開幕
◆――――まえがき――――◆
何故か予約投稿して公開されてたのに下書きに戻ってた件。
◆――――――――――――◆
「――はい、皆さんも気になっているようですので、さっさと本編に進みますねー。実は今、探索者の中にまことしやかに流れている噂があるんです。それがなんと、人間と魔物を融合させ、魔物の力を使えるようになる人間を生み出す実験が行われているという噂です」
:は?
:それ都市伝説じゃなかったん?
:改造人間ってコトォ!?
:仮面つけてバイク乗るライダーになっちゃうの?
:なにそれ?
:ライダー通じなくてジェネレーションギャップを感じた
:そっちじゃねぇww
探索者の配信アプリ、『D-LIVE』のコメントなんかを映してくれるARレンズ。
今回の配信にあたって彼女たちから予備のARレンズを渡され、今日は僕もそれをつけている。
もともと『D-LIVE』は魔道具を使ったアプリなのだけど、アカウントをスマホと紐づけて同期設定さえすれば、こうしてダンジョン外でもネット回線を通しての配信も可能らしいね。
それにしても、なんていうかコメント欄の流れって結構面白い。
まあ僕が配信なんてするはずないけど。
ミステリアスキャラムーブとかしている訳だし。
「実は私たち『燦華』は、最近探索者ギルドのとある方より依頼を受けて、その研究を行っていたという研究所の調査を行っていたのです。ね、紗希」
「そうね。もっとも、私たちが行った場所は大体がすでにもぬけの殻になってしまったり、クランとダンジョン庁が調査した後だったりするところが多かったけれど。それでも、得られた情報が幾つかあったわ。夏純、お願い」
「えぇ、画面切り替えますわね」
:お
:何これ
:キメラ計画?
:いや、クローンって
:マジでなんだこれ
:いや、情報量多すぎ
:完全版見つかったのか!?
:完全版って言ってる人いた
:え、ガチの資料なん?
画面に表示された研究資料。
その見出しに記載されている『キメラ計画の研究結果と、特殊型クローン計画の進捗状況報告』という文言。
そう、彼女たちが流しているのはラトが用意した、虚実を交えた完全版と同じもの。
つまり、以前御神さんたちに渡したものと同じ、僕から提供したものである。
夏純さんが大きめの岩に腰掛けて膝の上でノートパソコンを開いて操作しているのだけれど、どうやらそのノートパソコンに表示されている映像を流してくれているらしい。
燐さんと紗希さん、それに夏純さんが、それぞれに資料を声に出して読み進めていく。
そうやって内容が語られていくにつれて、段々とコメントの流れがかなり混沌としたものになっていった。
:おい、マジかよ
:拒絶反応で死亡者多数って、なにそれ
:大人の適応率より子供の適応率の方が高いって、それって
:酷すぎる……
:おかしいだろ、こんな実験
:非人道的通り超えてもはやクズの所業
:は?
:え
:ちょ
:探索者ギルドのアドバイスと協力ってなに!?
:有名政治家の名前も出とるんだが
:クソじゃん
:いや、まてまてまて
:国との協力、孤児の利用……
:おい、マジか
:そこのとこ、ウチが見つけたデータの破損箇所だ
:おいおいおい、これは……
流れるコメントの数々。
それらの多くは驚愕、落胆、怒りといったところかな。
この配信の視聴者の多くは一般人だけれど、探索者も増えているらしい。
同時視聴者数がどんどん膨れ上がっているのは、おそらくSNS上でもこの配信が話題になり始めたせいだろう。
すでに100万近い人間たちがこの配信を視聴しているようで、視聴者の数は数秒ごとに更新されて増加の一途を辿っている。
きっと今頃、国のお偉いさんやら探索者ギルドの『キメラ計画』に加担した連中は、一生懸命『D-LIVE』に対して配信の停止を求めて連絡しているのかな。
まあもっとも、そんな彼らは電話しようとした先から、ヨグ様とラトによって軽い発狂モードに落とし込まれているだろうけれど。
安心するといい、1時間ぐらいで目を覚ますぐらいらしいから。
後遺症はまあ、残らなかったらいいね、ぐらいだけど。
:ヤバい情報過ぎて草も生えん
:今すぐ配信を止めてください。事実無根の言いがかりです
:さっきから探索者ギルドの公式アカウントが叫んでて草
:いや、事実無根の言いがかりってのは無理があるんじゃね?
:え、やば。『大自然の雫』がこの配信の情報と同様のデータを公開した
:は?
:え、『円安の既視感』もだ
:このシリアスでそのクランは草
:状況が状況なのにそのクラン名は笑うからやめーやw
:湖の騎士たちに死んで詫びてどうぞ
:次々情報あがってんじゃん
:こーれ事実無根BOTの公式アカ、息してる??ww
:どこのクランも確証がなかったので公表していなかったらしい
丹波さんの狙い通り、というところかな。
彼女が所属する『大自然の雫』は何かと有名なクランだ。
そんなところがデータを公表するという形で『燦華』の配信に対して支持を表明すると同時に、僕らがばら撒いたデータを持っているあちこちのクランも、次々に情報を公表していっているらしい。
実のところ、『大自然の雫』から事前に幾つかのクラン――それも、『キメラ計画』の研究所を調査したクランに、事前に今回の話は通達してもらっている。
徹底的に探索者ギルド、そして国の今の上層部連中を巨悪というポジションに押し上げるには、大手のクランも支持を表明し、この騒動を後押しするのが一番手っ取り早い。
そうして幾つかの大手クランが情報を表明したからこそ、この流れに乗ろうと情報だけを手に入れていたクランも公表し、公開していく。
色々な場所から出てくる証拠の数々。
そんなものを突き付けられてしまえば、探索者ギルドも、そして協力したと名前が記されている者達も無視し続けることは難しい。
けれど、それでも。
組織というのは対外的に処分したように見せて、実際には何も変わらなかったりもする。
ラノベで見たよ、そういうの。
実際どうなのか知らんけど。
そんなことを考えている間にも、配信は進んでいく。
:え
:ちょいまて
:魔王様……?
:完全個体のクローン複製体……?
:ねえちょっとまって
:前にハルトきゅん配信でソラくんが言ってた、幾つもいるって……
:名前がないっていうのも、そういうことかよ
:処分って
:自分と同じ顔をした連中が、失敗作って言われて処分されていくの……?
:なんだよ、これ……
:ワイ、ソラくんになんで人間を恨むんだよとか書き込んだけど、こんなん恨んで当然じゃん……
:非人道的にも程があるだろ……!
うんうん。
そうだね、悲しいね、嘘だけどね!
まあ僕が本当にソラっていう白勇者風ムーブの立場だったら、人間を恨んで……いや、どうでもいいって思うかなぁ。
とりあえず復讐はするけど。
ムカつくもんね、多分。
自分に置き換えた上で考えながら、今の行動計画を立てている訳だし。
そうして、資料の公開が終わって。
ドローンが動き出すと同時に、燐さんが神妙な面持ちをして顔をあげた。
「実は今日、この資料を真実だと裏付ける人たちにも配信に参加していただいています。――夏純ちゃん」
「えぇ。――繋がりましたわ」
:誰だ、これ?
:え
:マ?
:探索者ギルドの日本支部長?
:HPに顔載ってるわ
:ってことは、ホンモノ!?
:コイツも研究に参加してたとか?
:え
:マジかよ
:親友が消されたとか、つら……
:最悪
:監視があった!?
:逃げられたのか!
:うおおおおぉぉぉ! 燦華グッジョブ!
:立ち向かうとか、カッコよすぎかよ!
:すげえええええええ
:こーれ本気だわ
:もう目がマジじゃん
:応援する!
:拡散拡散!
:『大自然の雫』、支持表明きちゃ!
:他もきちゃ!
:『円安の既視感』何もなし!
:おいwwww変なのおったぞww
:あ、表明出たじゃんww
:草
:これはマジで時野氏に頑張ってもらわなくちゃ!
疑わしい目を向けられて、それでもなお真摯に、冷静に語る時野さん。
そんな彼へとコメントが投げかけられ、次々に応援の声があがっていくのが見える。
今回、時野さんは命を狙われたため、今は離れた場所に護衛をつけて隠れているという話に持っていっている。
こうして配信していることで、物理的に妨害が入る可能性もあったから、という名目だ。
本音はまあ、どっちでも良かったんだけど、あの辺りは確かに安全だ。
ハワードが周囲に糸を張り巡らせているから、警戒しやすいし。
それにしても、コメントも盛り上がっている。
これなら人間たちには現体制を打ち倒す気概を持って、せいぜい世の中の秩序という秩序を荒らしてもらえそう。
もっとも、誰かが動いてくれるとか、何かの流れに乗って責任を取らずに済むことを願い、匿名性の高いネットの社会でだけ騒ぎ立てるっていう日和見国家の人間たちだ。
この程度で本当に行動できるのかと言われると、まあ行動なんてしないだろう、というのが僕とラトの見解な訳で。
それに加えて、『キメラ計画』はともかく、クローン――つまり僕については知らないなんて言われてしまうと面倒。
実際にやっていない計画が追加されているのだ。
下手に開き直って「『キメラ計画』は認めるけどクローンなんて知りません」みたいに言われたりしたら、有耶無耶にされちゃいそうだしね。
だから、覆させなる余裕なんて一切与えないよう、僕らは動くのだ。
「――ありがとうございました、時野さん。私たちが、必ずあなたの信念を守り抜いてみせますわ」
夏純さんがそこまで言ったところで、通話が切れたのか、ノートパソコンを折り畳んだ夏純さんが、燐さんと紗希さんに並ぶようにドローンの前に立った。
「さて、ここでもう一人、今回私たちが公表した真実における重要な証人とも言える方を招いています。――どうぞこちらへ」
そんな燐さんの一言で近くに来るように呼ばれてゆっくりと歩いていきながら、コメントを見やる。
:もう一人?
:誰だろ?
:証人ってことは、政治家とか?
:さすがに政治家とかはないだろw
:え
:あ
:ソラくん!?
:誰?
:あんだけ騒がれたのに知らんヤツおるんかw
:こうして見ると、まだ子供じゃん……
:ちっちゃ可愛い
:実は女の子だったりしない?
:ソラちゃんだった?
:燐より背低いのか……こんな子供に……
……ッスゥーー……うん。
こいつら、ちょっと全員呪ってやりたいんだけど。
絶対いつか攻撃対象に含むから。
いや、まあそれはとりあえず置いておくとして、台本通りに話を進めないとね。
「今日はありがとうございます、ソラさん」
「こっちこそ。配信なんてものを初めて間近で見て、面白かったよ」
「そうですか。……ちなみに、ソラさん。ここに書いてあるのは……」
「うん、事実だよ」
:マジか
:探索者ギルドと国のお偉いさん、人の心とかないのかよ
:ホント金とか利権とかに目眩むとこれだから
:マジでなんでそういうクソばっかお偉いさんになるのやら
:そういうことを欲するから目指すんだろ、権力の極致を
:なんか妙に説得力あって笑えねぇ
:最初はそうじゃなかったかもしれないけど、染まったりするんだろうな
:このデータがホンモノだってソースがなくない?
:こんだけあっちこっちから出回ってて何言ってんだw
:嘘かもしれないのに信じすぎ
:はいはい、工作員おつ
おぉ、なんか荒れてるねぇ。
というかこう、凄いね、人間のこの正義を得たかのような、まさに鬼の首をとったような反応っていうのはさ。
その調子で、自分たちも立ち上がって戦ってくれればね。
僕としては文句ないんだけどね。
まあ、そうなってもらう為に煽るのが今日の白勇者風ムーブの役目なんだけどね。
「さて、キミたちも僕と兄さん……、キミたちが『ダンジョンの魔王』と呼んでたりする相手が、どうやって生まれたか理解しただろう? つまり、これで、
:まあ、それはそう
:分からなくはない
:お姉さんが養って癒やしてあげる!
:ホントにお姉さんか……?
:おb
:漢m
:あ?
:ひぇ
にっこりと語りかけたものだからか、コメントの流れは先程までの重々しいものとは違って、なかなかにノリが軽い。
けれど、まあ。
笑っていられるのも今の内だけどね?
「まあ、そういう訳で僕は人間たちに協力しようとは思っていないんだ。でも、こんな非人道的な真似をした者達を、司法は本当に裁いてくれると思うかい?」
:こんだけ証拠あればちゃんと裁いてくれるはず
:でも、こんな権力者たちが捏造だなんだって騒いだら翻りそう
:実際、政治家の汚職とかもそうだしな
:なんだかんだ理由つけて政治家不起訴あるあるw
:ホントクソw
:探索者のこととか思いっきり騙してたのも国だしな
:有耶無耶にしてるじゃん、実際
:まあでも、だからって俺らに何ができるって訳でもないっていうw
コメントを見ていても日和見ぶりは健在みたいだね。
――という訳で、始めようか、ニグ様。
《――全世界の人間に通達します。これより、新たに実装したダンジョンの出現、及び全世界共通の『魔物氾濫』を開始します》
:え
:は?
:なに
:今のって『世界の声』!?
:ちょっと待て、いきなり『魔物氾濫』!?
:外から悲鳴聞こえてきた
:げ
:やば
「――っ、皆さん落ち着いて行動してください!」
燐さんが配信越しに慌てた様子で声をあげて、紗希さん、夏純さんが即座に落ち着くように説得を開始する。
――無駄だよ、混乱はまだまだ始まったばかりだからね。
そう思いながら、僕はパチンと
それと同時に、イヤホンマイクから次々と声が聞こえてくる。
《――っしゃああぁぁッ! 行くぜぇぇぇッ!》
《あはっ! ジン、どっちが多く殺せるか、競争しよーね?》
《苦しんでもがいて足掻いて死ね》
《ではでは皆様方、ご清聴くださいませーっ!》
《がああぁぁぁッ!》
《おやおや、皆さんお元気ですね。――あ、失礼、魔法をかける前に開いてしまいました》
楽しげに、騒がしく――――
:え
:なに、ニュース!?
:ちょ、何これ
:え、臨時国会の中継?
:今度は何!?
:あ
:うそ
:なんだこれ
:え?
:探索者ギルド支部に襲撃!?
:まてまてまて、なんだこれ、なんだよ、これ!?
「――ッ、燐、紗希ッ! 見て!」
「……臨時国会の中継が、突然の爆発と思しき轟音と同時に、途絶えた……?」
「しかも魔物が一斉に永田町に現れたって!」
「こっちは探索者ギルドの支部のあちこちに、魔物の襲撃だって!」
「ご、ごめんなさい! みなさん、収拾がつかなくなりそうなので、配信終わります! 危険な場所にいる方は急いで避難してくださいッ!」
――――この国に、世界に、混乱と、混沌をばら撒こう。
平和を謳歌し続けてきた日本国内。
そのあちこちで、悲鳴が響き渡った。
◆――――おまけ――――◆
ヨグ「♫«٩(*・∀・*)۶»」
ラト「ほら、そろそろ颯が戻ってくるから、そしたら出番よ」
ニグ「準備はできていますか、ラト」
ラト「えぇ、こっちは大丈夫」
ヨグ「₍₍◝(°°*)◜₎₎₍✧*。」
ニグ「はいはい、慌てなくても逃げませんよ」
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