第四章 エピローグ




「――動き出したみたいね」


「はい。何名かの人間種が寄生種を打ち込まれているようです」


「ふぅん、やってくれるじゃないの」



 好戦的な笑みを浮かべるラトと、涼しげに回答するニグ様。

 そんな二人の横で「きゃっきゃ」とはしゃいだ様子の顔文字を出してみせるヨグ様だけれど、3人の領域が蠢いているのを僕は感じ取っている。


 ……なんかこう、やる気に満ち溢れているというか。


 地球だいじょぶそ?

 この3人が本気出したら色々マズいと思うんだけど。

 僕程度でもダメっぽいのに。


 まあでも、今回の配信で〝古ぶるしきもの〟とやらが動き出したのは、3人の想定通り・・・・だった。

 もちろん、誰が襲われるかまでは想定できなかったんだけど、こういう動きをするだろうという推測は立っていた。


 全世界配信というニグ様の御業に入り込んでくるやり方のおかげで、多少時間はかかるけれどニグ様側で全ての個体が捕捉できるような状況ではあるらしい。



「寄生種って、成り代わりみたいな存在とは違うの?」


「厳密には肉体内で情報収集をして半休眠状態になっている、というところですね。ただ、その宿主の思考などにも洗脳、あるいは影響を与えてしまいますので、完全に無影響という事はありませんが」


「ふーん……、面倒だね。捕捉次第、とりあえず全員殺してこようか?」


「いいえ、それはしなくていいわよ。前にも言った通り、あなただけが解決できてもしょうがないもの。それに、せっかく手に入れた寄生可能な肉体をそう簡単に捨てたりはしないでしょうし。あっちの狙いを知りたいというのもあるから、しばらくは泳がせましょう。私たちのやる事は変わらない、人間種の強化を最優先。もしも動きがあって間に合わないようならあなたの出番ね」


「ん、了解」


「とは言え、ああして種を植え込んできたとなると、向こうも本腰を入れて人間種の情報を収集し、最終的には再びこの世界をリセットしようとしているのは間違いありません。わざわざ黙って見ているのも面白くありませんね」



 僕の提案に返ってきたラトとニグ様の答え、そしてヨグ様のシャドーボクシングでもしているかのような顔文字。

 一体何をするんだろうと考えていると、ニグ様の顔がこちらを向いた。



「颯。あなたは確か、ダンジョン攻略時に様々な魔道具装備を持っていたかと思います。その中に『大罪』シリーズという武具はありましたね?」


「あー、そういえばあったような気がする。ちょっと前に天日干ししてからこのお城の武器庫に突っ込んでおいたから、多分そのままだと思うよ。僕しか武器庫には行ってないと思うし。ラト、行った?」


「いいえ、行ってないわ。結構な量があったのは覚えているけれど、武具には興味ないもの」


「じゃあ武器庫にあるんじゃないかな」



 確か鑑定モノクルで調べた時に、『大罪:なんとか』みたいな名前の武器は全種類コンプリートしたはずなんだよね。


 最初に見つけた『大罪:憤怒』を見てから、もしかしたら他の種類もあるのかなっていうコレクター魂に火が点いちゃったんだよね。

 こうね、『大罪』シリーズっていい感じに禍々しさマシマシな感じなんだよね。

 無駄に装飾とかも暗色で統一されていて、いい感じ。

 思わず、手に入れるためにわざわざ奈落下部とか深淵上部とかで全ルートを複数回に渡って行き来して、魔物からのレアドロップ狙って狩り続けたからね。


 ちなみに、『大罪』シリーズの他に『美徳』シリーズもあったんだけど、そっちは見た目的にも僕の心が擽られなかったので『美徳:忍耐』以外持ってない。

 きらきらしいというか、なんならちょっと魔法少女っぽいファンシーさがあるというか、うん。

 僕のコレクター魂を擽るシリーズ物ではあったけれど、見た目的にちょっと惹かれなかった。



「で、その『大罪』シリーズがどうしたの?」


「『大罪』シリーズ、それに『美徳』シリーズのような由来のある武器、または聖剣や魔剣などは、もともとは人間種の対上位種戦闘用――つまり、〝古ぶるしきもの〟やその眷属たちと戦うための対策用武具として用意したものなのです」


「へぇー、そういう武器がないと倒せないとか、そういう感じ?」



 ほら、RPGとかであるよね、そういう縛り。

 勇者が物語の途中で手に入れる聖剣じゃないと魔王の防御を打ち破れなくて、とか。場合によっては聖女の祈りじゃないと、みたいな。

 あとはなんか最初はメチャクチャ弱くて、順番に素材を集めていって最終段階まで解放しないと本当の強さが手に入らないとかいう設定の武器を使うとか、そういうロマン武器的なサムシング。


 嫌いじゃないよ。

 まあ僕、メイン素手だけど。



「はい。もっとも、本来であればアレがなければ倒せなかった、というところですが」


「ん?」


「いえ、あなたは普通に領域を塗り潰して完全に消滅させていますし」


「颯はもう人間種とは言えないじゃない」


「そうでしたね」



 まあ、うん。

 僕も〝進化〟しちゃった訳だし、そもそも人間種とは違う存在なんだなっていうのは自覚しているけど。

 なのに「あなたは人間じゃない」みたいなセリフをわざわざ言われると、今明かされる衝撃の事実っぽい感じで何故かそわそわしちゃうのは気のせいだろうか。

 本体がどう見てもヤベー存在だから、否定なんてできないけどさ。



「であれば、『大罪』シリーズの武器を私が解放しますので、あなたの結社メンバーたちに使わせて戦わせるのはどうでしょう?」


「お?」


「ちょうどあなたの組織は7名。その全員が『大罪』武器を使うことで、〝古ぶるしきもの〟の眷属たちを狩り、その力を奪うのです」


「おぉ?」


「あら、いいわね。人間の味方と思われていたソラが率いる組織が、奴らの因子を埋め込まれた人間種を襲う。ある意味、そこであなたのミステリアスムーブもできちゃうんじゃない? ほら、ソラは人間種の味方みたいなポジションになっちゃってるけど、そこで敢えて人間を襲うような敵対行動とか取るようになったら、いい感じに混乱してくれそうでしょう?」


「おぉぉ……!?」



 ちょっと白勇者が目立ち過ぎちゃったし、しかも人間種の味方をしている系ムーブもしちゃってるから、ミステリアスムーブに制限がかかっているのは確かだ。


 でも、そんな中で謎の組織と一緒に一般人の肉体に入った因子とやらを狩るために襲撃したりとかしたら……なるほど、確かに「一体あなたが、何故……!?」みたいな事とかもできちゃうってこと!?


 やばい、それなんて胸熱な展開?

 本当の敵を倒していると気付かないと、僕も人間種の敵になっちゃうけれど、それに気が付いた時には「目的が一緒だから協力してあげるよ」のムーブができる……!


 よしやろう、すぐやろう、早くやろう。



「あ、でもウチのメンバー、勝てるかな?」


「寄生種なら、せいぜいあっちは位階ⅩⅡ程度だし、そんな強い相手でも……って、あー、そういえば、あの子たちは〝進化〟ができないんだったわね」


「うん」



 実のところ秘密結社メンバーの強化が結構難しいんだよね。

 今やっているのは身体のスペックを十全に使いこなすための訓練と、魔法技術の強化がメインだもの。


 というのも、ニグ様曰く、どうやらあの子たちは『キメラ計画』のせいで魂そのものが変質してしまったせいなのか、どうも普通の人間種のような位階の上昇ルールから外れてしまっているっぽいのだ。


 分かりやすく言うと、『キメラ計画』のせいで経験値テーブルというかそういうのがバグってるイメージ、というところだろうか。


 そのせいで、多少は位階も上昇するけれど〝進化〟ができないらしい。

 だから、あの子たち自身の力は位階Ⅹとなった時点で頭打ちする可能性が高い。

 当然、魔物側の能力もあるから普通の位階Ⅹの探索者に比べて強くなれるかもしれないけれど、それ以上の強さを持った存在が相手になると、厳しいだろう。


 ウチのメンバーって現状大重さんに比べても弱いからね。

 ネジが外れてるから無茶したりっていう事もできちゃうけど、大重さんが勝てない相手クラスになると厳しいかな。


 やっぱり、ミステリアスムーブする組織なんだから、圧倒的な強さは得てほしいんだけどなぁ。

 今後そういう連中とも渡り合って、ギリギリの戦いの中でみんなにも「フン、今回は仕方ないわね!」みたいな共闘シーンとかしてほしいし。


 あ、クリスティーナはしばらく禁止だね。

 せっかくデレて「仕方ないですわね」とか言ったのに、直後に共闘する仲間の人間の頭パーンみたいになりそうだし。

 制御できるようになってもらわなくちゃ。



「完全に力が成熟した眷属である場合は、難しいでしょうね。実際、あなたが同行した大重という【勇者】も、あなたがたった一撃で屠ったニョグタの眷属にすら勝てそうにありませんでしたから。もっとも、アレは成熟した個体であったので例外と言えば例外です」


「ふむ、じゃあ成熟する前ならどうにかなるって感じ?」


「はい」



 なるほどねぇ。

 適材適所で僕が出ていく感じかなぁ、やっぱり。



「うーん、もっと分かりやすくウチのメンバー強くできたりすればどうにかなるんだけどなぁ……」


「できますよ?」


「えっ」


「正確に言えば、〝古ぶるしきもの〟の眷属らが現れたからこそできる、というところですね」


「どういうこと?」



 半ば諦めていたところに告げられた、ニグ様からの予想外の回答。

 首を傾げた僕の横で、ヨグ様が「よしっ」って顔文字出して頷いた。

 いや、何も分からないけど。



「あちらの存在は自らの力を植え込み、眷属を作り込んでいるようです。であれば、その力を強奪してしまえばいいのです」


「強奪?」


「はい。『大罪』シリーズに手を加えておきますので、討伐した眷属や〝古ぶるしきもの〟の因子の力を変換し、『キメラ計画』によって取り込んだ魔物因子を強化、定着させられる〝鍵〟の役割を与えておきましょう。そうすれば、眷属を殺す度に逆に力を吸収し、強くなれるかと」


「え、そんなことできんの!?」


「なるほど、考えたわね、ニグ。普通の人間種ではできないけれど、『キメラ計画』の成功体ということは、すなわちニグとヨグの力の残滓を有する魔物たちと融合できたということ。だからこそ、『キメラ計画』の成功体であれば因子を受け入れる素地はできていると言えるものね」


「はい。ですので、そちらを強化させ、取り込んでいる魔物側の能力を〝進化〟させることができれば、颯の秘密結社のメンバーたちも強化できることでしょう」



 ふむふむ、確かにそういう方法が取れるなら、メンバーの強化にも役立ちそうだ。

 それに「今以上に強くなれるなら」とみんなもやる気に溢れてくれるかもしれないし。


 よし、じゃあ僕もみんなの為にしっかりとやらなきゃね……。




 みんなに似合う『大罪』選びを!





第四章 了



◆――――あとがき――――◆


はい、という訳で四章これで終わりになりますー。


体調がおかしくなっていたり、治りきらなかったりでおかしな事になっていますw

とりあえず回復はしたのですが、ちょっと次章のプロット修正かけるので裏章を投稿しながら時間稼ぎまーす()


ちょっとまってね(๑•̀ㅂ•́)و✧






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