不可侵
「一体、何が……どうなって……?」
僕の横でそんな声をあげたのは、確か『日本最強の一人』として名前が知られている探索者、大重さん、だったかな。
僕もあの『日本最強は誰だ!?』っていう記事読んでたから知ってるよ。
まあ、どこのクランの人なのかなんて一切調べてなかったけど。
そんな彼こそが、今回の僕の『なんかミステリアスでクソ強いし、見た目の割にやたらと達観していて年齢不詳な、どこか人を食ったような謎のショタキャラ』ムーブにおける、共闘仲間予定の人だ。
なので、僕もちょっと親切に接しておこうと思う。
優しさマシマシで対応するよ。
「――な、ぜだ……ッ! 何故無事で立っていやがるッ!?」
「ん?」
今度は僕の正面、テレビを通じて僕のことを煽ってくれた、イキり仮面男子くん……だったんだけど、仮面をパージして地面に叩きつけてしまったし、男子と言うには年齢が大人な感じだったので、ただのイキり男性さんに格下げされた。
大人だから男性さんな訳だけど、成人になってもイキり系とか、それはもうただの痛い人だからね。
世間知らず、常識知らずとして腫れ物扱いは免れないし、格下げされちゃうのも無理はないんだよ、残念。
釣り上がった目は充血しているようで、こちらを真っ直ぐ睨みつけて見開いている。
……ははーん、寝不足だね。
もしくはエナドリ大量に接種して覚醒しちゃってるとか、またはちょっと危ないお薬とかに手を出しちゃったとか、なんかそういうアレでしょ。知らんけど。
こういう相手には努めて冷静に、優しく問いかけないと無駄にいちいち逆ギレするんだって、僕知ってるよ。
酔っ払いをどうにかする警察の密着番組で昔見たもの。
「何故無事でって言われても、ちょっと何言ってるか分からないんだけど。どこに無事じゃなくなる要素があったんだい?」
「フザけんなァッ! 俺が付与した〝法則〟は、『領域術者以外の攻撃の無効化』、それに『領域を破壊しようとした者への増幅反射』だぞッ!? 何故適用されていないッ!?」
あーあ、キレちゃった。
壊れもの注意ってレベルで優しく触れたのにこれだもの。
はー、やれやれ、これだからキレやすい若者は。
僕の方が若者だけど。
「っ、やはりそういった類だったか……!」
「でも、おかしいです……。もしもあの男が言う通りの付与を施していたのであれば、魔王は無事では済みません。領域が破壊される前に全ての魔法が魔王に増幅反射されているはず……なのですが……」
なんか大重さんと、下層側の入口方面からこちらに駆け寄ってきたらしい眼鏡美人秘書さんっぽい人が会話してる。
なるほど?
どうやら今のよく分からない結界みたいなのは、何かしらのルールとやらが適応されていた、という感じかな?
なにそれ、ちょっと格好いい。
無敵ムーブとかで絶望を与える感じとかできちゃうじゃん。
ん? でも、もう発動してたの?
お世辞にも、僕のパンチすら相殺できるような強固さはこれっぽっちも見当たらなかったけど。
多分デコピンレベルで壊れたんじゃないかな。
「……ま、魔王よ」
「ん? はいはい、こちら魔王さんです。どーぞ?」
「魔王さん……? いや、いい。今の魔法は、一体……?」
「今のは〝破壊特性〟に特化させた魔法だね」
「……〝破壊特性〟……?」
「うん、そうだね。魔力をぎゅっと圧縮して、〝破壊特性〟を付与する魔法陣を構築して撃ち出しただけだよ。深層深部あたりからの魔物がよくやるアレだね」
「深層深部……!?」
優しさマシマシ対応な僕のお手軽魔法解説に驚きの声をあげている眼鏡美人秘書さんたちとは違って、どうやら大重さんは知っているらしく、片眉をぴくりと動かすだけに留まっていた。
「眼鏡秘書さんはともかく、キミはどうやら〝破壊特性〟のついた魔法は前に見たことはあるみたいだね」
「――ッ!?」
「な……ッ、大重さん、ホントですか!?」
「……あぁ、10年前、青森で起こった『魔物氾濫』で、そうだと思しき魔法に相対した事がある。もっとも、今の魔法のような馬鹿みたいな威力はなかったはずだが」
あ、なんだ。
深層深部にまで突っ込んだとかそういう訳じゃなくて、『魔物氾濫』で偶然見かけたとか、そんな感じなんだ。
というかバカみたいな威力って言い方もどうかと思う。
別に本気で魔力を込めた訳じゃないし。
という事は、あんまり知られてない感じかな。
ならば優しさマシマシの僕が解説してあげようじゃないか。
「この〝破壊特性〟というのは凄く便利な代物で、そもそも『触れた時点で、構成している要素が破壊される』という特性なんだ。それがたとえ物理的なものであっても、あるいは魔法的なものであっても、例外なく〝破壊〟が働く」
「っ、そんな特性、聞いたこと……」
「さっき僕が壊した領域指定型っぽい魔法は、どうやら〝法則〟を書いて場に強制するような代物らしいけれど、その術式が〝法則〟に則った効果を発揮する前に〝破壊〟が術式そのものに届いてしまった、というところかな? だから、効力を発揮するよりも前に崩壊した。――まあ、脆い魔法だったから僕が魔砲を撃たなくても、僕にとっては意味のない、子供騙しな代物だったね」
優しさマシマシ対応で説明してあげると、なんかイキり男性さんがぷるぷるし始めた。
なんだろう、本気を出すために力を溜めてたりとかかな?
うんうん、そういうの大事だよ。
「さて、それよりも、だ。どうやらキミたちも彼に用ががあるみたいだね。どうも彼、
――よし、言えた!
これぞ『なんかミステリアスでクソ強いし、見た目の割にやたらと達観していて年齢不詳な、どこか人を食ったような謎のショタキャラ』枠による、『相容れない感じの空気感が出ている謎の強キャラが、同じ目的という名目で共闘を申し出る胸熱ムーブ』だ!
アニメだったらここでエンディングに入るかCMに入るの確定だね!
「……あー、その、なんだ?」
「えぇ、なんと言いますか……」
「ん? 何かな? 僕を信用できないというのなら、まあいいけど――」
「――そうじゃなくて、だな。お前さん、
「うん?」
大重さんと眼鏡美人秘書キャラさんの視線を追いかけて、イキり男性さんを見る。
……うん、ぷるぷるしてるね。
力を溜めて、解放して一撃、みたいなそういう何かが来るんだと思う。
それとも、まさかあの動きで愛されるとか、そういう謎なアビリティのついた魔道具とかつけてたりするのかな?
その動きで愛されるのは、世界的に愛されることになった青い粘性生命体ぐらいなものだよ? あとチワワとか子猫とか、そういう愛らしい類。
「僕に喧嘩を売ってきたし、ほら、自分で言ってたけど、確かなんとかっていう雑魚とは違うんだってさ。だったら、
「……魔王よ」
「はいはい、こちら魔王さんです」
「あー、その……。何故、位階Ⅹ以上という言葉が出てくるんだ?」
「だって、僕に喧嘩を売るんだからそれぐらいあるでしょ。そもそもそうじゃないと
あれ、そういえば……天の声さーん。
僕が〝進化〟した時、位階Ⅹが暫定限界値どうのって言ってたけど、あれって別に僕だけって訳じゃなくて、人間は全員対象ってことだよね?
《――同胞の質問を確認しました。回答します。〝凶禍の種〟が植えられていなくとも、暫定限界値の突破は可能です》
安心安全の天の声さん案内。
今日も即答してくれるらしい。
まあ、〝進化〟したばかりだし、その流れで見てくれてるとか、そういう感じなのかもだけど。
ともあれ、やっぱりちゃんと超えられるよね。
じゃあ僕、別に変なことは言ってないって事だ。
良かった、僕限定の特別クエスト的なサムシングって訳じゃないなら、別に情報伝えても問題ないでしょ。
それにしても〝凶禍の種〟?
そういえば僕にもそんなものがどうとか言ってたけど……まあ今はいっか。
「……マスター」
「……あぁ。おそらくあの男……」
「――ふ……、フザけるなぁッ!」
おっと、キレやすい若者の叫び。
「俺はこの歳で位階Ⅷの天才だ! それだけじゃねェ! 最強の領域魔法があれば、俺は負けねェ! それを、それ――がっ!?」
「ぐ……っ!?」
「こ、れは……魔力……!?」
「――ねえ。おまえ今、位階いくつって言ったのかな?」
あのさ。
聞き間違い、だよね?
さすがに僕ってば、ちょっとイラッとしちゃったよ?
「おまえ、まさか位階Ⅷ程度で僕に喧嘩を売ったのか?
噴き出す魔力に、周囲が耐えられなくてビシッと音を立てて亀裂が走った。
けれど、そんなのはどうでもいいよ。
――――僕は自分で言うのもなんだけど、我儘なんだ。
他人の都合で時間を使われるのは、ハッキリ言って僕にとっては苦痛でしかない。
だったら自分の為に時間を使いたいし、自分の為に何かをしていたい。
ダンジョンで戦い、鍛え、強くなる毎にその気持ちは強くなっていった。
だから友達とか恋人とか、そんなものも欲しいとは思わない。
秘密結社の人員については、まあいいんだ。
だってその人たちは〝僕にとって必要な存在〟だからね。
天の声さんとかヨグ様も、別に僕の邪魔をした訳じゃないし、むしろ僕にとってはプラスになる事なのだから、拒む理由もない。
でも、友人や恋人っていうのは、〝別に価値がある時間のためじゃなくても、必要なことをする訳でなくても、その付き合いのために応じなければならない〟じゃないか。
そんな存在が近くにいたら――
そう感じた瞬間に、僕はその相手を〝排除したい相手〟として見てしまう事は、僕が一番よく分かっている。
だから僕は、独りを選んでいる。
誰かのことを〝敵〟にしないために。
誰かの〝敵〟にならないために。
いちいち敵対されたら、面倒になって
僕が今、最低限人間らしく生きるための線引きを。
コイツは踏み越えている。
相手にするつもりはなかったし、別にただ騒いでいるだけなら構わない。
けれど、あれだけ自信満々に、自分には
つまり、僕がここに来た理由の内、大きな理由の一つは、コイツのせいで消えた、という訳だ。
「くく……くくく……ッ、あっはははははっ! 位階Ⅷ!? 最強の魔法!? あはははははっ、笑わせてくれるじゃないか! たかが数回死にかけた程度で到達できてしまうような位階で! 吹けば飛ぶような強度の魔法で! 自分は最強? だから僕に喧嘩を売ったと、そう言うのか!? あっはははははっ!」
吹き荒れるように暴れる魔力が、守護者部屋の全てを埋め尽くす。
以前、下層の魔物を潰した時は意図したものではあったけれど、今回は意図したものじゃない。
感情の発露に応じて噴き出てしまっただけだ。
「ひ、ひ……ッ、ァ、が……っ! ぐ、るじぃ……!」
「こ、れは……ッ! 丹波、萩原、弓谷ィッ! 全力で結界を張れッ!
「は、はい……ッ!」
――あぁ。そういえば、ケチがついたのは『燦華』のパーティ、その邪魔をした変態さんの時からだったよね。
――あの変態さんと、僕の邪魔をしたコイツは、仲間なんだっけ?
放出された魔力をふっと消し去って、僕はぴたりと笑うのをやめた。
「――あぁ、もういいや。
《――同胞の強い拒絶、〝排除すべき敵〟であると認識したことを感知しました。
これにより、同胞の持つ秩序は〝不可侵〟と認定されます。
――【諧謔と粛清の象徴】、独立種族【
――同胞に対してこの秩序を破り、侵した者を【裁定の天秤】に乗せることを『管理者』〝
――『管理者』〝Yog《ヨグ》〟が、〝外なる魔王〟の始動を確認し、新たなる世界の訪れに満足気に揺らめいています》
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