寝すぎ56 第一部最終話 さあ! ――――へ! 目指すは新たな舞台! 超新星男ネルト・グローアップの新たな伝説!

「……行っちまったか。バッと現れたと思ったら瞬く間に去る。まるで嵐みたいだったぜ」


 どこまでも彼方へとつづく空を見上げ、ネルトはそうつぶやいた。


 すでにハワードとフィーリアを乗せた魔導飛空艇は飛び去り、完全に見えなくなっている。


 屋上を覆う障壁も時間経過により先ほどハワードが開けた穴を塞ぎ終え、完全に元の姿を取り戻していた。


 バシャ、パシャ。


「いつもそうなのよね。パパとママったら」


「ん。もう慣れた」


「あん? そりゃどういうこった? パフ。スピー」


 いつもいるのにいつもいない、いつもいないのにいつもいる――そう前置きして娘姉妹は語りだした。


 一家4人でずっと暮らしていた時間はあまり長くはなく、妹のスピーリアが小等部に入学するころには、父ハワードの仕事が忙しくなり、家を空けることがほとんどとなったこと。


 さらに、姉パフィールが小等部高学年になると、母フィーリアも本格復帰し、それまで以上に家を留守にするようになったこと。


「そうか……。それじゃあ二人とも、子どものころはずいぶんとさびしい思いを……」


「って、思うでしょ? それがそうでもないのよ。オジサマ」


 ――例えば。


 夜寝る前はいなかった。でも、次の日の朝ごはんはいっしょに食べた日。


 逆に、朝起きたら添い寝されてて、そのままあわただしくバタバタとあっちに戻って行った日。


 夜ごはんも寝るのもいっしょじゃなかった、けど、お風呂だけは家族みんなでわいわいといっしょに入った日。


 普段は忙しくて料理をしない母親フィーリアが何時間もかけて腕によりをかけて作ったごちそうを家族みんなで笑いあって食べた日。


 もちろん、朝起きたときから夜寝るとき、次の日の朝おはようってするまでずーっといっしょだった日だってある。


 一日中家族みんなでおでかけして、本当に本当にすっごく楽しかった思い出の日だってある。


 家族みんなで病院で寝てるオジさまを早く元気になって、ってお見舞いした日だって、何度も。


「きっとね。全部あたしたちに使ってくれてたんだと思う。空いた時間を、全部。それこそ、寝る間を惜しんで。……着替える時間だって、惜しんで」


 ――そういや、あの二人水着のまま帰ってったなぁ。妙に絵になってたけど、本当にまるで映画のワンシーンみたいだったぜ。


 ――それこそ、日常が映画、だってか? あの二人なら。


「ん。それに、言わなくてもいつも伝わってくる。ハワぱぱとフィーままがどれだけわたしやパフねえを好きで、愛してくれてるかってこと、大切にしてくれてるかってこと。いつもいつも、たくさん、たくさん……!」


 いつになく興奮したように、身振り手ぶりをまじえながら、スピーリアが伝えようとしてくる。


 生まれ持ったスキルの力で誰よりも他人の精神に敏感な娘姉妹の妹がその必死になる様子に――いまごろは次の仕事に備えて道中、飛空艇の中で寝てるのかねぇ?――などと思いながら、ネルトは二人の頭の上に手を置き、ニカっと笑いかける。


「そうか……! やっぱりすげぇなぁ……! さっすがパフとスピーの両親おやだぜ!」


「うん!」 「ん!」


 そうして、大好きなパパとママを大好きなおじサマに褒められたことに心の底から喜び、頬を赤らめ気持ちよさそうに目を細めながら、しばし娘姉妹は金と銀の髪をわしわしとされるのだった。


 そして、いいかげん二人の気が済んだころ。手を離し、真剣な表情になると――


「よし……! じゃあ、二人の両親があらためてやっぱりすげえってわかったところで、パフ。スピー」


「……オジサマ?」


「ネルおじ?」


?」


 ――手を差し伸べ、ネルトは、問いかける。


 多くは、どこへかは語らない。


 ただ、娘姉妹は知っている。その短い言葉の中にこめられた意味も、覚悟も、困難も、意思も、描く未来も――


 パシッ!


「うん! 行きましょう……! オジサマ!」


「ん……! 行こう! ネルおじ!」


 ――だからこそ、一瞬の躊躇もなく、二人はその手をとった。




   *



 ザッ。


 そしてそのわずか数時間後、冒険者服に着替えた3人は並んで空港の前に立っていた。


「ふふん! さぁ! ついに来たわ! やるわよ! オジサマ! スピー! すぐに追いついてやるんだから!」


 左の姉パフィールが制服の腰に手をあて、ぱふぷるんと高鳴る胸を奮わせる。


「ん! わたしとネルおじとパフねえとなら、ぜったい、できる……!」


 右に立つ妹スピーリアがすぴぷるんと期待に胸を躍らせながら、こくこくと力強くうなずいた。


「ああ! へへ! せいぜい驚かせてやるとしようぜ! パフ! スピー! 俺たちで! あの二人と、そして! 世界ってやつをよ!」


 そして、真ん中のネルトがドヤ笑顔で一歩を踏み出し、二人もそれに続いた。


「「「目指すは……!」」」


 ゴウッと一隻の船が空の彼方へと駆けていく。


「「「――――へ!!!」」」


 それぞれの目には、進むべき未来がはっきりと見えていた。


 その先に待つのは、新たな舞台。20年遅れてきた超新星男ネルト・グローアップがさらなる飛躍と新たな伝説を打ち立てる――広い広い、世界という名の。






   ***




 というところで、ひとまず約10万字、第一部完として一度物語を締めさせていただきます!


 ここまでおつきあいいただき、本当にありがとうございます!


 ここまで楽しんでいただけた方、ぜひ作者のモチベアップのためにも、★★★評価やフォロー、いいね! などの目に見える形の応援をどうかよろしくお願いいたします……!


 そのお返しに、作者はより楽しめる物語をみなさまにおとどけしたいと思っています……!


 それではまた、この作品の続きか、作者の別の作品か、お会いできる日を楽しみに待っております!

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寝すぎたオッサン、無双する〜親友カップルをかばって昏睡から20年、目覚めたら俺のハズレスキル〈睡眠〉が万能究極化してて最強でした。超人気配信冒険者の親友の娘姉妹が、おじサマと慕って離してくれません〜 ミオニチ @sakuni

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