おいでよ、ドリームry
グロテスク極まりない光景は、別に珍しくもなんともない。
ダンジョンでそういうものを見る事もあるしね。
臭いというのもそうだ。
腐敗した臭いだけとかなら
けど、この生々しい臭さってえげつないんだよ、ホント。
夏のあっつい風に乗って、むわっとさ。
まあちょっと細かく言わないけど、こう、目にクルんだよ。
よってお姉さん――お姉さんに許可を取って〝破壊特性〟付きの魔法で吹き飛ばし、ついでにコンクリートも撃ち抜いておいた。
とは言え、臭かったトコに居続けるっていうのも嫌だ。
なんか暑さに乗ってまだ香ってるんじゃないかって気になるし。
という訳で、てくてくと歩いて離れた先にあった廃ビルの入口部分にて、僕はお説教を開始していた。
「――あのさぁ、あんなくっさいトコで、にこやかに初対面のご挨拶が遂行できると思うの? さすがに嫌なんだけど? あんなの拷問だからね?」
《……ぷふっ、ふ、くく……》
「まったく、僕の被検体……げふん、いくら彼らが襲いかかってきたからってあんな風にしちゃうなんてさぁ。僕の取り分……んんっ、何も全滅させなくても良かったんじゃないかなって、そう思っちゃうよ、まったく」
「……色々隠せてないと思うのだけれど?」
「しょうがないでしょ! 僕だって楽しみにしてたのに! 何も全滅させなくたって残してくれても良かったじゃん! そんな良心の呵責もなく実験……利用、うん、使える連中、残しておいてくれれば良かったのに!」
「えぇ……? ついに隠そうとすらしなくなったじゃないの……。ねえ、ニグ? この子、ホントに元人間なの? 私が知ってる人間の精神構造とあまりにもかけ離れてないかしら?」
《ふ、ふふ……っ》
「ちょっと、ニグ? なに笑っているのよ」
《す、すみません……。まさかあなたが、目を丸くするなんて思わなくて、つい……》
「もう、予想外だったのよ。人間種から同胞に至るなんてレアもレア。けれども、その精神性が同胞の域に至っているのかまでは分からないもの。敵に対しては非情であっても、そうでなければ――もしも精神性だけでも人間種側に寄っているようであれば、私とは致命的に合わないでしょうし、同行は諦めるつもりだったわ。だから試金石のつもりでちょっとしたサプライズをしてみただけなのだけれど……」
《ふふっ、クサイって言われましたね》
「ホントよ。永く生きているけれど、初対面コレって初めてだわ」
僕がこんなにもプンスコしてるのにニグ様と一緒になってお喋りしてるし。
というかニグ様、複数との会話にも普通に対応できるんだね。
いや、一方的な通達で全人類に声をかけたりとかできちゃうのは知ってたけど。
そんな事を思ってジト目を向けていたら、額を優しく指で押された。
「ふふ、ごめんなさいね。今もニグと話していた通り、あなたの反応を確認しておきたかったのよ。ちょっと予想外過ぎる反応だったものだから、こっちが驚かされちゃったけれどね」
「僕も驚いたよ、あまりの臭さに」
「そっちなのね……まあいいわ。ニグ、私のこと、どこまで話してあるの?」
《今、あなたに颯に関する知識と、これまでの記録を共有します》
「ありがと。――――……ふふ、なるほど。ずいぶんと愉快な子ね」
なんかニグ様と話していたかと思ったら、ほんの二秒程度瞑目して、次に目を開けたらこちらを見て面白そうに笑われた。
知識と記録の共有とやらが行われたってことかな?
なんだっけ、サーバーに共有されたデータを閲覧というかダウンロードというか、なんかそんな感じなのかな。
ちょっとその能力欲しい。
「それで、あなたは『なんかミステリアスでクソ強いし、見た目の割にやたらと達観していて年齢不詳な、どこか人を食ったような謎のショタキャラ』とやらをやりたい、という訳ね。ふふふ、面白そうじゃないの」
「おぉ、分かる? お姉さんいいひとだね! 僕の中の評価が『クサイ』から『いいひと』にランクアップしちゃうよ!」
「その最初の評価、まるで私が臭うみたいで嫌なのだけど……? ん、まあいいわ。自己紹介もしていなかったわね。ニグから私について聞いているようだけれど、私はラト。呼び捨てでいいわ」
「ん、僕も颯でいいよ。よろしくね、ラト」
「えぇ、よろしく」
白い手を差し出されたので、僕もそっと握って返しておく。
ただ、お姉さんことラトは、何やら僕のことを興味深いものを観察するように、僕の身体のあちこちに目を向けているらしい。
「なんかすっごい見られてんだけど、何?」
「ニグから共有された知識であなたの事は分かったのだけれど……あなた、〝進化〟して肉体端末になってから、一度も本気で戦ったり、自分の身体がどれぐらいの事ができるのか、まだ試していないみたいね」
「うん、まあそうだね」
ぶっちゃけ、最近は僕も深淵とかまで潜ってないし、本気でどこまで戦えるかを知ろうにも、そこまで強い相手とぶつかっていない。
現状を言うなら、せいぜい〝上昇したスペックに振り回されないように本気で調整している〟というのが正しいところだ。〝上昇したスペックを使いこなせる〟という状態とは雲泥の差だったりするのが現実的なところだろう。
そんな事を思いながら肯定してみせると、ラトはしばし顎に手を当てて考え込むような素振りをみせてから、やがて小さく頷いた。
「ねえ、ニグ。この子、ちゃんと鍛えないとマズくないかしら」
《……そうですね。私たちでは手を出せないので、肉体端末を駆使できるあなたがそれをやってもらえるなら、それに越した事はありません。とは言え……》
「問題となるのは相手……まあそれは私がやってあげるとして、あとは場所かしら?」
《はい。この子のクラスになってくると、ダンジョンの中でも本気を出す相手も、出せる場所も限られます》
「この辺り一帯を結界で固めて、〝狭間の世界〟を生み出してしまえばいいんじゃないかしら? 招かれない限り人間には見えないし、入れなくなるわよ? 秘密結社の秘密基地、なんて場所にはうってつけでしょう?」
「なんか置いてけぼりなのはともかく、そこんトコ詳しく!」
何やらわっくわくな言葉が聞こえたので思わず声をあげると、ラトに頭を撫でられた。
お、子供扱いかな? 戦争か?
《……ヨグもそれならば問題ないという認識のようですね》
え、そうなの?
なんか助力を頼んじゃダメみたいな認識だったんだけど、そういう感じじゃないのかな?
《ヨグは自分が楽しむ事を大事にしていますので、自分が助力しないのであれば認めるそうです》
……それってさ、〝自分が観ていて愉悦を感じる事を大事にしている。だから
僕のこと、割とそういう扱いしてそうな感じだったりするんだけど、そこんトコだいじょぶそ?
《……さて、ラトの言う通り、それも悪くはないかもしれませんね。颯、あなたは〝ドリームランド〟を知っていますか?》
「何その悪徳業者がリゾート開発した島とかにつけそうなぼったくりそうな――」
《私たちの作り出した〝狭間の世界〟の呼称です》
「――夢が溢れてそうで素敵な名前だね!」
「んふっ、心配しなくても〝ドリームランド〟なんて呼び方をしているのは人間種の間での事だから、気にしなくて大丈夫よ」
「あ、そうなの?」
《はい。夢を通して偶然にも辿り着いた人間種が付けた呼び名ですので、我々がつけたものではありません》
なんだ、じゃあ別に気にしなくていいや。
華麗な回避をしてみせた僕の心遣いはどうやら無駄だったみたいだね。
というかバレバレだったみたいだし。
さすがは〝外なる〟存在たち、僕の心を読んだのかもしれない。知らんけど。
《〝ドリームランド〟と呼ばれる世界は幾つも存在していますが、共通して言えるのは、人間種のいる世界と我々のいる世界、そのちょうど境界上に生み出される特殊な世界、空間であるということです。それらを纏めてそう呼んでいると思ってもらえば分かりやすいかと》
「なるほどー。で、で? それ、作ってくれたりしちゃうの?」
「……ニグ?」
《……ヨグも納得しているようです。颯の鍛錬も考えると、簡易的なものだけでも先んじて作ってしまった方が良いだろう、と。ヨグは今後、颯にはいずれ〝繧ヲ繝�繝ォ繝サ繧「繝茨シ昴ち繧ヲ繧」繝ォ〟の役割を担ってもらう事も考えていますから。【勇者】と【魔王】がいずれ〝遯ョ讌オ縺ョ髢〟を潜れる程に成長するのであれば、その試練に人間種の物質世界では耐えきれない戦いも想定されますので》
「あぁ、なるほどね。そういう方向なのね」
《はい。そのためにも、颯には本気で戦える程度には肉体端末に慣れてもらいたいので、今回の提案は悪くない、という結論に至りました》
「僕には何言ってるのかさっぱりなんだけど?」
「その時が来れば分かるわよ。あなたはただ、今は誰にもバレない秘密基地を作れる場所が手に入る、とだけ思っておけばいいわ」
「わーい」
うん、詳しい事は分からないけれど、なんか凄く便利な秘密基地が手に入るって事だけ考えておけばいいかな。
普通の人間じゃ簡単に立ち入れない場所にそんなものができるなんて、ほら、なんかミステリアス風な感じが余計に強まりそうだし。
僕は大歓迎だよ!
そろそろ白勇者モードとかも試したいしね!
「じゃあ早速だけれど――まずはここを写し取った世界を切り分けて貼り付けるわね」
そんな事を言ってラトがパチリと指を鳴らした、その瞬間。
目に見える光景、建物なんかは全く同じものであるはずなのに、風の音、小さな虫の息吹すら感じさせない、物音すら皆無になった不思議な場所で、僕とラトは立っていた。
何も変わっていない。
そう思わせるような光景なのに、明らかに何かが変わった気がして、ゆっくりと僕らのいたビルの入口から道路の真ん中へと足を進める。
そうして、気が付いた。
空がさっきまでの曇天とはまるで違った。
星だ。
まるで周囲に光なんて何も無いような海上から見上げた空のように、はっきりとその輝きが見える。
なのに、建物や周囲が昼のように光が当たっているように見えて、まるで絵の中にでも迷い込んだような錯覚に陥る。
空は夜空。
なのに目に見える光景は充分過ぎる程に明るくて、薄暗くすらない。
あぁ、なるほど。
これは確かに夢の世界のような、現実との乖離を強く感じる。
「――ここが今生み出した〝狭間の世界〟よ。とは言っても、そんなに大きくもないし、さっきまで私たちがいた場所を切り取って張り付けただけの世界。建物なんかは全て強度は同じぐらいだけれど、ハリボテで中身なんて何もないわ。ニグ、どうかしら?」
《はい、この程度であれば颯の余剰魔力だけでも充分に維持できるでしょう。そちらの〝世界〟の管理者権限の第一位を颯に、第二位をラトと私、そしてヨグにも渡しておきます》
「えぇ、お願いね」
「ちょっと何言ってるか分からないんだけど?」
「そうねぇ、簡単に言えば、ここはあなたの領域、あなたの世界という事よ。もっとも、あなたはベースが人間種だったものだから、管理については基本私がやるわ。徐々に教えていくわね」
「あ、うん。よく分からないけどいい感じでお願いします」
「適当ねぇ……」
しょうがないじゃん、よく分からないんだもの。
なんかこう、いい感じになってくれさえするなら僕的には問題ないってことで。
そんな僕の答えに若干呆れたような笑みを浮かべてから、ラトも僕に続いて少し離れたところに歩いて移動していった。
「――さて、始めましょうか、
「はーい――じゃ、殺しにいくね」
返事からほぼノータイムで翼を触手に変えてラトの首を飛ばすように棘にして突き出したのだけれど、それらはラトの綺麗な指にあっさりと受け止められて、ギチギチと音を立てて止まっていた。
ぐぬぬ……、さっきの子供扱いの頭撫での仕返しに奇襲を仕掛けたのに……。
「……ねえ、ニグ? この子、躊躇とかそういうのないのね?」
《颯にそのようなものを求めるのは無駄です。知識として共有しましたが?》
「……そうだったわね。はあ、人間種の常識の知識、また新しくインプットした方がいいのかしら?」
《……颯は特殊過ぎる事例なので、あまり意味はないかと……》
「……それもそうね」
聞こえてるんだけど??
◆――――あとがき――――◆
例によって文字化け部分は解析可能ですので、それを解析して知ってる人はニヤニヤしたり、知らない人は調べてニヤニヤしたりして楽しめると思うので、そこは個人の裁量でどうぞー。
ただし応援コメントに分かりやすすぎる伏せ字(例:『深層の悪夢』を『深◯の◯◯』みたいな。◯の数が問題という訳じゃなく)とかで匂わせる系は問答無用でコメ消しが発動するので、自重してもらえると助かりますー。
どうしてもテンション上がっちゃって何かコメントしたいって人は好きな存在の召喚呪文でも打ち込んで発散してね!(๑•̀ㅂ•́)و✧
まおー「それだいじょぶそ? コメ欄凄いことになるんじゃない?」
作者「大丈夫でしょ、多分」
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