ステータス会議
秘密基地に帰ってきて数日。
僕は先日のニグ様との話に出たテイマーの件とか、完成に向けての最終調整に向けて、新システム設定の細かな詰め作業を行ったり、リーナたちに捕まったりと割と忙しい日々を過ごしている。
出かけていたらしいラトが戻ってきて、最終調整に向かって色々と話し合っている。
今日はステータス決定についての話し合いだ。
「――だから、『Intelligence』がイコール魔法攻撃力に影響する数値っておかしいよね、って思うんだよね」
「まあ、それもそうですね。知能という意味合いに魔法は全く関係ありませんから」
「ゲームは共通認識と言うか、分かりやすさを優先しているからある程度統一しているんでしょうね。ただ、実際のところ〝通用しやすい〟、〝理解されやすい〟というのは大事な要素ではあるわよ?」
「あー、それは確かに」
なんかもうゲーム開発をしているような気分だよ。
ラトもニグ様もヨグ様も、ゲームをプレイしまくっていたせいか、ユーザー目線の解像度がかなり高まっているみたいだし。
なんならゲーム自体は僕も小さい頃にやっただけで、ダンジョンに入れるようになってからはあまりやってなかったものだから、僕よりも詳しくなってすらいるかもしれない。
いずれにしても、ラトの言う通り「分かりやすさ」とは大事な要素だ。
ゲームによっては『このスキルを使うことで◯◯◯の効果が付与されます』なんて説明あったりするのに、「そもそも◯◯◯の効果が分からないんだけどっ!?」ってなるヤツとかもあったっけ。
ちなみに僕はそのソシャゲ、いちいち調べるのも面倒な上に、しょっちゅうガチャで人権キャラ出し過ぎでイラッとして辞めた。
ガチャで人権キャラが出てくるゲームは良くないよ。
特に「ガチャの新実装キャラがハマる報酬のいいイベント」なんてやり始めた日には、その瞬間にゲームの面白さにお金のニオイが漂ってきて冷めるもの。
まあ僕のガチャに対する嫌悪感はともかく、そんな3人……うん、まあ見た目的に3人ってことで。
3人と僕が今話し合っているのは、ステータス名についてだ。
ゲームで言うところ、『STR』、『AGI』、『INT』、『DEX』、『LUK』というようなステータス表記をどうするか、という話題である。
「妥当なところだと、『INT』は魔力関連だから『MGI』でいいんじゃないかしら? 別に位階が上がったからって頭が良くなる訳じゃないもの」
「ねえなんでこっち見たのさ?」
「そうですね」
「ニグ様? ニグ様も今ちらっとこっち見たよね? というかヨグ様、その口笛吹く顔文字煽ってない? だいじょぶそ?」
解せぬ。
「そうなると、『STR』表記も変えた方がいいわよね」
「そうですね。物理的な力が上昇するのではなく、魂の位階上昇による存在強化、それに伴って魔力強化率が上昇して、結果として力が上がっているだけですから」
「そうなのよね。……筋肉がつく訳じゃないものね」
「ねえさっきからちょいちょい僕に目を向けてディスってるのなんなの? 喧嘩売ってない? 買うよ? ヨグ様、めっちゃ笑ってる顔文字出したよね? しかも僕が顔を向けた瞬間に切り替えるとか、芸細かくなってるのなんなの?」
「それに、『AGI』――『Agility』についてもそこに含まれますね」
「身体強化率なのだからそうよね」
「スルーがすごい」
口元をバツマークにしたきょとん顔みたいな顔文字に切り替えてるし。
見えてたけど?
「……では、『STR』は物理攻撃力という意味で『ATK』。『AGI』は速度という意味で『SPD』にしましょうか。この辺りはステータスの割り振りで切り分けられますし」
「へぇ、そんな切り分けができるの?」
「要するに、全身を満遍なく強化するのが『ATK』、体幹、脚力を特化させるのが『SPD』ですね。その代わり、『SPD』を上げすぎると『ATK』はしばらく頭打ちになるでしょうけれど……隠し要素ということで、人間種には自分で考えてもらいましょう」
「ステータス振り直したいとか言い出しそうね」
「無理です」
完全にスルーされてるんだけど、泣くよ?
ウザったいぐらい駄々こねて暴れ回るよ?
まあ、正直あんまり気にしてないけど。
だって、この見た目だから『なんかミステリアスでクソ強いし、見た目の割にやたらと達観していて年齢不詳な、どこか人を食ったような謎のショタキャラ』っていう枠が確立するんだもの。
今更そんなに気にしたりなんてしないさ。
ただちょっと、ほんのちょっとイラッとして領域広がりかけたけど、それぐらいなものだよ。
「となると、次は……『DEX』ですね」
「これが一番意味分からないわね」
「『Dexterity』……器用さや機敏さなど、多様な意味を持ちますね。身体のコントロールを意味している、というところでしょうか」
「確かに、ゲームでは『DEX』って器用さというか、武器の扱いを要求する系の職業だとそれが火力に繋がったり、生産職だったりすると生産成功率とかに繋がったりしてるよね」
なんかこうして紐解いていくと、ホントステータスってゲームによって千差万別というか、共通しているようなそうではないような感じだ。
ゲームによっては『STR』――つまり力の強さっていうステータスがあるのに、それと一緒に『POW』――『Power』っていう語源が近いけれど、そっちは意志力とか精神の強さを示すなんてものもある。
まあ、細かく突き詰めてもしょうがないと言えばしょうがないけど。
なんとなくで通じればいいんだし。
「位階が上昇しても本人の器用さというものは変化ありませんし、関係のない項目ですので除外ですね」
「ま、そうだろうね。位階が上昇したって身体を扱いきれなくて鍛え直す、なんてしょっちゅうあったし、もしもその『DEX』が位階上昇に関係していたなら、最初からフルパワーで戦えたりするってことでしょ」
「確かに颯の言う通りね」
位階が上昇して何事もなくフルパワーで戦えるとか、そんな便利な機能があったら楽だったのは確かだろうね。
ただまあ、これについては僕は「なくて良かった」と思うタイプだ。
だって、そもそもそんなものがあったら、きっと短所を補うための魔法の開発とかもしなかっただろうしね。
僕の場合、そういう位階上昇時に身体能力を制御できるようになる目的も含めて、過剰に身体強化に振り切って魔法を作ったし。【
戦い方の研究、魔法の研究という意味では、多少なりともそういう壁とかがあった方が、自分自身のスタイルの見直しも含め、考える機会が増えるというのが持論だ。
「その代わりという訳ではありませんが、位階上昇には精神強度――『MND』を入れましょう」
「『Mind』、だったかしら。確かに位階上昇に関係するわね」
「そうですね。ただ、これを蔑ろにしていたら精神汚染系の魔法を使う魔物や、我々のような存在には耐性がつかないので、あっさりと死にそうですが」
あー……ぱっと見て強さに関係しなさそうなのに、実はめっちゃ必要だったステータスってあるよね……。
一応、ステータスの割り振りだけじゃなくてもレベルアップ時に少しずつ全体的には上昇していく。そこに割り振っていく感じだけど、今後は自動的に育っていく訳じゃないから、そういうのが出てきたりもするのかぁ。
ま、極振りというか特化させる分にはいいけど、一つのステータスだけに全振りみたいなことしてるとキツいだろうね。
「最後に……『LUK』――『Lucky』、幸運ですか」
「まったくもって位階上昇とは関係ないわね」
「そうですね、除外しましょう」
うん、まあそうなるよね。
実際、『LUK』を調整して本当に運が良くなるとしたら、それはもう運命操作のレベルの話になるからね。
それは個人のステータスでどうこうできるものじゃないし。
という事は、ステータスカードはこういう感じになるのかな。
――――――――
Name:
JOB:
LV:
ATK:
SPD:
MGI:
MND:
SKILL:
MAGIC:
――――――――
テンプレ化したスキル、魔法を覚えられるようになるし、そういったものも表示される。
シンプルではあるけれど、まあ今までのステータスとは違って育つべき方向性が見えてくるから、ゲーム的な意味では分かりやすいというか入り込みやすいかもしれないね。
「――ところで、ニグ様、ヨグ様。面白い催しがあるんだけど」
「おや、どうしましたか?」
「『称号システム』で遊んでみるのとかどう?」
「ッ、颯……あなた、なんてことを思いつくのよ……!」
何故か劇画調レベルの表情を浮かべたラトを横に、ニグ様は納得したように頷いていて、ヨグ様はキラキラ期待に満ちたような顔文字を浮かべていた。
◆――――おまけ――――◆
ヨグ「✧*。( ´∩•͈ω•͈∩` )✧*。」
ラト「遊び要素が満載過ぎてヨグがワクワクしてるわね……」
ニグ「いえ、でも悪くはないかもしれません。人間種に興味を持たないヨグが、称号システムを通して人間種を観察するようになるかもしれませんし」
ヨグ「(๑•̀ㅁ•́๑)✧」
ラト「……やる気に溢れているわよ?」
ニグ「……えぇ、そうみたいですね。……ただ、気になることが……」
ラト「なに?」
ニグ「……ヨグは好き嫌いが激しいので、『ダンジョンルールを守らない存在は不要』と判断して、ダンジョン内の治安を徹底的に守ろうとしたりとか……」
ラト「……自治厨過激派が爆誕するのね」
ヨグ「(´>ω<`)」
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