役割
突然始まった、新たなダンジョンの出現。
ちなみにこれ、『囲ったら即氾濫』シリーズとは完全に別物サプライズ出現である。
で、出現と同時に一斉に引き起こされた『魔物氾濫』。
さらに、僕の秘密結社メンバーとラトの分身体が統制している魔力犯罪者グループを利用した、日本、そして海外での探索者ギルドの襲撃。
極めつけは、近隣諸国への【勇者】派遣を話し合いながら、そのメリットだの正当性だのを臨時国会とやらで語り合っていた政治家たちに対する、空から一直線に落下、着地寸前に大爆発を引き起こすドラクミサイルでの襲撃。
実はこれ、〝
本来〝
ラト曰く、魔力の使い方があまり上手くないらしい。
崖上から滑空して、その着地追突時に爆発を引き起こして、自分は落下による衝撃を吸収しながら着地して、周囲に範囲攻撃を仕掛けるみたい。けれど、ドラクは飛べるし、その攻撃をより効率的に行えるので、あんな攻撃が可能になったというわけだ。
……いや、うん。ドラクミサイル、ね。
ネーミングは僕じゃないよ。
本人が「カッコイイだろ!」って言ってたけど、僕はそうは思わない。
美的センスの方向性が違い過ぎる。
ともあれ、これで一気に日本国内はガタガタになった訳だ。
臨時国会なんて言ったって、もちろん全ての議員が参加している訳ではないけれど、魔力犯罪者も増えているんだから、自分たちがこうも簡単に襲われ、あっさりと殺される可能性について何も考えてもいなかったんだろうか。
……考えていたら、最初からいちいち一箇所に集まったりしないか。
意味のないものを「昔からの慣習」だので拘って無駄に続けたがるもんね。
ホント無駄。
一般人同士の人間相手で考えれば、警備を強固にしてればどうにでもなったかもしれないけれど、探索者を隔離して、自分たちとは違う世界の存在であるかのように振る舞っていたから、実感が薄かったんだろう。
だから、旧体制のままで国会だのなんだの開いていたんだと思う。
思考停止具合が見て取れるというものだ。
どうでもいいけど。
彼らは今の一般人と探索者の在り方を生み出してきた存在だ。
そして、キメラ計画に加担した者も多い。
ニグ様的にも処分対象となっていたし、今さら生かしても意味がない。
ちなみに、ウチの秘密結社メンバーは今日は全員同じ仮面をつけていて、ドラク以外は目深に被れるフード付きのロングコートを着用して騒動を引き起こしている。
ほら、僕ってば白勇者風ムーブをする時に、ニーナとか引き連れて行くこともあるからね。顔が割れてしまうと面倒だもの。
ドラクについては、うん、彼は仮面なんてつけても翼がある時点で隠せないし、燃えるから意味がないから諦めたけどね。
どうせ爆炎と煙の中にいるだろうからバレないでしょ。
ともあれ、まだ僕はこのタイミングで指を鳴らしただけ。
探索者ギルドに襲撃を仕掛けているのだって、魔力犯罪者たちがメインで、その中に僕の仲間である秘密結社のメンバーたちが顔を隠し、同じ服装で潜んでいるというだけ。
これらの要素から、僕、そして『ダンジョンの魔王』、『天の声』であるニグ様との繋がりに気が付く人間がいるかどうかはまだ分からないけれど、はてさて。
ラトが言うには、わざわざこういう繋がりが見えてくるような小さな素振りを残すのが楽しいと言っていたからやってみたけれど、人間に考察する余裕なんて生まれるのかな。
正直、日常が壊れてそこまでの余裕があるとは思えないけど。
まあ、ともあれ僕も動こう。
「なんだか大変なことになってきたみたいだし、僕は行くよ」
「え、どこに……?」
「なんとなくだけれど、兄さんが姿を現した気がするんだ。あっちの方から気配みたいなのを感じる。だから、会いに行く」
よし、決まった。
このセリフを言っておくことで、今度から『ダンジョンの魔王』ムーブをした僕が現れる所に僕がいても不思議じゃなくなる。
なんかこう、クローンだからこそお互いに存在を感じ合う不思議な力が備わっている的な、そういう解釈を広めてもらうことに期待しておこう。
「……あの、ソラさん」
「ん? なんだい?」
「その、お兄さんに会ったら、私たちも感謝していたと伝えてもらえますか?」
「感謝?」
「はい。私たちはソラさんのお兄さんに助けられたので」
うん、知ってる。だって同一人物だもの。
というか僕からしても、キミたちを助けたというより、ちょっとイラッとしたからプチッとしておいただけだし、感謝なんてされても困るってのが本音だったりする。
「……そっか。分かった、伝えておくよ。――それじゃ」
短く告げて、僕は白い翼を生やしてから空へと飛び上がった。
もちろん、翼で飛んでいる訳じゃなくて魔法で飛んでいるんだけど、演出のために。
◆ ◆ ◆
その一方、東京都内。
魔力犯罪対策課、第4特別対策部隊に所属する御神ら一行は、東京都内に突如として出現した、新たなダンジョンから溢れてくる魔物たちを食い止めるべく、現場へと向かって車を走らせていた。
「――水都隊長、ダメですッ! この辺りまで魔物が来てしまっていて、乗り捨てられた車で道が塞がっています!」
渋滞に巻き込まれる形になったか、あるいは律儀に信号を守っていて追突されたせいか。道路にはずいぶんと激しく損傷した車が乗り捨てられており、周辺は人々が駆けだしている姿が見えている。
その後方――水都らが向かっていた方角から悲鳴が聞こえてきて、魔物が追ってきていることを確認した水都が、素早く車の扉を開いた。
「上野、現着している他の班は?」
《いません、我々が一番乗りです! ドローンでの周辺情報の探索も、飛行型の魔物によって墜落されてしまい、情報を得られません!》
「なるほど。――全員、ここで降りるぞ。長嶺、御神と藤間を連れてダンジョン周辺の情報収集を優先しろ」
「ん、了解」
「木下、私と共にこの周辺の魔物を掃討。一般人の避難の補助をしつつ、道路上に乗り捨てられた車をどかし、道を作るぞ」
「おうよ!」
「上野、後続部隊に我々が整備するルートを共有。同時に、長嶺班から情報を貰い次第、防衛ラインを選定し、指示を他部隊に共有しろ」
《了解です》
「車は一旦下がって避難しておけ。場合によっては上野の指示で動いてもらうかもしれんが、基本的には安全圏を維持しておくように」
「か、かしこまりました!」
「では、行動開始!」
飛び出すと同時に、長嶺が御神、藤間についてくるように目を向けてから頷き、飛び上がる。
どうやら長嶺は、一般人らとぶつからないように道路上に転がる車から車の上を跳んで渡って進むという選択をしたようで、御神、そして藤間も即座に長嶺に追従して駆け出した。
「――みかみん、藤間。隊長の指示を改めて伝えとく。私たちは現着を優先。行き交う人々が魔物に襲われていても、救助活動はしない」
「ッ、了解しました」
「……いやぁ、やっぱそうなっちゃうよねぇ~……」
長嶺が声をかければ、御神も不承不承に頷き、藤間も苦笑を浮かべて納得した様子で返した。
厳しい話かもしれないが、目の前で一般人が襲われていたとして、それらを守ったとしても、ダンジョンから魔物が溢れ出てきている以上は焼け石に水程度の効果しか得られない。
今の長嶺、御神、そして藤間に求められている役割は、ダンジョンの入口、またはその周辺の魔物が跋扈する領域の確認。つまり、防衛ラインを構築するための情報収集だ。魔物の分布状況の確認、侵攻速度の確認を優先しなければ対策を打てない。
飛行型の魔物も大量に出てきているようで、次々とドローンも墜落させられているというのであれば、それを行えるのは長嶺たちだけ。
たった一人を助けている間に、数十、数百どころか、数千、数万という犠牲を生み出してしまう可能性が高い。
こうなってしまった時、どちらを取るべきなのかは深く考えずとも機械的に判断するに越したことはない。
故に、長嶺は断言した。
救助活動はしない、と。
しかし。
「――きゃあああぁぁぁっ!?」
悲鳴をあげる女性に、飛びかかる魔物。
血飛沫をあげながら倒れる女性に、さらに別の魔物が飛びかかる。
その光景を見ていた一人の少女が、大きく目を見開いたまま動きを止めていた。
その横合いから駆けてきた狼型の魔物に、首元を噛み付こうとして――御神が飛び込み、その魔物を両断する。
「……ぁ……」
「走りなさい、早く。向こうへ。あなたを守って私はついて行けない」
短くそれだけを告げて、御神が再び駆け出す。
そんな御神の行動に、長嶺は何も言わずに気が付いていないかのように顔の向きを戻し、藤間は小さく苦笑する。
御神とて、人間を守りたい、とまでは考えていない。
一般人としての〝普通〟を知り、探索者としての〝普通〟を学び、適用してきた自分にとって、今はまだ、何が正しいのかは分からない。
だがそれでも、目の前で子供が死んでしまうのだけは、どうしても見過ごせなかった。
ただそれだけの話だ。
「――みかみん」
「お咎めは後ほど受けます」
「違う。――ぐっじょぶ」
「……え?」
「あーっと、手が滑ったぁ~」
わざとらしく、まるで誤魔化す気などないかのように藤間が声をあげて、風系統の魔法を斜め前方を逃げてくる人間たち、その後ろを追いかける魔物たちへと放ち、斬り裂き吹き飛ばしてみせる。
その光景を見て、藤間はわざとらしく肩をすくめてみせた。
「いやあ。すんませんね、副隊長。魔物が見えて緊張したせいか、思わず魔法ぶっ放しちまいました」
「……藤間、あとで始末書」
「えっ!? なんで!? 今のって俺にも笑ってぐっじょぶって言ってくれる流れじゃ!?」
「おまえのは、負担が大きい。私たちの任務に支障をきたすようなものであれば、許せるはずもない。みかみんみたいに、〝消耗がないから咎める必要がないもの〟とは違う」
「……あはは、りょーかいっす」
落ち込んだように見せて苦笑しつつ、藤間はそれでも御神に向けてウインクを一つしてみせる。
どうやら藤間なりに御神のフォローに気を回した結果の行動だったようで、御神もまたふっと肩の力が抜けた気がした。
「みかみん」
「っ、はい」
「私たちはダンジョン庁の所属。だけど人間であって、心を殺してまで任務だけを遂行できる機械じゃない。負担にならないなら、信念を貫いていい」
「……はいっ!」
長嶺の言葉を聞いて、御神が嬉しそうに頷く。
目的地となるダンジョンのポイントまで、あと数キロ程度。
長嶺たちはお互いに頷き合うと同時に、再び速度をあげてその場から飛び出した。
――――そんな3人が向かう先に、何が待っているのかも知らずに。
「――お待たせ」
「大して待ってないから大丈夫よ。こっちはさっきからこんな調子だし」
人の気配がなくなり、魔物たちだけが跋扈するオフィス街の中心部には、今もなお新たな魔物を送り出している新たなダンジョンの出入り口が見える。
その出入り口を見下ろすような位置にある背の高いビルの屋上に、3人の人影があった。
一人は黒髪に赤いメッシュの入った髪、一人は妖艶な美女、一人は玉虫色の長い髪に真っ白な貫頭衣姿というアンバランスな男女の姿だ。
「それにしても、本当に魔物たちって僕らには襲いかかろうともしないんだね」
「ダンジョンの魔物は、いわば自動攻撃システムみたいなものよ。その攻撃対象から私たちを除外しているのだから、攻撃されなくて当然よ」
「へぇ、そうなんだ。……ん、ヨグ様、それどういう感情でその顔文字なの……?」
薄っすらと緑がかった半透明の板。
そこに何故か表示された〝ドヤ顔〟の絵文字。
それを見て、不思議そうに黒髪に赤いメッシュの入った少年――『ダンジョンの魔王』と呼ばれる颯が、小首を傾げた。
そんな颯と玉虫色の髪の幼女のような見た目をしたヨグのやり取りを見て、妖艶な美女であるラトが小さく溜息を吐き出した。
「ほら、さっさと始めましょう」
「あぁ、うん。そうだね。今日のショーのお題目は、ずばり――――!」
ヨグがぐいっと差し出すように向けてきた、半透明の板。
そこには、やたらと達筆な筆文字で、『決別』という文字が表示されていた。
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