新システム説明会
《さてさて、早速だけれどおさらいからいくよー。新ステータスを適用する〝生活系ダンジョン〟は、既存の『ダンジョン適性』とは全く別だって話は前にしたよね? 『ダンジョン適性』がなくても強くなっていけるっていう、人間種諸君にとっては嬉しいシステムだね!》
:出た、人間種っていう呼び方
:生活系ダンジョンはレベル50までいけるんだよね?
:食糧不足も少しずつ解消されればいいんだが
:うおおお、楽しみ!
:ステータスオープンって叫んだけどカード出なかった
《あはは、「ステータスオープン」って言ってステータスカードが出せるようになるのは、〝生活系ダンジョン〟に入ってからだね。そこで初めてステータスを確認したりできるようになるから、それをやってからならダンジョンの外でも出せるようになるよ。あと、カードは手の甲に押し付けたら消せるんだけど、紛失してしまっても時間が経つか所有者が離れすぎると消えたりもするからねー。よく鍵落としたりスマホとか財布落としちゃう人間種も安心だね!》
:割と本気で助かる
:よく落とす筆頭の解像度高くて草
:カードなくしたら弱くなるとかだったら怖かったわ
:だいたいどれぐらいの距離なんだろ?
:メッセンジャーさん教えてくれなさそう
:情報については時野さんたちが作ってるHPにも出てるぞ
:マジか、助かる!
そんな言葉からようやく始まった、本格的な配信。
メッセンジャーの説明をメモ書きしたノートを取り出して、修司はそれらを見返しながら説明の内容を確認していく。
一、新ステータスが適用されるため『ダンジョン適性』は関係ない。
なお、新ステータスは『ダンジョン適性』を上昇させる可能性があるが、レベルと位階は全く別物と考えた方が良い。
一、自分のステータスを確認するには、〝生活系ダンジョン〟に入ってから「ステータスオープン」と口にすれば、ステータスカードが出てくるので、そこで確認できる。
このステータスカードは手の甲に押し付けると消えるし、一定の距離離れると消える。
メモの内容を確認して、特に間違いがない事を確認しつつ補足を書き足して、修司は一言一句聞き逃すまいと、再びメッセンジャーの言葉に意識を集中させていく。
コメントにある通り、今は探索者ギルドに所属していた時野が――なお、正確にはシアらだが――作ったホームページが存在しており、そこにもメッセンジャーが前回の配信で語った内容が掲載されている。
しかし、昨今の情勢を鑑みて、国の政治家、そして探索者ギルドという組織をあっさりと信じ込むつもりのない修司のようなタイプは、一定数存在している。
修司はそこまでの疑心暗鬼には駆られていないが、それでも自分もしっかりと覚えておくために、こうしてメモを取っているのだ。
《はいはい、続いていくよー。〝生活系ダンジョン〟は前にも言った通り、食料や魔力の宿っていない地球由来の素材――まあ木材とか石材とかだね。そういうものがドロップする低位階、それに新ステータスの低レベル初心者向けダンジョンだねー。キミらで言うとこの一次産業ってヤツ? 階層を進むにつれて魔力の宿った素材や、回復アイテムなんかも手に入りやすくなっているから、頑張って集めてね》
:助かる
:ホントありがたい
:どういう魔物が出てくるとか教えてくれてもいいのよ?
:階層?
:どんなトコなんだろ
《出てくる魔物は、1階層なら戦い慣れていない普通の人間種程度でも倒せる程度の魔物だね。ただまあ、体当たりされたり噛み付かれたりしたら打撲だったり出血したり、当たりどころが悪いと当然死ぬ場合もあるからねー。3階層あたりまで進むと、まあレベルも上がってないと致命傷になりやすい攻撃が増える感じだね。その辺りは適当に調べてみてよ。僕も人間種諸君の脆弱かつひ弱な身体がどこまでできるのかよく分からないし》
:なるほどね
:情報ありがとう!
:時野氏率いる新探索者ギルドの調査チームが情報を整理して動画で公開してくれるらしい
:政府の魔力犯罪対策課とかも協力したり、『クラン同盟』も動くって!
:素人は情報が公開されるまで入らない方がいいかもな
一、初心者向け生活系ダンジョンでは食料や木材などが手に入る。
1階層は魔物が弱く、階層を進むにつれて魔力由来の品が手に入りやすい。
一、新システムのダンジョンは探索者ギルド、クラン同盟が調べた情報を公開してくれる。
素人は入るまで待った方がいいかも?
そんな情報をメモに走り書きして付け足していきつつ、修司は先程と同様にはっとしたような表情で顔をあげ、画面を見つめて首を傾げた。
「……? 修司、どうしたの?」
「ん、いや、なんか今、ザザッて変な音鳴らなかった?」
「音? 何それ、特におかしな音はしなかったと思うけど」
「んー、そっか」
まるでテレビの砂嵐を思わせるような、耳障りな音。
ほんの一瞬だったが、修司には確かにその音が聞こえていた。
しかし母親に確認しても何も聞こえなかったという。
何か奇妙な感覚が残っているのは間違いないが、しかし今はそれどころではないと気持ちを切り替えて、修司は再び画面に意識を集中させた。
《〝生活系ダンジョン〟はこの前も言った通り、新ステータス基準でレベル50以上になって魔物を狩ると、お仕置きモンスターの登場! がぶっと殺されちゃうから注意してねー。同行して戦い方を教えるとか、そういうのは大丈夫だけどね!》
:ここも時野氏のHPでクラン同盟の協力を得てスクールみたいなのやってくれるって
:マジ時野氏有能
:レベル50以上だからな!? 50はアウトだからな!?
:やべえ、以上っていう言葉の意味忘れてたわww
:つい50までオーケーかと
:意外と勘違い多くて震える
:大丈夫なのは49まで、だぞ
《あー、間違えてくれたら面白かったのに。「まだ大丈夫、俺は50だ!」みたいに言いながら魔物倒して「馬鹿、やめろぉぉ!」みたいになったりしないか、ちょっと期待してたんだけどなー》
:性格捻くれておる……w
:コイツww
:さすがにそこに引っかかるヤツおらんやろ……
:って言いたいトコなんだが、割とコメ欄見ると間違った認識のヤツいるんよなぁ
一、生活系ダンジョンは50まで大丈夫。それ以上はお仕置きモンスターとやらが出てくるので注意が必要。
訂正、49まで!
コメントのおかげで、自分のメモに記載された書き方が間違っていることに気が付いて、慌てて修司が数字部分に打ち消し線を入れて訂正文言を付け足す。
そんな恥ずかしいミスをしていた自分の背中に視線が向けられている事に気がついてはいたが、修司は何事もなかったかのように平静を装って顔をあげた。
「……修司、49までだからね……?」
「……ぉぅ」
修司の努力は虚しく、残念ながら彼という存在の理解者である母親には通用しなかったようである。
誤魔化せないと悟った修司は、不安げな母親の言葉に素直に失態を認めて顔を赤くしていたが、そんな修司のことなど知る由もなく、メッセンジャーは更に続ける。
《ま、ここまでは既存の情報のおさらいだったんだけど、今日は先行公開ってことで、ステータスがどうなるか、ジョブの取得方法についてだけ説明してあげるよー!》
:え!?
:マジ!?
:やったああああ!
:きちゃあああ!
:情報出してくれないかと思ってた!
「マジ!?」
コメントにもあるような叫びを口にした修司が、思わずといった様子で立ち上がり、そして慌てて座り直した。
せっかく説明してくれるというのに聞き逃してしまっては元も子もない。
そう考えて、ボールペンを握って画面を真っ直ぐ見つめる。
《はい、じゃあ新ステータスでステータスカードに表示されるのはこんな感じー》
――――――――
Name:
JOB:
LV:
ATK:
SPD:
MGI:
MND:
SKILL:
MAGIC:
TITLE:
――――――――
《こういう風に情報が掲載されて、自分の傾向、JOBの傾向に応じてレベルアップ毎にポイントが与えられるから、それを自由に振っていってね! ステータス数値以外の基礎ステータス部分については表示されていないから、あくまでも「基礎能力に加算された数値が表示されている」というイメージを持ってもらえると分かりやすいかもねー》
:つまりどういうこと?
:上乗せして伸ばしたい項目を選ぶ感じか
:見慣れない文字多め
:STRとかINTとかじゃないんだなぁ
:タイトル……称号!?
:逆に分かりやすい気がする
:何を伸ばしたいのかを選ぶという意味ではこの方がいいかも
《うんうん、何人かがコメントしてくれているみたいだけれど、「上乗せしたいポイントに振っていく」というのは正しいね。ジョブによって何が大事になるかも変わってくるからね。たとえば、MGIっていうのは魔法効果の強化を指しているんだけどね。ジョブを『魔法使い』とかにしてるのにATKの攻撃力や、SPDの速度強化だけに振ってたら、ね?》
:殴りマジ!?
:あると思います!
:ねーよ、ゲームじゃねぇんだぞ
:ロマン追い求めるのは構わんがパーティにはくんな
:そういう感じか
:基礎能力も上がってくれるなら、イメージとしては極振りが可能で全振りができないって感じか
:極振りと全振りって何が違うの?
:ゲーム用語だから調べた方がいいぞ
:共通認識としてはゲーム用語は色々出てくるだろうから、ゲーム知らないなら調べた方がいい
一、ステータスは基礎に上乗せする。伸ばしたいステータスを自分で選べる。
ATKは攻撃、SPDは速度、MGIは魔法全般、MNDは不明。
修司がメモにステータスの概要についてそうまとめたところで、メッセンジャーがパンパンと手を叩いてみせた。
《はいはい、じゃんじゃんいくよー。ジョブの取得方法については、このステータス欄のJOBのところをタッチしてね! その人の戦い方や趣味嗜好、本人の傾向から、取得できる職業が表示されるよ! 場合によっては、特定の行動をしているとちょっと珍しいジョブとかもあるかもね! 何があるのかは教えないけど》
:おぉぉ!
:えー、教えてー!
:知りたい……!
:これはジョブ解放の前提条件とかあるって、コトォ!?
:検証班!
:ゲームかよw
《ジョブに応じてスキル、或いは魔法を覚えられるようになるから、共通認識でパーティ戦とかもできるね! 一斉に同じ魔法で魔物たちに攻撃、みたいな》
:確かに!
:これ、自衛隊とか警察とかも入るんじゃね?
:めっちゃ混みそう
:食料とか採れるのか……?
:利用者多そうだよな
コメントを見ていて修司も思う。
実際に現在の食料品の高騰などを鑑みても、そしてメッセンジャーが言うような事ができるとなると、確かに警察組織や自衛隊、海外であれば軍なども入る可能性がある。
修司には考えが及ばなかったが、〝生活系ダンジョン〟は魔力犯罪者たち――つまり元探索者、特区出身者たちの力を知った者たちが、自分たちも力が欲しいと〝生活系ダンジョン〟に向かう事も有り得るのだ。
そこにはもちろん、その筋のプロと言えるような悪人、チンピラなども含まれている。
ともあれ、そういった背景を鑑みても〝生活系ダンジョン〟は多くの人間が行く場所になる可能性が非常に高い。
その数が少ないのであれば、当然、混み合ってろくに採集などもできない可能性も高い。
そう思って問いかけるコメントの数々に対して、メッセンジャーはあっけらかんと答えた。
《ん? 〝生活系ダンジョン〟はダンジョン同士が直線30キロ離れた位置に1つずつ出していくから大丈夫じゃない?》
:え
:は?
:はあ!?
:ちょ
:マ!?!?
:30キロって……
:めちゃくちゃ大量に出るってこと!?
「……30キロって……もしかして引っ越ししなくていいのかしら……?」
「いや、そこ!?」
驚きの言葉から続いた母親のどこか見当違いな呟きに、思わず修司がツッコミを入れたのも無理からぬことであった。
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