も百歩譲る。騎士も称号的なところが強いからセーフ。だが、妖魔はさすがにダメだろ」
どうして?
「どうしてもこうしてもあるかよ。妖怪だぞ妖怪。もはや人じゃねえじゃん。現実感が蚊帳の外じゃん。さすがにそれはダメだろ開発者」
言わんとすることはわかるけども、言ってもこれ、ゲームだからさ。
「ゲームってのは全てが許される免罪符になるわけじゃないからな? どうすんだよあいつ。立ち位置がわかんねえよ。まさかメインヒロインとでも言うのかよ」
その通り。
実は隠しキャラのメインヒロインなんだよね。
「今時の隠しキャラってのは呼んでもないのに出てきたりするもんなのか? 隠しキャラならもっと慎ましく登場しやがれっての」
ピーンと来た情報によると、本来は特定の条件を揃えると出現するって感じだったらしい。
「特定の条件ってなんだよ。インスタントコーヒーを一袋完食とか言うなよ? そんなのが条件だったらお前、隠しキャラどころかただのバグキャラじゃねえかよ」
ちなみに玉羨のあの姿は人型に変化した姿だよ。
本当はちゃんと狐の姿をしてるんだ。
「おいおいおい、嘘だろおい。とんでもねえ設定ぶち込んでんじゃねえよ。メインヒロインが獣ってどういうことだよ。それ妖狐じゃなくてただの狐じゃねえか。大丈夫なのかよ。エキノコックスとか」
その辺は大丈夫でしょ。
それに獣がヒロインってのも、別にぶっ飛んだ設定じゃないと思うんだけど。
昔からよくあるじゃん。妖怪や獣が人に化けて人間と恋に落ちるって話。
雪女然り、鶴の恩返し然り、古来から人と人外の恋愛は描かれているわけだし、ケモナーはDNAレベルで叩きこまれた正統な趣向だよ。古来より受け継がれしレガシィだよ。
「無駄に説得力のある言葉で誤魔化してんじゃねえよ。どこの世界にリアル獣と恋愛するゲームが存在するんだよ」
あるじゃん、ここに。
「だからこのゲームは売れてねえんだよ。……あ」
マイノリティなニーズに応えた最高のゲームと言って欲しいのだった。
【GAME OVER】
「――……くっそ、久しぶりにやらかしたぜ。朝からの補習の受け直しとかどんな拷問だよ」
ともあれ、これでメインヒロインがある程度揃ったみたいだね。
「そうなのか?」
ピーンと来た情報的にはそうみたいだよ。
【包丁エクスカリバー】藤咲鏡花。
【
そして【悪辣妖狐】那須國玉羨。
まあ攻略対象外キャラのエリスもいたりするんだけど、とりあえず本編のメインヒロインがこの3人らしいよ。
「なんつー面々だよ。まともなヒロインが一人としていねえ。っていうか悪辣妖狐って……え? あいつ、そんなに悪い奴なのか?」
とっても悪いみたいだね。
過去には世界を滅ぼそうとしたこともある凄まじい妖魔で、妖魔界でも絶大な権力を持っているらしい。
「ヒロインどころかラスボスじゃねえか」
ちなみに昨日握手を求めてきたのはアレだよ。
実はあの時、掌に高濃度の妖気を付与していて、触れた瞬間に小太郎が異形の妖魔に変異していたんだよ。
その小太郎を操作して、世界をめちゃくちゃにしようとしていたってこと。
「徹底的に恋愛ゲームヒロインの行動じゃねえよ。マジのマジでラスボスだよそれ。つーかなんでそんな奴がこんな山の中にいるんだよ。っていうかこのゲームはどこに進んでるんだよ」
全ては、小太郎次第ってわけさ。
「最後の最後で全責任を被せてきやがったよ……」
そんなこんなをしていた時であった。
突如として、講堂に紫色の霧が立ち込めてきたのである。それは瞬く間に室内に充満し、最初こそ生徒達はざわついたものの、たちまち静まり返るのであった。
「なんだなんだ? 何が起きたんだ?」
これはアレだよ。
催眠性の妖術だね。
「妖術? そんなもんを登場させて大丈夫なのかよこのゲーム」
小太郎ってさ、心配するところが若干ずれてるよね。
「しかし鏡花や秋良たちまでしっかりと寝てやがるのに、なんで俺は眠くならないんだよ。まだ効いてんのか? コーヒーカレー」
あー、それはね――。
「お主が儂の妖生石を持っておる影響じゃろう」
霧の中から、聞き覚えのある声が聞こえた。
そして一瞬にして霧が晴れ、那須國玉羨が小太郎の前に立っていたのである。
「夜ぶりじゃな、小太郎」
「お前さ、確か二度と会うこともあるまいとか言ってなかったか?」
「儂とて会うつもりはなかったのじゃが……状況が変わっての。小太郎よ、話がある。付いて来るのじゃ」
「付いて来いって……俺の補修はどうするんだよ」
「ほしゅう? よくわからんが、この辺り一帯に妖術をかけておる。他の人間どもであれば半日は起きることはなかろうて」
「それに対する健康被害とかけっこう気にはなるけども……補修受けなくて済むならオールオッケーだぜ!」
補修免除の大義名分を得た小太郎は、よく考えずにノコノコと付いて行くのであった。
俺が転生したかったのは俺tueeeeが出来るRPGゲー厶世界であって理不尽恋愛ゲー厶世界じゃない。 あれくす @alexnder
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