第三章 エピローグ




 ――ふう、大満足!


 ソラという白勇者風キャラが、人類嫌いであるという背景があるにも関わらずにダンジョン攻略に今後協力していくための前提ムーブ。

 その背景となるような、『ダンジョンの魔王』ことノアを追いかけるための演出は、思っていた以上に予定通りに恙無く完了した。


 まあ、なんかラトから後で聞いた話によると、どうやらヨグ様がちょっとはっちゃけたりもした節があったとかなんとか。

 ぶっちゃけ、僕もヨグ様が近くで見物すると聞いた時にはちょっと驚いたんだけどね。


 ……なんかヨグ様、気に入っちゃったんだってさ。

 誰がって、御神さんが。


 僕と同じ養成校にいたこととか、まだまだ若い――というか僕と同い年の中では結構な勢いで成長しているらしい彼女を。

 あの騒動からもう2週間が過ぎたんだけど、あれから彼女は仲間たちと一緒に積極的にダンジョンに向かって訓練を続けているらしい。


 あと、何故かいた御神さんと一緒にいた水都先生もね。


 ちょっとラトを通してダンジョン庁の情報を抜き出して確認したんだけど、どうやら水都先生、特区の『境界の隔離壁』崩壊事件からこっち、ダンジョン庁の魔力犯罪者に対する対策課に異動になってたみたいだね。


 まあ、それはともかく。

 ヨグ様が御神さんを気に入って、ラトがヨグ様と一緒に作った〝凶禍の種〟の改良品とも言える代物を試しに埋め込んだらしいんだよね。

 どうにも【勇者】として覚醒する可能性が高いというのがラトの見立てなんだけど、そうなった場合に面白いものが見られるかも、とのこと。


 とりあえず期待はしてる。

 助けたり手伝ったりすることはないだろうけれどね。


 ヨグ様曰く――正確にはニグ様の通訳曰く――、御神さんには僕と比肩するような存在になってほしいらしい。

 理由は単純に、僕だけが突出してしまっている今の状態よりも、人間出身の【勇者】と【魔王】のバランスを取るという意味で。


 何か他にも考えていそうな気がするんだけどね。

 ヨグ様、無表情でまったくもって何を考えているのか僕には分からないから、予想してもしょうがないし、任せることにしている。


 楽しんでくれればいいよね。

 エンターテイメントを提供する側の僕にとっても、人類側にはある程度頑張ってもらわないと、ずっとただの一人芝居だけになっちゃうし。




 ――――まあ、それは置いておくとして。




 今回の騒動で、日本国内も今じゃ大パニック状態だ。


 政治家としてトップオブトップ連中がドラクミサイルで跡形もなく吹っ飛び、日本国内だけじゃなく、『魔王ダンジョン』がない国に突如として一斉に現れたサプライズダンジョンの出現及び『魔物氾濫』。

 さらには世界各地に点在する探索者ギルド支部への襲撃など、あちこちで騒動が引き起こされ、非人道的な実験に加担していた政治家、探索者ギルドに対して追求の声が強まっている。


 ハワードが助けた時野という男性については、今のところ配信を主に探索者ギルドの内部の切り崩しと、もともとの部下との協力で徐々に準備を進めているところ。

 僕としては、異世界モノのラノベにあるような冒険者ギルド的な立ち位置になってほしいし、探索者に寄り添ったクリーンな組織になってほしいところ。


 是非とも頑張っていただきたいね。

 大丈夫、胃に穴が空いたら魔法薬支給してあげるよ。

 がんばれ。


 一方で、無理やり戦いが激化したおかげもあって、ようやく一般人側も「このままじゃいけない、これまでの在り方を続けられない」という実感が追いついてきたのか、少しずつでも動き始める者が増えているみたいだ。

 つい先日、新たな【勇者】の覚醒に合わせて実装した『囲ったら氾濫シリーズ』も、最近は一般人側で順調に入場者を増やしている、というのがニグ様からの情報だ。


 ただまあ、色々荒らしたものだからまったく違う方向で問題が出ているんだよね。

 人間という生き物は、なんだかんだ支え合って生きているものであって、その支え合いが崩れてしまうと大変なのだとよくよく理解した。


 つまり何が言いたいのかといえば、世の中が混乱するとなると、諸外国からの輸入によって食糧や生活必需品を賄っていたりっていうのがデフォルトだったこの国は、あちこちの国で起こった混乱で取引国の出し渋りが増えてしまった結果、かなり厳しい状況に陥ってしまったようだ。


 もともと、『魔王ダンジョン』が出たあたりから工業とかもだいぶストップ気味ではあるけれど、そっちは特区モデルという存在もあったおかげで、だいたいオートメーション化が進んでいたから、国内製品でどうにでもなったし、売れなければ機械を止めるだけでどうにかなっていた。


 けれど、農作物というものは、自然との付き合いというか臨機応変さが求められるため、完全オートメーション化はまだまだ難しく、一昔前に比べても相変わらず人力に依存気味だったりする。


 現状を噛み砕いて言えば「海外から輸入できねぇじゃん草。つか今から生産量あげてもどうにもならんくない? 魔物も出てくるし」という状況になっているみたいだね。

 なんかテレビで生き残った政治家がそんなこと言ってたみたいだよ。

 狙撃されて死んでたけど。


 僕から言わせれば、人類はあまりにも多すぎるんだよね。

 自給自足なんてできるスペースもないような都市を作っているから、こういう時に「ほな育てよか」とはいかなかったりするんだもの。



「――で、食料自給率の解消にダンジョンで肉や野菜を採れるようにしたらどうか、ってことなのね」


「うん、世はまさに、ダンジョン飯時代ということだよ」



 そんな訳で、僕ら『いかに人類を効率良く戦わせ、〝進化〟させるかを考える会』ことラトとニグ様、ヨグ様と一緒に会議を行っている。


 いや、そんな名前ついてないけどね。

 僕が今、適当につけただけだし。


 ダンジョン飯時代とか、それも知らんけど。

 


「位階ⅠからⅡぐらいでもそこそこ戦えて、かつ肉や野菜、果物なんかが手に入るダンジョンがあれば、位階が低い人間でも入りやすいし、入ることに対して必要性を見出しやすいでしょ?」


「ふむ」


「それに、せっかく強くなる素質があったのに、食事が手に入らなくて死んじゃったとか、もったいないと思わない?」


「なるほどね……。確かに、颯の言う通りダンジョンに入らざるを得ない理由ができれば、今よりも戦うことが身近にもなるでしょうね。今までのダンジョンでそういう風に調整したものはなかったと思うけれど。ニグ、できそう?」


「できるかできないかで言えば、可能ではありますね。ただし、たとえば一匹の豚を倒したとしても、落ちるのは数キロ程度分のお肉とか、そういう形になりますが」


「それでいいと思うよ。まるまる一匹手に入るってなっても便利過ぎるし」



 ラノベとかでもそうだもんね。

 ほら、ミノタウロス倒したら牛肉だけど部位不明肉が数キロとか、そんなアレな感じ。

 人類が賄えるレベルじゃないし、決して多すぎるとも言えないけれど、充分にお腹は満たせるし多少は売れる。


 人類が困窮していれば、そこに入る人は増えるだろうから、売る人だって増えればきっと食糧問題も解決できるようになるはず。

 まあ、位階があがったら行く人が少なくなったりとかっていう未来が来るかもしれないけど、そんな未来にどうするかなんて僕には関係ないしね。


 そのうち、ハーレム主人公とかが自分とハーレムメンバーのためにストックしておいて、溜まり過ぎて孤児とかに無駄に施すとかやったりね。王道あるあるでいい感じ。


 ほら、この前のハルトくんとか、それで腹ペコ大食い系美少女とか拾ってハーレム増やすんでしょ? 知ってる。



「つまり、〝ダンジョンそのものを人間種に寄せる〟ということですね」


「そうなるわね。実際、初期のダンジョンは人間種側の事情を無視していたし、実力を上に見ていた節もあるのよね」


「確かに言われてみればそうですね。我々にとってみれば充分に歩み寄ったつもりではいましたが、想定以上に人類が弱かったので」


「うんうん、人間は弱いからね。…………え、何? なんで3人揃って僕を見るわけ?」


「颯は人間種の埒外、規格外とも言える存在よ」


「颯ですからね」


「え、何それ? なんでヨグ様も頷いてんの? というか僕だってダンジョン攻略を進めていた時は、ひたすら暗殺寄りの戦い方してどうにかなっただけなんだけど」



 いや、僕だってダンジョンに入り浸って戦いながら何度も死にかけたし、なんなら運が悪かったら死んでたなって場面とかも割とあったからね。



「そういえば颯の戦い方って、今みたいな正面から向かい合うような戦い方じゃなかったのよね?」


「うん。ひたすら隙を窺って観察して、特徴や癖みたいなものを洗い出して、散々シミュレーションしてから条件が揃ってから一発で倒すか、一発で倒せなくても優位性を確保してから倒す、みたいな感じだったね」



 そうやって位階をあげてダンジョンの奥に進んで、また位階をあげて。

 そうして深淵を踏破したからこそ、初めて真正面から戦う強さを求めて修行していたからね。


 そもそも魔物相手に真正面から正々堂々と戦うのは、僕から言わせれば馬鹿のやることだ。

 体躯の違い、二足歩行の人間と四足歩行の獣の瞬発力の違い、昆虫系の魔物の生命力、それらのどれを取ってみても、人間という生き物は非力で弱いのだから。


 刺し貫ける牙もなく、突き立てる爪もない人間という生き物は、知恵を持つ代わりに個の戦闘能力ではあまりにも脆くて弱い。

 ダンジョンとは、そういう環境で、自分たちよりも戦闘能力に適していて、特化した存在と殺し合う場所だ。

 そんな場所でわざわざ正面から戦えなんて、誇りを抱いて死ねって言うようなものでしかない。


 だから、必然ゲームみたいにパーティだの前衛後衛だとか、そんなものは意味がない。


 大きな盾を持った防御役がいたとして、魔物の攻撃で自分にはダメージが通らなかったと仮定しても吹っ飛ばされてしまっては元も子もない。

 ゲームみたいに、相手のヘイトを集められるようなスキルとか魔法があるなら意味もあるかもだけど、そんなの聞いたことないし。


 そんな訳で、僕としては基本隠密行動で一撃必殺を重視して、それでもダメならヒット・アンド・アウェイを徹底するのが一番理に適っていると思う。


 魔力や膂力で真正面から押し潰すような戦い方ができるのは、単純に相手が格下だからできるっていう、ただそれだけの話だもの。



「颯の戦い方が理に適っているのは間違いないですね。というよりも、そもそもダンジョンは複数人での攻略を前提としていませんでしたから」


「え、そうなの?」


「はい。魔物の個体数自体もかなり少なく設計していますよ? 位階についても一人で戦った方が上がりやすいのは間違いありませんので」


「あー……」



 言われてみれば、複数体の魔物が徒党を組んでいたり、大量の魔物がいるような場所ってあんまりないんだよね、実際。

 そういう場所って割と逃げたり隠れてやり過ごせたりするから、僕も全然気にすることはないけれど……。


 でも、そう言われるとちょっと納得かもしれない。

 実際、初期の【魔王】や【勇者】って唯我独尊気味というか、ソロぼっちっぽい性格の人が多いし。


 ……ヨグ様、その顔文字は何かな?

 なんか指差してきてるような顔文字見せつけてきてるけど。



「となると、前提からして人間種の戦い方が間違っているということよね」


「ふむ。人間種に合わせるのであれば、複数人で組んで戦えるようなダンジョン設計の方が良い、と」


「そうだね。その辺り含めて、ちょっとダンジョンアップデートってことで色々設計を変えてみたらどうかな? あと、ラノベなんかだとステータスとかスキルっていうのがあってね――」



 そんな事を話しながら、僕ら『いかに人類を効率良く戦わせ、〝進化〟させるかを考える会』の議論は進んでいった。







第三章 了




◆――――あとがき――――◆


はい、という訳で第三章はここで区切りになります。

応援、コメントやレビューなど、改めてありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧


第三章は割と別視点の物語などもかなり細かく書いていたので、文字数が予定を結構オーバー。

そこで開き直った作者は、主人公サイドだけでは世界の変化などが伝わらない(そもそも颯だと世の中に興味を持たない)ことや、様々なキャラクターの掘り下げも行いたかったため、そういう縛りは一旦無視するという暴挙に出ました()


ともあれ、今回の騒動をきっかけに世の中の在り方などが大きく変わるので、数話程度閑話(というよりも、別視点での今回の騒動での影響などを表すお話)を投稿して、第四章に進みまーす。


引き続きよろしくお願いします(๑•̀ㅂ•́)و✧




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