ヤベー奴らしかいない件
僕が『キメラ計画』の研究所から連れ出したメンバーは、その名の通り魔物の力を埋め込まれ、その拒絶反応を抑え込んだ半魔物、半人間というような存在だ。
つまり魔人……?
いいな、ちょっとその響きが羨ましい。
ともあれ、そんな彼ら彼女らは融合させられた魔物の特徴を、肉体的、あるいは特性のようなものを有した存在である。
まずはヴィム――融合させられた魔物は〝
人間の膂力を遥かに超える下層の魔物。
ヴィムの外見は、何しろデカい。縦にもデカいしガタイもいい。
彼は特に魔物特性と呼ぶようなものが出ている。
顔の右半分、口から上を隠すようにつけられた仮面をつけて隠しているけれど、そちら側は魔物特徴が出てしまったようで、肌が緑色に変色していてゴツゴツと岩のように硬質化しているのだ。
膂力は常人のそれを容易く超えていて、傷の治りも常人とは比べ物にならない早さで治る。
彼に与えた武器は、かつて深層で拾った『竜鱗大鉈』。
鉤爪状の刃が片側にいくつもついた大剣というか大鉈で、叩き斬るというよりも突き立てて相手を引きずり回すか、あるいは鋸のように突き立ててから引き抜き、ズタズタに傷をつけて流血させる。
どちらかと言えば削るための武器、という感じかな。
まあヴィムの場合、あれで人間を叩き斬ろうとしたら斬る以前に相手が潰れるだろうけどね。刃になってる部分だけで僕の身長ぐらいあるし。
次に、リーナ――〝
音もなく死角から飛んできて、羽を硬質化して刃にして一撃で首を刈り取ろうとしてくる、下層中部に出てくる厄介な魔物だ。
こちらからの攻撃も、速度が勝っていなければあっさりと避けられてしまう。動体視力に優れているんだよね、あの魔物。
彼女の首刈り好きは魔物特性の一種みたいだね。
見た目には特徴は出てないけれど、やたらと動体視力もいいし。
そんな彼女の右眼には、恐らく同じ被検体だった人間の【魔眼】が移植されている。
彼女のいた研究所に研究データがあったけれど、どうやら
彼女に与えた武器は、僕が魔王ムーブで使う大鎌とは違うタイプの大鎌で、『首刈騎士の大鎌』。深い藍色がかった色合いが特徴的で、首を斬った数だけ刃の斬れ味が増すという、呪われてそうな一品である。
そしてエリカ――〝
上層下部に出てくる魔物ではあるけれど、毒液を飛ばしてきて、触れただけで皮膚が溶け、さらにそこから身体の中に毒が回っていき、位階Ⅱ以下だとあっという間に死に至るような劇毒を持った魔物だね。
僕も初めて見た時は人生初スライムにテンション上がって手で持って手が火傷したみたいになったんだっけ。毒は位階が高かったから効かなかったけど。
エリカは生まれる時点で〝
そのせいか、血、汗、涎といった体液の全てが強烈な毒性を帯びている。
しかも彼女の場合、自分の身体の毒を霧のように周囲に散布することもできるので、多分一般人の街中とかに放り出してその気になったりしたら、あっという間に地獄の出来上がりだ。
エリカの深緑色の髪の毛は、どうやら毒の成分が表に出てきたせいのようだね。
実際、〝
まだ年齢は8歳から10歳程度といったところ。
なのにラノベオタクと化した義妹アンチか……業が深い。
彼女は〝
文庫本一冊とかを「じっくり読んだ」と言って5分前後で読み終えてしまう。
なんかこうパラパラパラーってすっごい早さで捲っていく感じではなく、表示、スワイプ、表示、スワイプと淡々と進む感じだね。
結果として、仲間にして1年足らずだというのにアンチ義妹モンスターが出来上がったという訳だね。
――――さて、そんな我が結社の〝穏健派〟だけがいる珍しい状況なのだけれど、その平和はしみじみと僕がヴィムのくれた紅茶を飲み終える前に終わりを迎えた。
「――ただいま帰りましたわーーっ!」
ドーン、と勢いよくバルコニーの窓を開けて声をかけてきたのは、クリスティーナとジンのペアだった。
クリスティーナがこちらを確認するように視線を走らせて、僕に気が付いたのか二度見してくる。
「あらっ!? あらあらあら! ただいま戻りましてよ、愛しき御方ッ!」
「おかえり、クリスティーナ」
「ただいまですわーっ! あぁ、お会いしとうございましたわ――」
「――あははっ、クリスティーナうるさーい」
「あら? まあまあまあ、リーナにエリカ、それに
「……うるさ」
「近衛……?」
「あははははっ、やっぱクリスティーナって変なのーっ!」
うん、相変わらずなんていうかすごいぶっ飛んだテンションだよね、クリスティーナはさ。
だけどエリカ、ポツリと本気で嫌そうな顔をして呟いてみせても、クリスティーナには絶対通用しないから諦めた方がいいよ。
クリスティーナ――〝
魔力を乗せた悲鳴、金切り声にも似た音を叫んで範囲攻撃を仕掛けてくる、水辺のあるダンジョンなんかの下層中部にいる魔物だ。
膂力はないけれど、声が届く範囲全体に響かせる超振動による破壊、精神汚染系の魔法を両立させてくる、なかなか厄介な魔物として知られている。
たった一匹で一つのパーティが全滅する、なんて事も有り得るからね。
そんな魔物と融合させられているクリスティーナは、プラチナブロンドの髪をわざわざドリルヘアーにしていて、リーナのゴスロリ系とも、ラトのようなマーメイドラインドレスでもない、中世ヨーロッパとかの貴婦人が着るようなゴテゴテした黒基調に赤いアクセントの入ったドレスを身に纏っている。
ちなみに入手先は放棄されているビジネス街にあったコスプレショップ跡地。
僕が見つけた時はドリルでもなかったし、入院患者みたいな服だったのにね。
そんな彼女だけれど…………ものすっっっっっごい音痴だ。
ハズレ調子の声に〝
それを見て「あらあらまあまあ。拍手では足らず
ただ彼女は別にお嬢様でもなんでもない。
残されたデータを見る限り、拉致された探索者であったらしいんだけど、精神的ストレスに耐えられなくて新しくできた人格が今のアレらしいよ。
どうしてお嬢様キャラなんだろうね?
僕にもその理由は分からない。
ちなみに彼女、知らない人間を見ると歌い出す。
彼女なりに「お近付きの印に歌を聴かせてあげる」という親愛のつもりとのこと。
結果として頭を爆発させて朗らかに笑うのだ。
……多分だけど、あれは自覚症状もないけれど極度の人間嫌いだ。
探索者時代に騙されて拉致されて、それで人格も壊れてしまったのだから、そうなったのも納得ではある。
そうして、人間を見るなり攻撃するという行動に対し、彼女なりの今の性格でロールプレイして結びつけた理由が、件の親愛の印とやらみたいだね。
そんなクリスティーナだからこそ、殺すなと言っても理解できないし、歌うなと言うと酷く悲しみ、泣いて魔法をばら撒く。
ウチのヤベー奴らの中でもトップに近いヤベー存在である。
「ジンもお疲れさま」
「…………ぅ」
ジン――〝
奈落上部にいる魔物で、馬鹿でかいミミズみたいな魔物。
大きな口を開いて地面から飛び出して捕食しようとしてくる、だいたい幅5メートル、全長30メートルぐらいある無駄に大きな魔物だ。
奈落の魔物の中では珍しくありきたりというか、まあ「うん、魔物だね」ってレベルの存在である。
そんな魔物と融合させられたジンは、ぱっと見は痩せていて背の高いひょろっとした黒髪の青年にも見える。
けれど、口をぱかりと開ければ喉から首、胸元までが裂けて開いて、幾重にも生えた強固で鋭利な歯を用いて、鉄すらも噛み砕いてしまう。奥に奥にと蠕動運動して呑み込んでいくのである。
まあその代わり舌とかがないから喋れないんだけどね。
声というより唸り声みたいな返事しかできないし。
なので、何か用事がある時はスマホの自動音声読み上げかチャットを使っている。
ちなみにそんな彼がどうしてヤベー奴ら筆頭の一人なのかと言うと、やたらと腹が減るらしく、たまにここに帰ってくるだけですぐに外に出てしまい、魔力を持った魔物はもちろん、人間とかも食い荒らして過ごしているからだ。
彼にとっての線引きは、〝僕ら〟か〝僕らじゃない〟かだけ。
世間的な善悪も、人に対する好悪も、そんなものは彼の食欲の前では無用の長物に成り下がる。
ジンを放っておいただけゲート周辺の人間とかいなくなっちゃったしね。
……うーん。
やっぱりジンはまだ一般人とか探索者には刺激が強すぎるかな……?
捕食シーンとか、ぱっと見ただけで普通の人間じゃないって分かりやすいし、物静かだ。
そんなジンを連れて配信系探索者の前で華麗にデビューしようかなって考えてたんだけど、結構ショッキングな映像になっちゃうかな?
そうなると、やっぱ次点ではヴィムなんだけど……リーナとエリカ、それにクリスティーナをここに残してヴィムもいないと、下手したらヨグ様とご対面とかしちゃいそうなんだよなぁ……。
……ドラク……無理だね。
彼は人間見たら即炎吹き出して灰にしちゃうし怒りっぽい。
初対面で僕に攻撃をして、僕の翼に串刺しにされて宙吊りにされながら笑って負けを認めた生粋の戦闘狂だし。
ウチのメンバーたちにも返事はだいたい「お!? じゃあヤるか!?」だもん。
会話にならない。
ハワードは……もっとダメかもしれない。
自分が苦しめられた記憶が残っているせいで、自分の立場をそちら側にすることに喜びを感じているから、人間を見かけたらすぐに捕まえて、生きたまま麻痺特性を使って解剖を開始。
嬉しそうに臓器とか食べさせ始めたりするんだよねぇ、メッチャ笑顔で。
……ロクなのいないじゃん。
「……よし、リーナ!」
「ん? なぁに、お兄様ーっ?」
「お出かけしよっか」
「――うんっ!」
消去法で、手綱を握りやすいリーナを連れて行くことにした。
◆――――おまけ――――◆
おーが「つまりヴィムは俺の兄弟って、コトォ!?」
しそー「自惚れんな」
うおー「調子乗んな、クソが」
おーが「草。圧つよっwwww」
しそー「つかさぁ、お前は〝緑大鬼〟な訳じゃん? 俺の名前は?」
うおー「は?」
おーが「いや、おまえ『深層の悪夢』っしょ?www」
しそー「……いや、それ通り名的な感じだろ? 種族の正式名称てか、名前だよ、ほら」
おーが「……ないんじゃね?w」
うおー「ハッ、ザマァ」
しそー「いや、うおーに言われたくねぇんだが」
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