小噺 人間と人外
◆――――まえがき――――◆
死亡中()
コメントありがとうございますー。
頭痛酷すぎて頭働かないので今日も短めですー。
ホント幕間のタイミングで良かった()
◆――――――――――――◆
《――日本国内がこのようになっている中、わざわざ隣国にこの国の勇者を派遣する意味はあるのでしょうか? 瀧本さん、いかがでしょう?》
《そうですね。現在、日本国内も新ダンジョンや、メッセンジャーの言うような『囲ったら氾濫シリーズ』と言われているようなダンジョンが増加していますからねぇ。正直、国交についても断絶状態に近い中、わざわざ国内の戦力を手放していられるようなゆとりがあるとは言い難いと思います》
《はい、そうですね。実際、ここ1年以内のダンジョン増加、そしてそれに伴い被害を受けた人数を分かりやすくまとめたものが、こちらになります。このように、現在日本国内――》
プツン、と音を立てて切れた映像。
真っ黒になった液晶画面に反射した自分の姿を見て、ようやく自分の眉間に皺が寄っていることに気が付いて、時野は深く溜息を吐き出した。
相変わらず、マスコミの忖度報道は変わろうともしない。
あの『キメラ計画』については触れず、国会議事堂、探索者ギルド支部に一斉に行われた魔力犯罪者らによる襲撃についても『魔力犯罪者によるテロ行為』としてしか触れようとはしない。
当たり障りのない報道と、本質に触れているようで遠回りだけを繰り返すようなニュース番組を、キャスターとゲストを変えてどこもかしこも繰り返しているだけだ。
一体、何の為にマスコミというものが存在しているのか、考えるだけで馬鹿馬鹿しくなるような光景であり、SNS上でもそんなマスコミの在り方を批判している声は日に日に大きくなっている。
――もっとも、不平不満を垂れたところで、結局自分のやる事は変わらないが。
そんな風に思考に区切りをつけて、時野もまた現実に思考を引き戻すように手元のコーヒーカップに注がれたコーヒーを胃に流し込んだ。
探索者ギルドの内部の切り崩しは順調だ。
すでに『キメラ計画』の資料は日本から海外へと翻訳されたものも出回っており、また海外でも同じようなファイルが見つかっていることからも、政治家、探索者ギルドに対するデモや暴動が広まっている。
そこにきて、メッセンジャーによる配信で語られた、新システムと〝生活系ダンジョン〟の実装により、軍や警察に所属していながらも『ダンジョン適性』がないと嘆いていた者達や、一般人たちが、新たなダンジョン攻略に乗り出そうと息巻いているらしい。
これに合わせて、およそ半年弱――年の瀬までに体制を整えるべく、探索者ギルド内は大きく動いている最中だ。
積極的に『キメラ計画』に加担した者や、それに追従する形でサポートしていた者達を洗い出し、追い出しにかかり、同時にメッセンジャーと関わりのある時野に、トップに近いポストを与えようと調整を繰り返している。
また、こうした動きは各国の省庁でも起こっており、メッセンジャーからも名指しされる形で信頼されていると思しき時野に、配信チャンネルを通して次々にコンタクトを取ろうと連絡をしてきている。
――正直、自分だけであったなら確実に対応できなかったな。
そんな事を思いつつ、自分のいるリビングの隣の部屋にいる双子の浅黒い肌をした男女をちらりと見やる。
あの二人は、ダンジョンのメッセンジャーの部下であると名乗る存在だ。
ハワードと、そしてそのハワードの主であるというソラと話をつけたようで、時野をタワーマンションの一室へと移動させ、衣食住の面倒を見つつ、各所との連絡、交渉を担当してくれている。
――まあ、一見すると何してんのかさっぱりではあるんだが。
両手に加えて黒い触手めいた何かを数十本単位で肩口から生やし、空中に見えているらしい見えない何かを目を閉じて動かしているだけなのだが、こう見えて世界各国からの連絡対応、電話対応などは行っているとのこと。
実際、時野の配信アカウントから各所には返信を送っており、その後の連絡のやり取りについての打ち合わせなどの約束、打ち合わせへの参加御礼メッセージなどのやり取りだけが可視化されているような状況であった。
当初は時野も本当に対応してくれているのかと不安になっていたが、最近では夕方に渡される重要事項を纏めた報告書を読んでも驚きすらしなくなったものだ。
人間という生き物は、時野が思っている以上に状況というものに適応する生き物であるらしかった。
「時野様」
「……あの、様はちょっと……」
声をかけてきたのは浅黒い肌をした女性の方――シアだった。
つややかな黒髪をポニーテール状にまとめ、つり上がった目つきが特徴的な背の高い女性で、胸も小ぶりであるため男装の麗人となれそうな容姿をしている。
「時野様は、我らが主より選ばれた御方です。我々は我らが主より、貴方様のお世話をするために生み出され、遣わされた存在。主の次に我々に対する命令権をお持ちの御方でございますゆえ、敬うのは当然のことです」
「……え?」
「何か?」
「いや、その、私のお世話をするために生み出されたというのは、一体?」
「はい?」
時野としては、見た目からして二十代中盤から後半程度の見た目をしているシアが、自分の世話をするために生み出されたというのが理解できなかった。
対するシアは、そもそも人間ではない。
あくまでも人間の見た目を擬態しているラトの分身体の一つが生み出した眷属の一体に過ぎないため、人間という存在の知識や常識といったものは理解できていても、時野が何故そのようなことを疑問に思うのかが理解できず、改めて人間らしい思考である場合の齟齬、違和感というものを一瞬で精査した。
「理解しました。我々は人間の姿をしていますが、人間ではありません。この事はなんとなく理解されているかと思います」
「えぇ、それはまあ」
「我々はあくまでも主により生み出された眷属。人間のように時間の経過と共に知識や経験を蓄積し、身体的な成長を行うものではありません。肉体は所詮物質世界の構成に過ぎず、そこに人間の知識、知恵、常識といったものをインストールされて生み出されたのが我々です。あなたの感覚で言う年齢で言えば、我々はゼロ歳に当たります」
「……なるほど。それは……いえ、凄まじいですね……」
「はい。貴方様のお考えの通り、その気になれば対象の人間を殺し、そこから情報を吸い上げて肉体を作り変え、成り代わることも可能です」
一瞬、時野の脳裏を過ぎった一つの可能性。
その推測を見透かして、シアは冷静に、淡々と事実を口にする。
時野の脳裏を過ぎった可能性――つまり、人間を殺した上で、その人間の姿に身体を作り変えて成り代わるというのは、確かに可能だ。それ以上に、その当人の記憶も吸い上げ、考え方、性格というものさえもコピーしきり、演じられるとシアは告げたのだ。
唖然とした様子の時野に、シアは悪気もなくさらに続けた。
「そもそも、そのようにして人間に成り代わって潜む我々のような存在は、大量に、とは言いませんが、確かに存在しています。さらに言えば、そんな同胞たちには自分たちの正体が何者であるかという意識すらも封印しており、外的要因――同胞である我々の接触、あるいは我らが主の命令が与えられるまで、それそのものを忘れて過ごしています。身体の作りも、骨も、臓器に至るまで、完璧に模倣していますので、普通の人間である貴方様のような存在に悟られることはありません」
「……そ、れは……また……」
衝撃的な内容に、時野は思わず言葉を失った。
もしかしたら、そうなっている存在は自分が普通の人間であると思い込んでいるのかもしれない。当たり前に日常を過ごしてきて、継続している記憶というものがあるのだから、そこに疑いを持つような事は滅多にないだろう。
だが、その記憶そのものが、そもそも自らが殺した人間の記憶であったものと、存在が成り代わってからの記憶が混ざっているものであったとしても、記憶に連続性があったのであれば違和感にすら気が付かないというのだ。
「――というのが、我々の界隈での鉄板ジョークです」
「……は?」
「そもそも、我々が脆弱な人間の身体を完全に模倣するような真似は致しません。外見だけ真似れば事足りますし、成り代わる必要もありませんので」
「…………は?」
「時野様がお疲れのようでしたので、気を紛らわせるための冗談に過ぎません」
「……本当に冗談、ですよね?」
「はい、冗談です。冗談だと思っていただいて問題ございません」
「言い方ァ……ッ!」
人外の冗談は、なんとも後味が悪いものであるらしい。
そんな事を強く実感するハメになった時野であった。
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