騎士と老兵(白)

雲依浮鳴

騎士と老兵(白)

◆配役

騎士:男。20歳前後。ラン・キュラス。王国一の腕前を持つ。反逆者。

老兵:男。60~70歳程度。カラン・インセチア。元王国一の腕前の騎士(声の年齢は騎士より上であれば表記より若くても良い)。


※:この台本の最後は演者による選択によって変わります。事前に話あって決めて頂くか、劇中に決めるなど好きに決めて貰えればと思います。もし劇中に決める場合には騎士役の方が決めてください。

・SEつけると盛り上がるかも

・声の性別を変えなければ、演者の性別は問わない。


◆背景

とある国にて、国に忠義を尽くした二人の騎士。だが、国王が変わってからは、国民の騎士も裏切られるばかり。一人は愛する者の為に、一人は亡き戦友との約束の為に、恩を仇で返される日々に耐えていた。そんなある日、二人にとって最愛の人が殺されてしまう。人の道を外れ、復讐を果たさんとする騎士と、それを止める老兵のお話。


騎士と老兵

配役表

騎士:

老兵:


作者名:雲依浮鳴

台本リンク:




―本編―


0:静まり帰った王の間。重厚な扉を荒々しく開けて入ってくる騎士。それを1人で迎える老兵。


老兵:よぉ、思ったより早かったな。あれからまた腕を上げたのか。


騎士:・・・ジジイ、アンタだけか。国王はどうした?兵士を置いて逃げちまったのか?


老兵:あぁ、その通りよ。貴族共々、この裏の通路から逃げてったわ。ハリボテの王と呼ばれるのも納得の速さで、我先にとな。


騎士:くだらねぇ


老兵:あぁ実にくだらん。ここらでやめにせんか?討ち取りたかった王はもうここにはおらん。争うだけ無駄だとは思わんか?


騎士:追いかけてでも殺すよ。首を晒さないと気が済まない。


老兵:他国に亡命していたとしてもか?


騎士:関係ない。隠すなら、その国も滅ぼす。


老兵:一国家を単身で崩壊させた男が言うと、説得力が違うのう。だが、ワシはお前を無駄死にさせたくは無い。


騎士:なら、そこをどいてくれ。俺も師匠を手にかけたくはない。


老兵:お前が剣を納めてくれるのが一番平和的なんだが、考えてはくれんか?


騎士:悪いが納める鞘は、どっかで落しちまったよ。


老兵:そうか、奇遇だな。ワシもだ。


騎士:・・・


老兵:一体いつから、この国はおかしくなってしまったのか。


騎士:先代の国王が病に伏せてからだろ。後任の王は、器じゃなかった。政治も戦も、他国に良いようにされてばかりだ。その癖に、虚勢と見栄だけは立派で、国民の声には耳を貸す事もなかった。正に愚の王だよ。こうなるなら、もっと早くに首を狙うべきだった。


老兵:お前の言う通り、先代の王が病に侵されてから、この国は衰退していった。国民を第一に考えていた政治から、一部の貴族が肥える為だけの物に変わっていった。こうなる前にどこかで、我々が一丸となって声を上げていたら、ワシの孫は・・・・


騎士:なぁ、ジジイ。気持ちは俺と同じなんじゃないのか?


老兵:・・・どうだかな、胸の内が熱いのは確かだ。


騎士:俺とアンタなら、どんな国が相手だろうと地の果てまで追いまわして、いや、地獄の果てまで追いまわして、クソ共の血を絶やす事ができる。いい考えじゃないか?


老兵:・・・


騎士:なぁ、昔みたいにまた導いてくれよ。俺はあのクソ共を殺した後、どうしたらいいのかわからねぇんだ。今も頭は冷静だが、身を焼くほどの恨みと怒りで動いてる。関係の無いやつも巻き込んでしまいかねない。


老兵:それに関しては、もう手遅れだ。関係の無い兵士を何人殺した?彼らにも家族はいるぞ。


騎士:クソ共を庇ったんだ。仕方がない事だろ?それに俺は、命が欲しいなら退け(どけ)と言ったんだ。騎士が剣を構えて向かってくるなら、こちらも答えるのが騎士道だろ?アンタの教えだ。その教えに従ったまでだ。


老兵:ここまで強くなるように教えたつもりはなかったのだがな。


騎士:教え方が良かったんだろ。喜べよジジイ、アンタの教え子は国家転覆できるほどのバケモンに育ったぞ。


老兵:・・・だから、ワシが責任を持ってお前を止める。


騎士:止める、ねぇ。優しい言い方をしてくれるなぁ。殺す、だろ?


老兵:・・・


騎士:まさか、未練があるとか言わないよな?


老兵:家族同然の弟子を手にかけるのに、躊躇わない者がいると思うか?


騎士:家族か、嬉しいよ。だけど残念だ。本当の家族であるアンタの孫が、見捨てられて死んだんだ。それこそ無駄死だ!なのに、なのに!何で血の繋がったアンタが!!冷静でいられるんだよ!!


老兵:冷静なものか!!!馬鹿者が!!ワシが愛した孫の訃報を耳にして!冷静でいられると思うておるのか!!


騎士:ならなぜ王座を守ってんだ!?これはあのクソ共が招いた結果なんだぞ!散々国民から税を巻き上げておいて、危うくなれば国を投げ捨てる王だぞ!?彼女が死んだのだって!戦術のせの字も知らない馬鹿な貴族どもが、捨て身の特攻ばかりをやらせたからだ!!アイツらは!兵士の命を自分らのペットよりも軽んじている!!使い捨ての駒だと!そう言い捨てたんだぞ!!バケモノはアイツらだろうが!!


老兵:わかっておる!わかっておるとも!!


騎士:ならばこそ!共に打ち取ろう!!彼女の仇を!この国に寄生した害虫どもを!バケモノどもの首を一つ残らず断罪して晒してやろう!二度と同じ過ちが起こらぬように!!


老兵:ならぬ!!そのやり方では同じ事を繰り返す。ことを成したその後に、お前が吊るしあげられて終わりだ!それこそ、ユリアが悲しむぞ!!


騎士:悲しむ?ユリアなら死んだよ。もういないんだよ!!だから彼女の仇を俺がとらなければ!!


老兵:とらなければ、なんだ。


騎士:・・・彼女が浮かばれない!


老兵:浮かばれないか。それこそ、今ここで我々が衝突する事こそ、浮かばれないのではないか?


騎士:そう思うなら、手を貸してくれよ、義祖父(オヤジ)。


老兵:復讐をしても、ユリアは帰ってこんぞ


騎士:知ってるよ。けど、気が済まねぇ。


老兵:大きな感情はぶつける相手がいてこそだ。それを失っては・・・


騎士:あぁ、わかってる。だけどそれは、首を並べた後にどうするか考えるよ。


老兵:騎士の誇りは


騎士:誇りなんざぁ、仲間たちが抱えて地獄に落ちてったよ


老兵:ワシは、守る為の力を教えたのだ。この国を守る為の!


騎士:だから!大切な人を守れなかったんだよ!!もう守る国すらもねぇ!!何度も言わせんなよ!!!アンタの孫も!アンタの戦友が残した国も!全部無くなっちまったんだよ!!


老兵:ッ!


騎士:ははは、おかしな話だよな!守る為の力で他国を侵略して敗戦、挙句の果てに自国の兵士一人に国を滅ぼされている!!俺は夢でも見てんのか!?なぁ!!応えてくれよ!ジジイ!!


老兵:・・・夢か。それならば、どれほどよかったか。だが、受け入れて進まねばならない!それが残された者の定めだ!!


騎士:だから進むんだろ!逃げた王族を追ってどこまでも!!堕ちる所までこの身を落としてやるさ!


老兵:そうではない!未来の話だ!


騎士:未来って・・・!もうこの国も!俺たちも!行く先なんて地獄以外ねぇだろうが!!


老兵:ッ!まだ、他に道は選べるであろう。


騎士:ないんだよ。友を斬り捨て国を裏切ったんだ。今更引き返せない。


老兵:お前の夢はどうなる。あの日、笑顔で私に語って聞かせた夢は!騎士をやめて、子供と海を目指して旅をする夢はどうするのだ!!幼き頃からの、何度も語ってきたあの夢は!嘘だったというのか!?


騎士:・・・そんな夢、忘れたよ。


老兵:夢を忘れるな、馬鹿者が・・・!


騎士:ジジイこそ、忘れんなよ。これは弔いだ。俺が愛したアンタの孫の為にな!それをなんでアンタが邪魔すんだよ!!


老兵:人の道を違えるなといっている!他にもやりようはあるはずだ!


騎士:何度も言わせるな、国王が違えた結果が今だろ!!アンタは!肉親より国が大事だというのか!?


老兵:国があってこその民だ!この国があったからこそ、ワシやユリアは今まで生きてこられた!!


騎士:その国に!ユリアは殺されたんだろうが!!!アンタは!!悔しく(ないのかよ!!)


老兵:黙れ!!!


騎士:・・・


老兵:それ以上は例え弟子のお前、いや、家族だとしても許さぬぞ!!


騎士:・・・ 


老兵:たった一人の家族だったんだ、悔しくないわけがないであろう!この老いぼれが!戦線を引いてただ隠居していただけだと思っているのか!?友と築いた国を凌辱されて何も感じないとでもいうのか!?


騎士:・・・


老兵:悔しかったさ!身を焦がす思いで何度も矛を納めてきた・・・!それも全てこの国の、ユリアとお前の為を思ってだ!!他国へ、兵士や国民を逃がせるように交渉を進めていた!!お前達の子供達が戦に出なくていいように!!手を回していたのだ!!


騎士:・・・だが結局、アンタはなにも出来なかった。その結果、守りたかった孫は死んで、国に裏切られ、そして今、弟子に剣を向けられている。それが答えだ。


老兵:ッ!力による支配では!同じ運命を辿ることになる!だからワシは政治的に関与を!!


騎士:もういい!!もういいんだよ。過去をどうこう言おうと変えられない。ユリアが戻ってこない事もわかってる。アンタが、先代の国王との約束に縛られている事も理解している。そのうえで、もうどうでもいいんだよ。


0:騎士が剣を構える。


老兵:そこまで理解していてなぜ、未来を変えようとしないのだ!お前にはまだ可能性があるだろう!


騎士:アンタと同じで過去に囚われたからだ


老兵:お前の夢はユリアの夢でもあった・・・!


騎士:その夢はもう終わったんだよ!!構えろよジジイ。最後くらい、師匠として、親として受け止めてくれよ。


老兵:避けられないか、ワシはお前をユリアと同じように、愛していた。


0:老兵が剣を構える。


老兵:我が名はカラン・インセチア!先代国王の腹心にして、この国の守護者である!


騎士:我が名はラン・キュラス!貴方の弟子であり、この国に仇なす者だ!


0:(以下の台詞は出来れば同時に)


老兵:この剣は愛する者達の為に


騎士:この剣は愛する者の為に


騎士:うぉぉおおおおおおおおおおおぉおお!!!


老兵:うおぉおおおぉおおおぉおおおおおおおおお!!


0:SE(たった1つの斬撃音)


0:5秒以上の間


0:SE(倒れる音)


0:騎士が生き残る場合は以下の台詞


騎士:ッ!!止める気なんて、無かったんじゃねぇかよ・・・クソぉぉお!!!!ああぁあ!!あッあ!!あぁぁぁあぁぁ!!!全部、全部!!貴族どもの、馬鹿な国王のせいだ!!全員、必ず!!首を切り離して、並べてやるからなぁ!!・・・はぁ、はぁ、ゆっくり眠れよジジイ。ユリアによろしくな。地獄に堕ちるのは俺だけでいい。さぁ、皆殺しにしよう。庇うやつもだ。全員、首を並べて見せしめにしよう!クソ共の末路を皆に見せつけてやる!あっはっはっは!!ははははははははははははは!!!!



0:老兵が生き残る場合は以下の台詞


騎士:ぐっはぁ、あぁ、ユリア・・・1人にして、ごめんな・・いま、そっちに・・・


老兵:・・・馬鹿者が、大馬鹿者!誰かに、止めて欲しかったのだろう!!歯止めが効かなくなっていたのだろう?助けて欲しかったのだろう?お前は昔から!どうして素直に言えないんだ!!あぁ、我が子よ、どうか、どうかユリアと共に安らかに眠るのだ。もう二度と苦しい思いをしないように。どうか人のまま、眠りたまえ。わかっておる、ワシがお前の代わりにワシのやり方で、この無念を果たす。約束しよう。必ずだ。だからランよ、お前は縛られることなく、眠るのだ。ワシが事を成している間に、いい夢を見ていてくれ。


―end―





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