敵対勢力(なお、即退場)




 ヴィムと『深層の悪夢』の戦いを見つめつつ、僕はニグ様と一緒になって新システムとジョブシステムについての意見交換。

 さらにこのダンジョンの支配領域を広げていくという作業を続けている。


 そんな中で、僕とニグ様の会話――という名の思念通話――の話題はジョブシステムの取得方法についての話になっていった。


 ――つまり、ジョブ格差は生まれるのかってこと?



《はい。初期ジョブからのジョブ進化システム――いわゆる、あなたの言う〝上位職〟への段階進化時のジョブに格差はあるのかと、ラトを通して質問がありました》



 ラトを通して、ということは時野さんかな。

 彼には先んじてシステムの簡単な共有だけしている。

 魔道具のステータスチェッカーとか渡したりもするし、新探索者ギルドのトップになってもらわなきゃだからね。


 ともあれ、ニグ様に言われてジョブシステムについて思い返す。


 もともと、僕らは位階が上がった時に身体能力とかが一気に跳ね上がる。

 その上昇値には当然個人差はあるけれど、ゲームで言うところのSTR、AGI、DEX、INTというようなステータス全てが上昇する、と言えばいいのかな。


 この上がり方ってオールラウンダーを育てられるから悪くはないのだけれど、このやり方がかえって成長を阻害してしまう傾向にあるのだ。


 分かりやすく例を挙げるとすれば、たとえば前衛なんて無理って性格の女の子がいたりする。

 その子は必然的に後衛系の魔法なんかを練習していくようになるのだけれど、その結果、せっかく上昇した身体能力を全く活かせない探索者が出来上がってしまったとしよう。


 本来、前衛もこなせて魔法攻撃を行えるだけの100の許容量があるのに、その一部、後衛魔法攻撃しか使いこなせていなくて、30程度しか使えない、と考えると分かりやすいかな。

 そうなると、あと70も余力というか、本来の実力が高いはずなのに弱い探索者になってしまう訳だ。


 で、これが許容されてしまうのが、今の探索者のパーティ攻略のような役割分担だ。

 自分が不慣れだったり苦手なものは切り離してしまって、前衛は前衛系の動き、後衛は後衛系の動きしか覚えていない。


 宝の持ち腐れになってしまい、結果として、位階が上がらないと次のステップに進めない人が多い。

 位階に対して実力の低い探索者なんて存在が出来上がっているのは、この環境のせいとも言える。


 改めて考えると、見事にソロ推奨なんだよね。

 オールラウンダーなソロが、〝個〟だけが育つという仕様である。


 なので、今回の新システムでは、ジョブを一方的に押し付けるようなシステムを作る気はない。


 僕が理想とするのは、要するにキャラクター育成だからね。

 ジョブに応じてスキルやステータス傾向が限定され、突出させて育てていく、という方針を取ってもらうのだ。


 初期ジョブから一貫して、自分で理想とする形を選んで初期職を選んでもらい、それに応じてステータス育成――つまり、僕らで言うところの位階上昇時の成長方向性に、敢えて偏りを生み出すことで、先述した育ち方でも無駄が出ないようにしていこう、ということだね。


 ただ、新システムにおけるレベルアップについては一般的なゲームと同様に「魔物一体の経験値が◯◯で、▲▲貯めたらレベルアップ」とはならない。

 実際のところは逆というか、「レベルが上がったからステータスが上がる」のではなくて、「位階の上昇分を利用してステータス適用できるようになったから、レベルアップという方法で分かりやすく、こまめに適用する機会をあげる」というのが正しいからだ。



――――――

名前

 :サンプル太郎よくあるアレ

位階

 :Ⅰ

適性ランク

 :D

成長傾向適性

 :身体強化 C

 :魔力強化 D

 :魔力操作 F

――――――



 元々はこのステータスしかなくて、この『成長傾向適性』というのが『自動割振り比率』を表していて、自動的に成長に向けて振り分けられていたのだけれど、今後は新ステータスに自分で振り分けていくことができる。

 今の位階システムではなく、成長分が一定値に届いたらレベルアップという形でこまめに上昇させるステータスの割り振りをしてもらう、という順序を踏む形にするから、経験値テーブルあたりはスキル熟練度だけに適応してる感じだね。


 もっとも、魂の成長具合によっては次のレベル、またはその次のレベルまで数値が頭打ちしてしまうものとかもあるけど、その時に他に振るか貯めるかはお好みで。


 あと、レベルアップ時に効果音とか『レベルが上がりました! ◯◯◯を覚えました!』みたいな音声は流れない。

 一応、レベルアップ時とスキル欄に追加した時の『NEW!!』みたいなのだけ付け足してあげたから、勝手にステータスを見て確認してね、という感じ。


 これについては、〝凶禍の種〟ではなく〝成長の種〟とも言えるようなものを魂に植え付けていくよう、ラトが協力してくれたからこそできることだ。


 ちなみに、こういうシステムを理解してもらうためにニグ様、ヨグ様、ラトには往年のRPGの名作たちをプレイしてもらった。

 そしたら意外とハマってたから、解像度が高くなったのはありがたい。


 ただまあ、ストーリー的に「何故こんな選択しかないのですか?」とか、「めんどくさいわね。この王様殺せばいいじゃない」とか、色々と人外視点の感想と疑問も飛び出てきてた訳だけど。

 某顔文字様は無表情ながらも頭の上に顔文字を浮かべてポチポチやってたしね。

 クソボスなのに負けイベですらない時は、なんかぷんすかした顔文字出てて思わず笑ったけど。


 ともあれ、新システムの適用は〝生活系ダンジョン〟の実装と共に始まる。


 その後、どこのダンジョン内であっても一度は「ステータスオープン」と言えばステータスカードの具現化が可能になる。

 そうしてステータスカードのジョブ欄に触れてもらえればジョブを選択できるというシステムなのだけれど、そのジョブを選んだ時点で、ステータスカードに仕込まれたジョブに適した種が、契約となってその人の魂に植え付けられ、位階と魂の成長における方向性が決まる、という訳だね。


 それらを育成していくと、いずれ〝上位職〟が出てくる。

 ちなみにこの〝上位職〟については、幾つかルートが分岐している。


 ステータスや本人の成長傾向に応じてルートが解放されるから、〝上位職〟になるとジョブは十人十色にはなる予定だけれど、それによって向き不向きは当然出てくる。


 けどまあ、それが何、って話で。

 いや、ゲームと違って「新実装されたマップ、おまえ適性的に不遇ジョブで草」みたいにはならないんだし、やりようはあるでしょ。


 ストーリー解放しないと行けないダンジョンがあって、そこで装備揃えなきゃいけないとか、そういうゲームの世界じゃないんだから。不遇というか苦手な環境だったり魔物なら、そこに行かなきゃいいじゃん、って話だしね。



《かしこまりました。ではそのように回答しておきましょう》



 確かにゲームを意識したのは事実だけれど、実際にはゲームじゃない。

 そこまでいちいち配慮しなくていいと思うんだよね。


 ただまあ、僕もちょっと楽しみなんだよね、新システム。

 なんかジョブで騎士を目指したりする人達が、騎士団を名乗るクラン作ったりとかしてくれそうで、ロマン溢れる感じの集団とかに期待したい。


 僕の秘密結社メンバーも、密かに更生という訳じゃないけれどクランとして登録、活動を開始する予定だし――なんて考えていた、その時だった。


 ……領域に抗う何かがいる。

 しかも、徐々に大重さんたちというか、【魔王】に近づいて行っているような。


 ヘイ、ニグ様。何あれ?



《――ッ、颯! 急いで合流次第、排除を!》



 いつものニグ様らしからぬ慌てた声。

 了解したという意を飛ばしてから、僕は腰だめに刀を構えて一気に切断する。


 本来、ダンジョンは異空間だ。

 壁をぶち抜こうにもそう簡単にはできないのだけれど、すでにこのダンジョンの領域そのものを侵食してあるからショートカットは容易い。



「――ヴィム、状況が変わった。僕は急ぐから、そいつを殺したら真っ直ぐ進んで左側、ヤンさんたちと合流して援護を」


「承知、しました!」



 その場から弾けるように飛び出して、正面に斬り裂いた壁をさらに縦に斬りつけ、蹴り飛ばす。

 そうやって移動を繰り返しながらも、再びニグ様と会話を続けていた。


 ――で、何者?

 僕の領域に抗って、しかも真っ直ぐ進んだあたり、厄介な存在だろうっていうのは想像がつくんだけど。



《分かりやすく言えば、我々と敵対する勢力とでも言いましょうか。元々は同種の存在であったものが古き世界で分かたれ、敵対するようになった。人間で言えば、同じ人間同士の他勢力に近いモノ、ですね》



 いや、そんなの出てきたら地球終わりじゃん、それ。



《はい、本体が出てくればそうなります。そうさせない為にもこの世界のステージを引き上げようとしていたのですが、どうやら想定されていた以上に早く目醒めたようですね……》



 ……なるほどね……さっっっっぱり分からない。


 まあとりあえず敵ってことは、問答無用で排除した方がいいのかな?

 それとも、多少なりとも情報を引き出した方がいい?



《問答無用で排除してください。アレらは私たちとは違い、人間を絶滅させる事に躊躇いもしない勢力です。このタイミングで叩かなければ、まず間違いなく地上にいる人間は全て消されることになります》



 よく分からないけれど、なんかヤベー奴っていうのはよく分かったよ。

 じゃあ本気で殺さないとだね。


 そこで言葉を区切って、最後の壁を斬り裂いて砂塵の向こう側を見やる。



「……貴様は、なんだ?」



 ――それ、こっちのセリフだけど。

 そんな事を思いながらも、領域を確認してみる。


 ラトに比べれば大して強くないけれど、やっぱり領域の支配に抗っているね。

 ニグ様の言葉を聞いた限り、まず間違いなく上位存在の勢力なのは間違いないのだけれど、なんていうか……うん。


 ――そんなに強くないよね、キミ。



「今から死ぬ存在に名乗る価値があるのかい?」



 敢えて挑発からのトップスピードで突進。

 触手のような何かを大量に伸ばしてきたあたりは、『深層の悪夢』に近い存在なのかもしれないけれど、『深層の悪夢』なんかよりは余程強く、速い。



《繝九Ι繧ー繧ソ縺ョ關ス縺怜ュ�――颯の言う『深層の悪夢』のオリジナルとなっている存在です。充分に気をつけて――!》


「――【蒼炎奔雷そうえんほんらい】」


《……ぇ》



 最大強化系の魔法を使って身体強化と斬撃強化。

 さらにその炎と雷に領域支配能力を付与して一瞬で塗り潰す。

 気分としては、切れ込みを入れた上からバケツ毎インクをぶち撒けるようなやり方で、抗う領域を塗り潰してみた。






 …………あれ?






《……消滅、しましたね……》






 ……まだまだこれからが本番な流れじゃないの?


 え、この流れ、どうすればいいの?

 これ、大重さんが【勇者】なのに僕が全部終わらせちゃうみたいな流れになっちゃうじゃん。




 ……ッスゥーー……うん。

 よし、誤魔化そう。


 キリッとした表情を浮かべて、僕は燃え盛るその炎を睨みつけながら――そっとその中にヤンさんたちの方に放っていた3匹いた『深層の悪夢』の内の一体を召喚して、炎と雷をあたかも吹き飛ばされたかのように周囲に弾き飛ばした。



「縺医√↑縺ォ縲√∪縺溽ァサ蜍輔@縺滂シ�……?」


「殺しきれなかったみたいだ。やっぱり、【勇者】じゃないと【魔王】は殺せないのか……」



 そんな設定ないけど、とりあえず言っておく。






◆――――おまけ――――◆

 

ニグ「……えぇ……?」

ヨグ「(๑•̀ㅁ•́๑; ) 」

ラト「……よくよく考えれば、颯ってばこの世界で生まれ育った存在だから、力の制限なんてほぼないのよね」

ニグ「それはそうですが、でも、それでも相手は〝古ぶるしきもの〟の直系眷属ですよ? てっきり、大苦戦は必至かと思っていたのですが……」

ラト「……ニグ、あなた颯のことを同胞と呼んでいたでしょうに……」

ニグ「それはそうですが、それが何か……――――ぁ」

ヨグ「(・3・)~♪」

ニグ「……あ、あの、ラト? もしかして颯って……」

ラト「……はあ。あなた、たまに抜けているわよね……。どこぞの行き過ぎた介入のせいで、〝同胞〟なのよ、あの子は。意味、判るわよね?」

ニグ「…………」

ヨグ「(๑•̀ㅂ•́)و✧」





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