小噺 神格とは




「――では、これでいきましょう」


「終わったあああぁぁぁっ!」



 メッセンジャー配信からおよそ2ヶ月ほど。

 季節は夏真っ盛り。


 この2ヶ月の間、ステータスの数値設定、ジョブ各種の洗い出し、テンプレスキルのモーション設定だったり、経験値テーブルの設定だったり。ホントもう、ほぼ毎日これを洗い出しては条件付けを相談。


 一通りルール付けなんかも完了した。


 いや、僕なんかよりも圧倒的にニグ様の方が大変だったとは思うんだけどさ。

 ダンジョンに適用したの、ニグ様だもの。

 僕はあくまでもアイデア出しと細かい設定を紙にスマホにまとめたりっていうぐらいだし。


 それでも疲れるものは疲れるんだよね。



「にしても、面白いよね。まさかダンジョンに入った時点で、〝凶禍の種〟の性質を切り替えた新しい種――〝外部補助システムの種〟とでも言うようなものを植え付けるなんてさ」



 本来の〝凶禍の種〟はあくまでも人間の内側での育成、萌芽を目指していたものだ。

 けれど、そういう適性が極端に低い存在――つまり、『ダンジョン適性』がほぼ皆無であるような存在に植え付ければ、死を招く。

 それ故に使い所の見極めが難しいし、なかなかそういう存在が育たないというのも問題だった。


 一方、新システムというか、ステータスとかスキルとかは言わば〝外部補助システム〟とでも言うべきかな。


 この外部補助システムを利用する事によって、本来であれば『ダンジョン適性』と本人の位階とは別の形で〝力〟を使って、魂というか存在というか、そういう位階の本質に対して影響を与える。

 これによって位階を緩やかに強化させつつ、『ダンジョン適性』を上昇させ、位階をあげていってもらう。


 補助機能として数値化したステータスに応じた身体強化を施し、インストールされたジョブに応じたスキルや魔法というものが使えるようになれば、魔物との戦いは可能になっていく。

 そうして戦っていく中で蓄積した経験値に応じてレベルをあげてもらうのだけれど、このレベルというのがつまり、位階強化への干渉度合いを示したものだ。


 一般人から見ればレベルが上がって強くなれる訳だし、ニグ様やヨグ様、ラトから見れば、人類の力を強化して〝進化〟に持っていける。

 うんうん、ウィン・ウィンというヤツだね。


 以前までは自分の力だけで戦い続け、死にかけるような戦いの中でのみ成長していくしかなかった人間だけれど、この外部補助システムを利用する事で、位階の成長に対して効率良く必要な要素を取得し、成長しやすくなるという訳だ。


 ちなみに、位階がすでに上昇している場合は、それがレベルやステータスとなって表示される。

 なので位階が高いのにレベル1だとか、そういう風にはなれないね。



「もっとも、デメリットもあるけれどね」



 半透明の光る板を手にラトがぽつりと呟いた。


 以前、僕にこのドリームランドを操るためのコンソールを作ってくれていたけれど、その時のノウハウを流用した新たな新システムの管理用コンソールだ。

 シミュレーションして誤作動が起きないかなど、いわゆるデバッグ作業をラトが行ってくれていた。


 ちなみに、僕のドリームランド支配はこの新システム開発が迫っていたので後回し中。

 ぶっちゃけ僕も今の状態で不便がある訳じゃないし、新システムを最優先にして盛り上がってほしいところではあるので、まあしょうがないね。



「これを使うと、位階ⅩⅤ相当での〝神格者〟とやらにはなれなくなるんだっけ?」


「えぇ、そうよ。この新システムを使った人間種は、せいぜい〝進化〟までが関の山ね。ま、そもそも〝神格〟クラスまで成長するような人間、今のシステムのままだったらあなたぐらいしかいないでしょうし、その辺りは次の次あたりの世代を対象に調整していくしかないわね」


「それで良いと思いますよ。そもそも、ただの人間種が〝神格〟を得たとしても、せいぜいが下級神程度となるのが限度です。我々の同胞となる事はありません」


「え、そうなんだ? そういえば僕、神格がどうのっていまいち理解してないんだけど。……ねえ、ヨグ様? 何その顔文字、口笛? 明後日見ながらわざわざその顔文字表示してる辺り、まったく誤魔化す気とかなくない?」



 そういえば、と思って訊ねてみたのだけれど、ヨグ様は顔文字表示、ニグ様は苦笑、ラトに至っては呆れたような顔でヨグ様を見ている。


 一体なんなのさ、その反応。



「……颯。我々は〝外なる神〟と呼ばれる存在であり、一般的な神とは全く異なる存在です」


「うん、まあなんとなくは分かるけど」


「ニグ、それじゃ足りないわよ。――いい、颯。神っていうのは、本来『その世界の上位存在』でしかないの。当然、他の世界に干渉なんてできやしないし、その世界の中でのみ完結してしまうわ。それが神という存在」



 ニグ様にダメ出しするような形でラトが引き継ぎ、そんな事を口にする。



「あれ、でもラトとかニグ様、ヨグ様って思いっきりこの世界に干渉してるけど、この世界の神なの?」


「いいえ、違います。先程言った通り、我々は〝外なる神〟と呼ばれる存在です。数多くある世界の全てに対して干渉が可能な存在です」



 ……なるほど、よく分からん。



「はあ。ニグ、あなたねぇ……」


「な、なんですか、ラト?」


「説明下手すぎ。あなたは端的過ぎるの。人間ベースの颯にも理解できるように順序立てて説明できないんじゃ意味がないでしょうに」


「うぐ……」


「私が説明してあげるわ。颯、私たちはこの世界の神なんかとは比べ物にならない程に上位の神、ということよ。私たちは本来世界の理の中にいるべき神とも違って、その理の外にいる神。故に〝外なる神〟なのよ」


「おぉ、なるほど」



 ぶっちゃけ僕もいまいち分かっていないけれど。

 なんとなくイメージがついたかなぁ――なんて思っていたら、ヨグ様が板を操って絵を出してくれた。


 大きな円の中に、幾つかの円が表示される。

 その一番外周部分の円には線が伸びて〝世界〟と書いてあって、その内側が〝神〟と書いてある。

 さらに神よりも中心に近いところに円があって、その中に〝人間〟、さらにその内側の円の中には〝その他生命体〟と書かれているみたいだ。



「つまり、一つの〝世界〟の中で一番上が〝神〟であって、その下に人間だのなんだのがいるってことだね」



 ぐっ、とサムズアップされた。


 さらにヨグ様が手に持った板を操作。

 そのまま今度は〝世界〟と書かれた絵がどんどん小さくなっていって、そんな〝世界〟をさらに大きな円が包んでいて、そこには読めない文字が書かれている。


 さらにその外側に〝我々〟と書かれた文字があった。



「……つまり、ラトやニグ様、ヨグ様はもちろん、僕もまたそこってこと?」



 そんなことを思っていたら、小さな手をぐっと握ってみせるヨグ様。

 いや、〝よしっ〟じゃないと思うんだけど。

 


「颯はもともと〝神格〟を得た際、本来ならば『この世界の位の中での上位者となる予定』だったのですが、そこにヨグが干渉して〝進化〟に合わせて一瞬であなたを我々の同胞へと引き上げたのです」


「うん……うん?」


「ラトの〝凶禍の種〟を呑み込んでいたのも原因の一つですね。それによって〝世界〟の枠組みから外れやすい――引き上げやすい存在だったというのも確かですが……」


「確かに下地はそれでできたと言えなくはないけれど、そもそもヨグが引っ張りあげようとしなければ、私たちのところに一足飛びに〝進化〟なんて有り得ないわよ。……ヨグ、その顔文字やめなさい。腹立つわ」



 テヘペロ風な顔文字を無表情で表示させたヨグ様が、今度はドヤ顔をこっちに見せつけてきた。

 うん、まあ別に僕としては楽しくやれればいいからなんでもいいんだけどね。

 ラトの額に青筋が立ってるから、自重した方がいいとは思うよ。



「じゃあさ、この世界の神様がいたとして、もしも僕がそんな存在と戦うってなったらどうなるの?」


「本体なら戦いになりませんね」


「確かに、その肉体端末ならいい勝負ってトコかしらね。もっとも、本気を出した颯にはついて行くこともできなさそうだけれど」


「なにそれこわ」



 あっさりと言い放つニグ様、ラト。

 そんな二人とは別に、無表情のまま相変わらずドヤ顔の顔文字を見せてくるヨグ様については、うん、もう諦めるしかないね。



「さすがに僕、そんな強くなった実感ないんだけど」


「当たり前でしょ。あなた、まだ肉体端末でしか動いてないじゃないの。その端末は人間種のあなたベースの身体でしかないんだから、当然、あなたの感覚はそこまで変わらないわよ」


「あー、そっか」



 そういえば僕、本体って全然違う存在になってるんだっけ。

 あまりにも本体として意識を知覚したり過ごしたりしてなさ過ぎて、たまに本体の存在を忘れそうになるんだけど。



「以前も言ったと思うけれど、上位者の戦いは領域の奪い合いよ。格下の位が相手なんて、無に等しいもの。あなたの本体が顕現された時点で、たかが〝世界〟の中に収まっている存在じゃ一瞬で塗り潰されて消えるわ。だからニグが言う通り、戦いにならないのよ」


「ラトと領域の奪い合いをしながら拮抗できるようになりましたし、まあ、妥当でしょうね。この世界を支配したいのであれば、いかがですか?」


「いや、いかがですかって言われても、いらないしやらないけど」



 いや、まったくもって予想外な回答だなとは思うけど、そもそも僕、別に世界をどうにかしたいとかは思ってないし。

 楽しくミステリアスムーブできていればいい訳だし。



「新ダンジョン、思ったより早く始められそうだね」


「そうね。もっとも、探索者ギルドの方がまだ時間かかっているみたいだし、人間種の社会もまだ思ったよりは困窮しきっていないから、もうちょっと苦しんでくれるのを待ちましょう?」


「うん、その方がしっかり生活系ダンジョンに入ってくれそうだしね」


「そういえば生活系ダンジョンをアテにしているのか、人間種も農業を強化しているものの控えめなようですね……」


「生活系ダンジョンが始まったら農業を始めても失業する可能性もあるでしょうし、下手に手を伸ばし過ぎるのも良くないでしょうね。いずれにしても農業は時間もかかるでしょうからね」


「それはそれで混乱してるっぽいよね」


「面白いわよね」



 混乱してるって話の感想第一声が面白いって、さすがはラトだよね。






◆――――あとがき――――◆


相変わらず体調微妙なので、コメント返信する余裕がなく申し訳ないです。

基本投稿文書いてぶっ倒れているので返信できないですが、目は通させてもらってますー!





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