小噺 ドラクと漢らしさ
◆――――まえがき――――◆
頭痛酷すぎて頭働かないので今日は短めですー
◆――――――――――――◆
メッセンジャーとしての配信は無事に終了。
とりあえず、僕のタスクとしては、今後ニグ様とかヨグ様と一緒に新ステータス整備、ジョブシステムの取得条件設定だとか、新ダンジョンの設定とか、そういうのを詰める予定。
ちなみに時野さんという探索者ギルドの人については、ラトの分身体が直接対応を行ってくれている。
ラトの方が対人関係は上手くやってくれるからね。
新ダンジョン、新システムは今後の人類のダンジョン攻略のスタンダードになってくると思う。
なんていうかほら、今までのダンジョンの形式とかって、ガチ感が強くてエンターテイメント性は薄かったもんね。
きっと僕みたいにゲームとかラノベとか知ってる人がやる気を出してくれるに違いない。
初心者でも楽しめて、かつニグ様やヨグ様の目的にきっちりとマッチしてくれる存在が現れると嬉しいね。
一般人とか探索者界隈出身とか、そういうの関係なくダンジョンに潜ってもらいたいからね。
ともあれ、ラトやニグ様、ヨグ様と会って話をする前に、ソラモードになってから秘密結社の仲間たちがいるフロアへと移動した。
僕の城の秘密結社側のフロア。
あの騒動の時以来、みんななかなかストレスが発散できる機会を待っていただけあって、みんなテンション高めで帰ってきたんだっけ。
特に分かりやすくテンションが上がってたのはエリカだ。
なんか一人でずっとぐふぐふ笑いながら、時々思い出してまた笑って、みたいなのを何度もやってた。
正直、ホラーにしか見えなかった。
リーナも軽く引いてたし。
それでも、エリカは毒さえ撒いていなければ無害というか、まあ迷惑はかからないと言える。
クリスティーナという、ウチの秘密結社内でも最高に周囲の被害を広める自称歌姫に比べれば、という話ではあるけど。
だって、クリスティーナは戻ってきた時から普通に歌ってたからね。
あれ僕だけだったから良かったけど、他のメンバーがその場にいたら何人か鼓膜破れるぐらいまではしたんじゃないかな。
ともあれ、みんな『キメラ計画』の被害者だけあって、探索者ギルド襲撃に関してはかなり殺意が高めだったっぽい。
ましてや日本国内の探索者ギルド支部の中でも、本当に『キメラ計画』に関わっていたところをウチのメンバーが襲撃したから、そりゃあやる気も溢れるというものだ。
実際、ウチのメンバーが襲撃した場所、生存者ゼロだったらしいし。
いや、ウチのメンバーが見逃すとも思ってなかったけどさ。
なんて、当時の事を思い返しながら長い廊下を歩いていると、ちょうど突き当りの廊下からこちらに向かって曲がってきた人影に気が付いた。
「――よぉ、大将ッ!」
僕を見つけるなり声をかけてきたのはドラクだ。
背が高く、相変わらずな赤い髪をオールバックに撫でつけて目つきも悪いけれど、満面の笑みを浮かべてこちらに手を振ってきた。
相変わらず、見た目は凶悪めなのに毒気がないというかなんというか。
「やあ、ドラク」
「おう、一戦やろうぜッ!」
「今度ね」
「おう! わかったぜッ!」
「……うん、ごめんね?」
「いいって! 手が空いてたら頼むぜっ!」
……素直だね。
ホントこういうやり取りをする度に、なんというか、悪いヤツに騙されそうで不安になるんだよ、ドラク。
実際ドラクは幼い頃からずっと研究施設に捕らわれていたせいか、年齢は21歳らしいんだけど、精神面が小学生男子っぽさみたいなところがある。
戦いが関わらないところだと、ある意味すごくピュアというかなんというか。
実際、彼は戦闘狂ではあるけれど、毒気はそこまで強くないのだ。
早い段階で『キメラ計画』の成功例としていたおかげなのか、比較的他のメンバーみたいに精神に異常をきたすレベルで苦しまずに済んだ、というのが現実的なところではある。
なんというか、悪ガキっぽいというよりは少年っぽさが目立つ感じだ。
何かと戦ったりするのが好きで、秘密結社メンバーと模擬戦をしょっちゅうやっている。
その結果については基本的に後腐れなく終わらせているし、裏表のない彼の性格もあいまって、割とみんなからは好かれている。
「そういえばドラク」
「おうっ、やっぱヤるか!?」
「やらないよ。そうじゃなくて、ヴィムと戦ったりしないの?」
「あーっ、ヴィムの旦那はなんか忙しそうなんだよなー」
「ん、そうなんだ?」
基本的にヴィムってここにいる時、だいたいお世話してるか自己鍛錬に励んでいるイメージではあるし、そこまで忙しくしてる事ってないと思うんだけど。
リーナとエリカあたりがまた口喧嘩というか、言い合いみたいなのでも始めてヴィムが面倒見てる感じかな?
「おう! だから俺は今日、一人で筋トレだ!」
「そうなんだね。あ、じゃあリーナ相手にしたら?」
「えぇ……? アイツ、首ばっか斬ろうとしてきてこえーんだもん」
「……うん、まあそうだね」
確かにリーナの場合、加減とかそういうのが一切ないもんね。
基本的に首しか狙わないし、殺そうとするからね、あの子。
その点、模擬戦をして殺そうとしないメンバーって……ヴィムしかいないんじゃないかな、ウチのメンバー。
リーナはもちろん、エリカは毒をばら撒くけど、彼女の毒は殺す方向に特化してしまっているというか。
そもそも模擬戦をするような身体を動かし回るような戦い方もしないからね。
それを言うとクリスティーナもそのタイプだね。
彼女も全体攻撃タイプで身体を動かして戦うタイプでもない。
肉体的な強度に特化しているメンバーというと、あとはジンとハワードかな。
ただ、そもそもジンはお腹空いてダンジョンに行きっぱなしだったりであまりいないし、いてもコミュニケーションが取りにくい。
喋れないし、そもそもジェスチャーでこまめに何かを伝えようとしたりするタイプでもないから。
一方ハワードは…………うん。
彼はもう解剖マニアだからね。
模擬戦なんて頼もうものなら、その御礼代わりにどっかしら解剖されたりするかもしれないから、あまりオススメできないよね。
そう考えると、僕ってすごく良心的というか、普通なんだなって思うよ。
ほら、そんな無茶なこととか求めたりしないし、模擬戦で相手を殺すような真似はしないしね。
「やっぱ大将かヴィムの旦那じゃないとダメなんだよなー」
「うーん、そうだねぇ」
そうは言っても、このままじゃヴィムだけに相手してもらうしかないって感じかぁ。
この場所で戦える存在……あ、猫とか?
ほら、ウチの猫たちなんか触手みたいなの出たりするし。「にぇにぇに、に」って変な鳴き声するけど、なんか結構強そうだし。
「ねえ、ドラク」
「あん? なんだァ? やってくれるんかっ!?」
「ううん。猫とかと戦ってみたりしない?」
「猫?」
「うん、猫……っぽい感じ?」
「……っぽい感じ?」
うん、っぽい感じとしか言えないよね。
触手映生えるし。
「大将」
「うん?」
「猫ってのは、癒やしだろ?」
「うん……うん?」
なんかすっごい真面目な顔をして声をかけてきたかと思ったら……いきなり何を言い出してるんだろう。
めっちゃくちゃ本気の鬼気迫るような顔してるじゃん。
「あんなふわっふわで柔らかそうな相手に、俺みてェのが拳を振るうなんて……それは漢らしくねェだろ?」
「あ、うん。まあ、普通の猫にそれやるのはダメだね」
「だろ!? 俺ぁ漢らしくなりてェんだ! だから、犬猫は愛してやらなきゃいけねェんだ!」
「あ、うん。そっか」
……うん、よく分からないけどそんなものらしい。
とりあえず外の猫を喚び出してみようかな。
「ほら、ドラク。これが猫だよ」
「にぇにぇに、に?」
「ね、ねねね、ね、こ、ここここ……!」
あ、ダメかもしれない。
とりあえず猫を連れてその場から去ることにした。
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