第四章 新たな時代の幕開け
第四章 Prologue:出国
東京、羽田空港。
昨今の国際情勢から、現在は国外に飛ぶ国際線もほぼ完全運休状態となっており、第3ターミナルが封鎖され、第1、第2ターミナルのみで国内線と数少ない国際線が運用されている。
一方で、そういった定期便のためのセキュリティーチェックを含めた搭乗手続きを行う旅客ターミナルとは別に、専用チャーター便の搭乗ゲートは相変わらず運用が続いていた。
一般的に知られる、ホテルの1階ロビーと繋がったビジネスジェット専用搭乗口とはまた別、政府の大臣などが利用するような、直接車で乗り入れできる完全プライベートかつセキュリティの厳重な専用滑走路。
そこには、チャーターされたジェット機の前にはすでに政府側の役人3名と大重と萩原、弓谷の3人、それに見送りにきていた丹波といった『大自然の雫』の面々が立っていた。
役人との間の空気は、かなり重いものになっている。
というのも、先程軽く挨拶をしてみたところではあったのだが、3人の内の一人が何かと国のために働くだの威信だのと、このご時世にも関わらず相変わらずの凝り固まった思想を垂れ流す類の人間だったからだ。
おかげで、大重が不機嫌になり、腕を組んで瞑目。
そんな大重の放つ空気に当てられる形で会話は完全に消えて、夏のじりじりとした暑さの中、ただでさえ重く感じるような空気がさらに重く、淀んだものとなってこの場所に漂っているようだ、と丹波は思う。
「……きたみたいだな」
腕を組み、沈黙を貫いていた大重がぽつりと呟いて顔をあげた。
そんな彼の変化に気が付いて、その視線を追いかけるようにその場にいた全員が顔を向ける。
「な……っ」
「大きい……」
驚愕した様子の役人の一人に続いて、萩原が思わずといった様子で呟いた。
彼ら彼女らが大重の視線を追った先で、最初に目に入ったのは白銀の少年ソラだった。
だが、それ以上にその斜め後方にいる存在の、その体躯の大きさと放たれた威圧感を無視することはできなかった。
筋骨隆々とした肉体の持ち主。
身長にして2メートルを超えているであろう背の高さ。
肩の広さは斜め前を歩いているソラの3倍には満たない程度ではあるが、何しろ巨大な男が付き従うように歩いている。
片手に持った柄のついた、巨大な箱のような代物を肩に担いでいるようだが、それが武器の類であろうことは見て取れた。
どうやら巨大な武器が鞘に収められているらしく、その質量はそんな巨躯の男自身に勝らずとも劣らない大きさを誇っている。
何より、大男の放つ気配は、決して友好的なものではなかった。
どちらかと言えば、もしも何かがあれば即座に攻撃を仕掛けようという攻撃的なものが近い。
向けられる攻撃的な、推し量るような鋭い目。
まるで野生の獣のようなそれを前に、自然と政府関係者はもちろん、萩原や弓谷も身構えてしまう。
だが、そんな中で大重と丹波が先んじてソラたちへと一歩踏み出すような形で前に出ると、ソラと大男もまた足を止めた。
互いに顔を見合わせ、一瞬の沈黙。
しかしそれを破ってみせたのは、そのようなものは微塵も気にしていないと言わんばかりの、あまりにも軽妙なものだった。
「やあ。もしかして待たせちゃったかな?」
ソラが友人と遊びに出かけるかのような軽々しい口調で、そんな言葉を口にした。
そのあまりにもラフな物言いは、今しがたまで緊張感すら漂っていたこの場にはあまりにも似つかわしくなかった。
大重にとっても初対面であっただけに、まずは軽い挨拶でも、といった気分であったが、どうにも肩肘を張ってしまっていたようだ、と短く嘆息して苦笑する。
その様子を横目に見た丹波が、大重に代わって口を開いた。
「いえ、時間まではまだ余裕がありますので問題ありません。それで、ソラさん。そちらの方は?」
「あぁ、彼はヴィム。僕の仲間さ」
「……我らが主、仲間と呼ばれるのは恐れ多いと言いますか……」
「キミも諦めが悪いね、ヴィム。言っておくけれど、僕はキミを部下だとは思っていないからね」
攻撃的な気配から一転、僅かに困惑したような表情を浮かべて口を開いたヴィムに、ソラは特に気にした様子もなくひらひらと手を振って答える。
そんな姿に、警戒心を僅かに緩めながらも、萩原と弓谷、それに政府関係者は改めてソラへと注目した。
かの『ダンジョンの魔王』――ノアと名乗る彼と同じく、『キメラ計画』が発展したクローン技術を用いて作られたという、完全個体の成功例。
その実力は凄まじく、先日のノアとソラの戦いの余波で、繁華街がほぼ半壊状態にまで陥ったのは記憶に新しい。
どうにか、今後も友好的な関係を築ければ。
そう考えて政府の役人の一人が一歩足を踏み出そうとしたところで、ギロリとヴィムの目が男へと向けられた。
「ひ――っ!?」
「不用意に近づくな。我らが主が協力を申し出たのは、そちらの『大自然の雫』の大重殿の『魔王ダンジョン』の踏破に対してのみ。貴様らと馴れ合うつもりはない」
「まあまあ、ヴィム。落ち着いて」
ヴィムに睨まれて尻もちをついた男、その間に片手を差し込むように空気を切ったソラが、にこやからに男に向かって腰を屈めて手を差し出した。
「ごめんね? キミたちお役人が止めようとしたのか、それとも本当に何も知らなかったのかもしれない所で起こった、『キメラ計画』。その被験者となって生き残っていたのがヴィムなんだ。だから、あまり印象はよろしくなくてね。無理に仲良くなろうとか、そういうのはしない方がいいんじゃないかい?」
「っ、そ、それは我々の与り知らぬところの話です。それに『キメラ計画』ということはつまり、我々政府の――」
「――黙れ。オイ、そっちの。コイツは無理だ。やらかすぞ。飛行機の中が血生臭くなるのは御免願いたいんだが?」
尻もちをついた男の言葉を遮ったのは大重だった。
殺気にも似た威嚇を乗せた声で一喝するなり、役人の内の統括役である男を一瞥して、そんな言葉を投げかけてみせる。
すると、その場に立っていた残り二人の男の内、生真面目そうな印象を与える眼鏡をかけた細目の男が眉間に皺を寄せ、深く溜息を吐き出した。
「申し訳ありません、ソラ様、それにヴィム様。――
「っ、
「キミは事の重大さを理解できていないようです。彼らはあくまでも善意の協力者。そして、『キメラ計画』の被害者は、我々もできる限りの賠償を行う相手です。――
「承知しました」
佐枝と呼ばれた男が冷たく言い放てば、残っていたもう一人の男が但馬の腕を取り、半ば引きずるように連れていく。
一連の光景を眺めていた丹波が、冷たく佐枝を睨んだ。
「何を考えているのです。パフォーマンスのつもりですか?」
「……彼――但馬クンは、『キメラ計画』に関与していた議員と親戚関係にありまして。とは言え、どの程度まで影響を受けているのか判断がつかず、本日、ソラ様に対する反応を観察しようと思っていました。利用させていただいた事に対しては、非礼を詫びましょう。申し訳ありません」
堂々と利用していたという宣言をして、深々と頭を下げる佐枝。
そんな彼の姿にヴィムが毒気を抜かれたかのように目を僅かに丸くしてたが、ソラは面白いものを見るかのようにその姿を見ていた。
「お役人は大変そうだね。彼はこれからどうなるんだい?」
「……部署の異動と、降格になりますね。おそらく、一生出世とは無縁な生活になる、というところでしょうか」
「ふーん。大変だね」
大して興味などない様子で告げるソラであったが、一方で大重や丹波ら『大自然の雫』に所属している面々はほっと胸を撫で下ろしていた。
ソラの性格は今のところよく分かっていない。
ただ、『大自然の雫』の面々は『ダンジョンの魔王』であるノアを実際に目の当たりにしており、そんな彼が容赦なく犯罪グループのメンバーたちを殺した姿は、今も強烈に記憶に残っている。
確かに、ソラという存在が人間に対して必ずしも敵対視するような事はしないという報告は聞いていたが、しかし相手が政府の関係者であったりする場合、その対応が確実なものであるという保証はなかった。
ソラがどのような反応を見せるのか、予測がつかなかったのだ。
幸いにもソラは特に気を悪くした様子を見せることもなかったが、もしもソラがノアのように力を振るっていたら、どうなっていたかを想像するのは難しくはない。
あの時、黒翼を使った攻撃の数々をもしもここで使われでもすれば、自分たちの命とて危うかったはずだ。
「……頼むから、せめて今後は我々に一言ぐらい相談してほしいものだな」
「えぇ、本当に」
短く言葉を交わし合う大重と丹波。
そんな二人の言葉を聞いて、萩原と弓谷もまた勢い良く肯定するように頭を振っている姿は、どこか滑稽なものであった。
◆――――おまけ――――◆
ニグ「はい、という訳で作者が相変わらず体調治りきらずで死にかけてますが、新章に入るようです」
ラト「……この作者、休めばいいじゃない」
ヨグ「(๑•̀ㅂ•́)و✧」
ニグ「どうやら作者、もうほぼルーティンで書いているので倒れ込んで起き上がれないレベルにならない限り、止まる気がないようです」
ラト「アホね」
ヨグ「(๑• ̀д•́ )✧+°」
ニグ「……ヨグはさっきからどうしたんですか?」
ラト「なんか新システムの実装ダンジョン作りが割と楽しいみたいね。……トラップ設置が」
ニグ「……ヨグ、難易度というものがありますので、ちゃんとその辺りは打ち合わせしましょう?」
ヨグ「(ु・x・) ु⁾⁾」
ラト「……一回作るからその後で、ですって」
ニグ「不安しかないです……っ!」
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