十三灯
チリンチリン.....
店主「いらっしゃいませ。」
「ここは....。」
店主「ここは、食堂です。御好きな席へどうぞ。」
「そうですか。」
とことこ。
(ここの席でいいか。)
店主「こちら御冷とメニューです。お決まりになりましたらお声掛け下さい。」
「はい....。」
(.......このメニュー)
「すみません。こちらの、和食セットでお願いします。」
店主「畏まりました。」
「あの......。」
店主「はい、どうなさいましたか?」
「いや、なんでもない。」
店主「畏まりました。いつでもお声掛け下さいね。」
「.........。」
店主「お待たせいたしました。こちら和食セットです。」
「..........、すみません。」
店主「はい、なんでございましょうか?」
「これ、誰が作ったんですか?」
店主「それが、いつもはここの食堂にいる料理人が料理を提供して下さるんですが、今日はいつもと違う人が料理を作ってくださいまして......。」
「会ってみてもいいか?」
店主「.......。聞いてみますね。」
「お願いします。」
パタン(ドアが閉まる音)
店主「会ってもいいそうですよ。」
「..........。すまないが、店主さんは少しここで待っていてくれないか?」
店主「畏まりました。」
パタン
「............。すまん。」
料理人「何がだ?」
「家継げなくて.......。」
料理人「そげいな事を言いに会いに来たんか?」
「............。ごめん。」
料理人「.......はぁ、そればっかだなお前は。」
「............。」
料理人「元気、してたか?」
「あぁ。」
料理人「飯食ってたか?」
「あぁ.....。」
料理人「お前が都会行って、働くことに俺はぁ反対してたな。」
「..........。あぁ。」
料理人「後悔してねぇか?」
「..........。」
料理人「はぁ......。自分の選択に後悔してないのかって聞いてんだ。」
「.....あぁ。」
料理人「そうか......。良かったな。」
「親父、俺は......。」
料理人「お前は、俺が家を継いで欲しくて、反対したように思えたんが知れねぇがなぁ。それはぁ間違いだ。」
料理人「お前、飯食ったか?」
「....まだ。」
料理人「食ってこい。話はそれからだ。」
パタン.....
店主「お話は出来ましたか?」
「........、すみません、まだです。」
店主「そうですか、お力に慣れることがございましたら、いつでもお声掛け下さい。」
「はい。」
(..........美味いなぁ。)
「ご馳走様でした。」
店主「こちらお下げいたしますね。」
「あ、ありがとうございます。その、もう一度話しをしてくるのでその。」
店主「畏まりました。ごゆっくりどうぞ。」
「ありがとうございます。」
パタン......
料理人「.....どうだった?」
「え?」
料理人「飯は。」
「美味かった。親父の味そのままだった。」
料理人「そうか。美味かったか..........。」
料理人「俺は、それが聞けただけで十分だ。」
「.......。親父......その、なんで反対したんだ?」
料理人「分かんねぇか?まぁそうだな。」
料理人「俺は、この料理.......前ら家族に喜んでもらえる飯を作るのに、何十年と修行して、苦労してお前らを育ててきた。」
料理人「お前らに贅沢させてやる余裕はねぇし、大学の金だってギリギリ出してやれる程度で、生活費は稼いでもらわにゃならん。」
料理人「都会なんてな、苦労は絶えねぇし、辛い事だって多い。お前はしっかりしてねぇし一人暮らしなんて大変だろ?」
料理人「お前の夢を応援してやりてぇ気持ちはあったんだがな、心配で仕方なかった。あんだけ強く言えばな、お前もしっかりするだろうと。」
料理人「まぁ、お前は自慢の息子なんだから、心配なんてしてねぇで、全力で応援してやれば、すれ違うこともなかったのかもしれねぇがな。」
「........。」
料理人「なんだぁお前、泣いてんのか?」
料理人「いい歳しやがってからに.....お前も今は俺と同じ歳ぐれぇだろうがよ。」
「........すまん。」
料理人「はぁ、いつまでたってもお前は俺の息子だなぁ。」
「ありがとう.....親父。」
パタン......
店主「お話はできましたか?」
「はい、ありがとうございました。」
店主「御忘れ物はございませんか?」
「はい。」
店主「それでは、ご案内させて頂きますね。」
「お願いします。」
チリンチリン.....
店主「いつの日か、巡り巡ってまたのご利用をお待ちしております。」
幽世食堂 白ウサギ @SnowRose0
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