十二灯

ちりんちりん.....

店主「1名様ですか?」

女性客「はい......」

店主「ご案内しますね。こちらの席へどうぞ。」

女性客「ありがとうございます。」

店主「こちらメニューです。お決まりになりましたらお声掛け下さるか、そちらのボタンを押してください。」

女性客「はい......」


女性「ねぇ....店主さん......」

店主「はい、どうなさいましたか?」

女性「今、個室に案内した方ともお話.....してみたいんだけど.....いいですか?」

店主「そうですね.....あの方が大丈夫でしたら、私は構いませんが.....」

店主「聞いてみますね。」

女性「....ありがとうございます。」


店主「お客様。少々よろしいですか?」

女性客「はい.....」

店主「あちらのお客様が、あなた様とお話したいそうなのですが構いませんか?」

女性客「........どうしてですか?」

店主「そうですね......一人で何かを抱えたままより、誰かに話して誰かと分かち合った方がいいからじゃないでしょうか?」

女性客「........あのお客さんがそう言ったんですか?」

店主「いいえ、これは私の考えですよ。あのお客様は少し特殊な方でして.....。」

女性客「......ひいきしてるから?」

店主「違いますよ。それにお話ししたいとおっしゃったのはあのお客様からですよ。」

女性客「..............。」

女性客「いいよ。」

店主「よろしいのですか?」

女性客「..........。」

店主「畏まりました。お伝えしておきますね。」


店主「大丈夫だそうです。」

女性「......ねぇ、店主さん。」

店主「はい。なんでしょう。」

女性「個室に案内したってことはやっぱり、あの女性の誰とも話したくないって意思を汲み取ったからだよね?」

店主「う~ん.....確かにそうですが、そうでもないんですよね。」

女性「どういうこと?」

店主「それは、あなた様が直接確かめてみてはいかがでしょうか?」

女性「......わかった。」


女性「こんにちは......えっと、私がいても大丈夫かな?」

女性客「.......はい、お姉さんが私とお話したいって言ったんですよね?」

女性「えへへ、そうなんだ。迷惑だった?」

女性客「はい、迷惑.....です。一人でゆっくりしたい気分だったので。」

女性「あはは.......そ....そっか。ごめんね。」

女性客「お姉さんはどうして私なんかとお話したかったんですか?」

女性「えっと、何か困ってるのかなって......寂しくないのかなって.......」

女性「いや、ごめんね。自分のためなのかも.....」

女性客「自分のためですか?」

女性「私.....まだ生きてるらしいんだ。でも自分がなんで病院で寝てるかとか、なんでこんな場所にいるのかわかんないんだ。」

女性「戻る方法が、他の人に私の事知りませんか?って聞いて教えてもらうか、私自身が思い出さないといけないらしいんだけど。」

女性「.......それでね。お話したかったのと、私自身が寂しかったのかも.......」

女性客「寂しい.....ですか?」

女性「そう。あんまりお客さん来ないし、お話し相手も店主さんか料理作ってくれる人くらいしかいないし......それに納得いかない。」

女性客「納得?」

女性「この前ね。私と同じ病院に入院してた子が来たんだけど、私噓ついちゃったんだ......今の私がどういう状況かもわかんなくて、どうしようってなってただけだったけど、私も頑張ってるんだよって。」

女性客「それは......優しい嘘ってやつじゃないんですか?」

女性「.......でもあんな小さい子が、頑張ってるのに私はただ自分のために、それに"またね。"って......」

女性客「.........。」

女性「ごめんね、自分の話ばっかりで.....」

女性客「いえ.....ちょっと意外でした。」

女性「え?」

女性客「お姉さんあんまりそういうの気にせず、ずかずか聞いて来たりして何とも思わない人なのかなって思ったので。」

女性「そんな風に見えたかな?」

女性客「はい、いきなりお話したいとか言ってくるような人なので.....」

女性「あはは.....。」

女性客「私、あなたの事は知らないですよ......。」

女性「そっか、ごめんね。」

女性客「でも、お姉さんとお話できて良かったのかもしれないです。」

女性「どうして?」

女性客「私、いじめられてたので。」

女性「え......いじめ?」

女性客「はい、最初は仲良かったんですけど、相手の勘違いからいじめになっちゃって。」

女性客「逃げてきた先がこんな場所とか笑えないですよね。」

女性「なんで......」

女性客「ちょっとなんですか、抱きしめてこないでください。」

女性「どうして......」

女性客「ちょっと、痛いです。」

女性客「それに、"なんで、どうして"って言いますけど、一番聞きたいのは私だし、いじめってそういうものですよ。」

女性「辛かったよね?」

女性客「.....だから嫌だったんですよ。自分が惨めに思えてくるので、だから誰とも話したくなかったんです。」

女性「惨めなんかじゃない。悪いのは向こうでしょ!」

女性客「.....誰が悪いとかじゃないんですよ。向こうからしたら私が悪者だっただけなんです。」

女性「でも、ひどい。」

女性客「はぁ......店主さんが言ってたのってこれだったのかもですね。」

女性「え?」

女性客「お姉さんに話して少しスッキリしました。」

ポン.....

店主「はい、お決まりでしょうか?」

女性客「これと、これと、あとこれとこれね。」

店主「畏まりました。以上でよろしいでしょうか?」

女性客「はい。」

店主「畏まりました。少々お待ちください。」


女性「えっと、大丈夫?」

女性客「うん、大丈夫。」

女性客「お姉さんさ、名前は?」

女性「えっと、○○ ○○...です。」

女性客「私は、○○ ○○○、短い間だけどよろしくね。」


店主「お待たせいたしました。こちら、唐揚げ盛り合わせと、大盛フライドポテト、スティック野菜の付け合わせと、大盛ポテサラダです。」

女性客「あーあ、今日はやけ食い確定だね。」

女性「ちょっと多いよね。」

女性客「ねぇ。」

女性「はい。」

女性客「なんで他人行儀なの、もっと普通に話しなよ。さっき急に抱きしめてきたくせに恥ずかしいの?」

女性「えっとそれは、あはは。ごめんね、嫌だったよね。」

女性客「.....お話したいって言ってくれてありがとう。」

女性「え....ううん、こっちも、寂しかったしそれに....ありがとう。」

女性客「はい、もう食べよ、食べよ。嫌な事全部忘れてさ。」

女性「うん、食べよっか。」

女性客「はぁ、お姉さんともう少し早く出会えてたら、良かったのかも。」

女性「え?何か言った?」

女性客「お姉さんが急に抱きしめてきたところが痛いって言ったの。」

女性「え、ご、ごめんね。そ、そんなに痛かったの?」

女性客「嘘よ、嘘。」


ちりんちりん......

店主「楽しかったですか?」

女性「うん。楽しかった.....。」

店主「いっぱい話せましたか?」

女性「うん.....短い間だったけど、お友達になれた。」

店主「何か思い出せましたか?」

女性「ううん、何も....でもヒントをもらったの。」

店主「ヒントですか?」

女性「大事な物の思い出し方。」

店主「そうですか.....良かったですね。」

女性「私ね、戻ったらあの子の事、探そうと思う。」

店主「探すのは大変ですし、見つけられたとしても、もういないですよ?」

女性「それでも、あの子の友達だから。」

店主「そうですか、頑張ってくださいね。」

店主「まずは、記憶を思い出すところから。」

女性「うん。」

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