今後の方針





 ふん縛られている政治家数名の言い分では、僕ら日本の助力は当然のものであって頭なんて下げる気はないし、なんなら遅すぎるぐらいだと文句を言いたい。


 ついでに言えば、『キメラ計画』やクローン技術を利用した『完全個体』である僕――ノアとソラ――はそもそも我が国の研究技術を勝手に使ったのだ。だから、そんな存在の恩恵に与るのは当然のことであり、我が国は日本に助けてもらうという訳ではない、みたいに言い出していたらしい。


 いや、日本の助力が当然で遅すぎるって言いながら、助けてもらう訳ではないとか。

 一瞬で破綻してるけど、頭だいじょぶそ?


 で、さっきの〝挨拶〟についても、どうやら僕という存在の強さが理解できていない政治家、それに今回集まっている面々に向けてのパフォーマンスを兼ねたもの、という意味合いが強いみたいだね。


 ――なるほど。

 なんとなく話は分かったんだけど……。



「――ねえ、政治家って馬鹿がなれる職業なの?」


「ぶふっ!?」


「……い、いえ、決してそういう訳では……」



 僕の第一声に、ヤンさんが噴き出し、佐枝さんが少しばかり目を逸らして言葉を濁した。

 ちなみに大重さんは飲み物をちょうど口に運んだところだったせいで、吹き出しそうになってギリギリで耐えて呑み込んでた。


 いや、だって馬鹿でしょ。


 物事っていうのは、無理をしたらどこかでそれが破綻して露見する。

 それが露見した時にはすでにその上に塗り重ねられたもののせいで、取り返しがつかなくなる、っていうものだと思う。


 たとえば僕を利用しようとしたり、敵対しようとしたり。

 そんな事をすれば、僕が牙を剥くのは当然の流れだ。

 その結果として僕を抑え込めるだけの何かがこの国にあったりするのならば、無理を通してもどうにかなると思うけど……ないでしょ、この国。


 だって、実際たった一人の【魔王】に追い込まれてるレベルだもの。

 戦力が豊富だとしたら、もっと多くの【魔王】か【勇者】が現れているんだし、そもそもそんな強い存在がいたなら、大重さんが助力に来ることもないんだから。


 そんな国が、【魔王】をあっさりと処刑した『ダンジョンの魔王』ことノアと正面から殺し合うようなソラをどうにかできる……はずもないでしょ。


 そんな事すらも考えられないなら、それは馬鹿でしかなくない?



「あー、その、なんだ。政治家ってのは、基本的に国の利益を優先にするからな。俺らみたいな常人とは視点が違ったりするんだ」


「そ、そうですよ、ソラ様。政治家という存在は大局的に物事を見ていて――」


「――〝視点が違う〟結果が明後日の方向に向いていて、当たり前のことすら解決できないのなら、それは〝見識が浅い〟、〝思考が足りない〟という話でしょ」


「ふっ、ふふ、くくく……っ」


「ヤン、おまえも笑うな……!」


「というか、そもそも国のことを本当に考えるんなら、僕を敵に回すのがかなりマズいってことぐらい分かるでしょ、普通に。この前の兄さんとの戦い、メッセンジャー経由で流れたんでしょ? なのに僕に喧嘩売るの? 自国も守れないくせに?」


「……まあ、それはそうだが」


「大重さん……!」


「仕方ねぇだろうが……! ぶっちゃけぐうの音も出ねぇほど正論だろうがよ……っ!」



 いや、なんか声を抑えながら話しているけれど、周囲の目は全部こっちに向いているし、沈黙だってしている以上、決して隠せてないよ。

 なんなら笑いながら通訳の人が訳しちゃってるっぽくて、少し遅れて笑いがあがっちゃってるじゃん。


 そんな中、ヤンさんだけは早めに復活したようで、目尻を拭いながら顔を起こしてこちらを見つめて肩をすくめてみせた。



「ぶっちゃけた話、結局のところこの国は、「自分たちが優位に立ちたい。だから今まで通り、いつも通りに〝言ったもん勝ち〟だから言っておく。なお、間違っていても我が国は認めない」っていう、ズレた感覚だったのさ」


「あぁ……。まあ日本って遺憾砲しかしないから、別にそれが飛んできたって痛くも痒くもないし、反論どころかただの感想文発表会のお遊戯レベルだもんね」


「いや、あー、うん、まあ、な。……おい、シゲ。コイツ自国さえボロクソ言うじゃん」


「……ソラの出自を考えれば、心情的には政府だのなんだのに対しては敵対的ではあるからな」



 うん、設定上はね。

 実際の僕は、うん、まあ感想そのまんまではあるけどね。


 遺憾です、とか言って何がどうなるってのさ。

 慮ってほしいです、みたいなこと言って理解してくれる相手だったら、最初からおかしな真似なんてするはずないでしょうに。



「それより、ヤンさん、だっけ? やっぱり日本語話せたんだ?」


「おう、まあな。シゲとの付き合いも長いからな。だが、こういうお国の代表となると、自国に招いた他国の人間の言語を使って喋るっていうのは、相手に対して遜っている、なんて解釈する阿呆も一定数いるのさ」


「言葉なんて通じればどれでもいいでしょ。なんというか、頭悪いね」


「ソラ様、その、それはなんと言いますか、国としての面子と言いますか、体裁というものもありますので……」


「その面子で保たれるのは馬鹿の自己満足度だけでしょ? 別に国が守られる訳でも、民が守られる訳でもないじゃん」


「……大重さん……」


「おい、俺に振るんじゃねぇよ。ぶっちゃけ、俺はどっちかっつーとソラの考えの方が正しいと思う方だぞ」



 縋るように佐枝さんから顔を向けられて、大重さんが嫌そうに手で払う。

 なかなかに酷い。


 まあ元々僕は国がどうとかなんてどうでもいいし、むしろ国以前に、今の僕の立場的にも人類、人間種としてしか見てないから、本当にどうでもいいことやってるな、って印象でしかないのも事実だけどね。



「おーおー、こっちのコメントもめっちゃ盛り上がってんな。いやー、ウチの国は割と言論統制とかもあったんだがなぁ。『D-LIVE』はそういうのねぇとは言え……こりゃもう政治家連中も終わりだな。つか国が終わりそうだわ、これ」


「ふーん、じゃあ助けなくても良さげ?」


「まてまてまて、そうは言ってねぇだろ、な? おい、シゲ。おまえも笑ってないで説得してくれよ」


「くくく……っ、いや、すまん。おまえが振り回されるというのもなかなか珍しいと思って、ついな」


「こんにゃろう……」



 大重さんとは本当に仲がいいらしいけれど、なるほどね。


 彼に対して多少なりとも失礼な物言いをしてみて、それを通訳の人が訳している姿を見てみれば、ヤンさんに対して温かい目を向けるというか、信頼があるからこそ微笑んで見ているというか、そういう類の視線が多いみたいだ。


 そして、そんな彼が僕を受け入れているからこそ、僕に対して不躾な目を向けてくるような輩は減った、というところかな。

 まあ、さっきの僕からの魔力挨拶を正面から受けたせいか、どうにも僕に対して心が折れてしまったというか、怖がってるっぽいのが二人ほどいるみたいだけれど、

 

 ともあれ、この人は紛れもなくこの国のトップ探索者であり、信頼を集めている人材なんだろうね。

 まあそうでもなければ、こんな場所で配信しながら政治家をふん縛るような真似はできないだろうけれど。


 ただ、まあ僕はそうやって客観的というか、他人として物事を見てられるけれど……。



「ヤンさん、一つ聞いていいかな?」


「ん、なんだ?」


「そっちの政治家で、本当に殺していいやつがいたら、ヴィムに譲ってあげてもらえる?」



 敢えて口に出してぶつけてみる威圧。

 それぐらい、おまえたちは無礼な真似をしたんだという、分かりやすいアピールとも言える。


 ヴィムにとっては、政治家の言い分――つまり、『キメラ計画』の技術を彼らが、この国が作ったものだというのであれば、そりゃあ殺してやりたいと思うだろう。

 自分を苦しめ続けてきた技術を生み出した元凶なんて存在が、目の前でそれをさも素晴らしいことであるかのように宣えば、誰だって一発殴りたくなる。


 まあ、元は探索者ギルドと各国の協力で生まれたものだけどね。

 厚顔無恥に自分たちのものだと言い張れるというのだから、本当に〝言ったもん勝ち〟みたいな感覚は強いのかもしれないけれど。



「……それは、さすがに断らせてもらいたい。こっちも色々と聴取しなくちゃならないんでな。殺しておしまい、となっても困るんだ」


「そっか。うん、分かったよ。――そういうことだから、ヴィム。今は呑み込んでくれるね?」


「……はっ、承知いたしました」



 ヴィム自身がブチギレてもおかしくないような状況。

 なのに、それでも殺気を表に出さずに済んでいたのは、僕が動こうとしないのを察したから、というところかな。


 もしも今回の同行者がヴィム以外のメンバーで、僕の指示を聞いてどうにか我慢してここまでやって来れていたとしても、その言葉を口にしてしまったら我慢なんてできるはずもない。普通にアウトだ。


 他のメンバーだったら一瞬でこの場所が大惨事になっていたんじゃないかな。

 リーナ、うん、首刈り。エリカ――毒散布、ジンは暴飲暴食するだろうし、クリスティーナは即歌うだろうね。ドラクとハワードも言わずもがな。


 かと言って僕が単独で動くというのも、やっぱりミステリアス組織風ムーブ的にもよろしくない。

 やはりヴィムは安牌である。



「……あの、主よ」


「ヴィムがいてくれて良かったよ」


「っ、それは俺の言葉です……っ!」



 ポンポンとヴィムの腕を軽く叩いてにっこりと微笑んで言えば、何故かヴィムが感極まった様子で言葉を返してきた。

 いや、そこまで大袈裟にしなくていいけど。



「さて、それで? これからどうするつもりだ?」


「いくら政府の役人がこんなのでも、『魔王ダンジョン』は変わらねぇ。あの男・・・を止めないと、この国に未来はねぇんだ。政府とのいざこざはウチのメンバーが受け持つ。だから、シゲ、それにソラ。おまえたちには予定通り、この国の『魔王ダンジョン』討伐に力を貸してほしい」


「おうよ。ゴタゴタしてるとは言え、そちらの国から協力を拒まれたっつー訳でもねぇんだ。先に攻略しちまえばいい。ま、終わる頃にはこの国の政府がどうかなってるかもしれないが……」


「どんな形であれ、必ず報酬は出すって約束する」


「そうかよ。ならこっちは文句ねぇよ。ソラ、おまえさんはどうだ?」


「変わらないよ。僕は僕で、目的があって来ただけだからね。その途中にあるこの国とか政治家とか、そんな連中が邪魔をしようが歓迎しようが関係ない。邪魔するなら薙ぎ払うだけだしね」


「っ、邪魔だけはしないと約束する!」


「おっかねぇな、おまえさん……」



 いや、別にそんな怖がることないじゃん。

 邪魔したら薙ぎ払うなんて、そんなの探索者あるあるでは?







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