寝すぎ55 ふたたびの親友たちとの別れ。……家族公認? とネルトと娘姉妹の新たな誓い。

 コゥン、コゥン……!


「はぁぁっ!」


 ――一閃。


 気合いとともに天高く、ハワードが右手の漆黒の刃を突き上げる。


 パ、キィィィィィィィンッ……!


 剣先から放たれた黒き刺閃は、タワーマンション屋上を覆う強固な障壁の、その天井部分の一部にたやすく風穴を開けた。


 ジャラララララッ……!


 上空に浮遊する、冒険者協会幹部であるハワードの運用する最新鋭の小型高速魔導飛空艇〈ネオフロンティア〉号。


 その底部から、開けた風穴を通して一本の太い鎖が降りてくる。


「フィーリア!」


「はい! ハワード!」


 剣を個人収納空間ロッカーにしまい、バシャッ! と水音を立てて跳び上がると、ハワードはそれを片手でがっしりとつかむ。


 それからいつかのように、遅れて跳びついてきた妻フィーリアをもう片手でしっかりと抱きとめた。


「パフ! スピー! そして、ネルト! ほんの短い時間の帰宅となってすまない! 楽しかった! ありがとう! それに、僕は心から確信できた! 君たち3人がいっしょにいてくれるかぎり、何も心配はないって!」


「パフ。スピー。暫定とはいえ、もう学生ではない以上、あなたたちはもう立派な大人です。家族として、ネルトさんをしっかりと支えてあげてくださいね」


「ま、ママ……! う、うんっ!」


「ん。もちろん。フィーまま」


 耳もとまで真っ赤にして答える姉パフィールと、さも当然のようにこっくりとうなずく妹スピーリア。


 その対照的な娘二人の答えににっこりと微笑むと、そのすぐ近くにたたずむネルトに向かってフィーリアはハワードに抱えられたまま、深々と頭を下げる。


「ネルトさんも、まだまだ至らないところのある娘たちですが、どうぞよろしくお願いします」


「お、おう……!」


 ――なんか話が妙な方向にいってる気がするなぁ……? と薄っすらと思いながらも、ネルトは力強く返事をする。


「ふふ。20年前みたいに他の女の子に目移りばかりしては、だめですよ?」


「って、おいっ!? ふぃ、フィーリアっ!?」


「……オジサマ?」


「ネルおじ……」


 バシャバシャと、今度はそっくりな態度と表情でネルトにつめよる娘たちを見てくすくすと微笑むと、腕の中、フィーリアはハワードに向かってうなずく。


 それに対してうなずき返すと、ハワードはふたたび地上に向けて叫んだ。


「また休みをとって帰るから! 愛してる! パフ! スピー! ネルト! 二人を頼む! そして!」


 そこで一度言葉を切ると、まっすぐにハワードは右親指を立てた。


「僕たちは――待っている!」


 ――その短い言葉の中にこめられた意味をいまのネルトと娘姉妹は知っている。そして、胸の中にその意味と想いを刻みつけてから。


「おう!」「うん!」「ん!」


 三者三様の言葉を返し、グッ……! と3人まったく同時に、右親指を――


「「「必ず!!!」」」


 ――天と、大切な人たちに向かって揺るぎない誓いを立てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る