諧謔
気を取り直して、兄妹探索者を連れて深層を進む。
なんていうかもう、気にしてもしょうがないもんね、進化とか魔王とか外なる存在とか。
ホントもう気にしてない。ないったらない。
さっきからちょっと力加減間違えた僕の〝魔砲〟――魔法陣が浮かび上がると同時に放たれる、人の身体をまるっと呑み込むサイズの黒いレーザー砲もどきで吹っ飛ばしているものだから、ダンジョンの内部がボロボロになってる気がしないでもないけど、それはちょっとした事故だからね。
八つ当たりなんかじゃないよ。
「……さっきから極大魔法レベルのものが、なんの前触れもなく即発動……。しかも一発で深層の魔物が死ぬって、どうなってんだ……」
「……すごい、ね……」
「……なあ、ちょっと訊いていいか?」
「ん? 何かな?」
安心してほしい。
キミたちが僕の〝魔砲〟を見て唖然としながら称賛してくれていたのは、しっかりと聞いているよ。
僕は「これぐらいなんてことないですが、何かやっちゃいました?」みたいなきょとん顔でしらばっくれたりはしないから、称賛と驚愕で褒めてくれていいし、なんなら今なら〝魔砲〟の撃ち方も教えてあげるよ、うん。
魔力をぎゅっと凝縮、圧縮して、魔法陣を介して破壊特性をつけて撃ち出すだけだ、難しくないし。
ミステリアス要素に触れない事なら、寛容に間口を広げて答えてあげるのが僕という人間だからね。
「お前さん、ホントに魔王とか、そういう存在なのか?」
…………あぁ、うん、それね、うん。
「さあ? キミたちのいう、その魔王とやらがどういうものを指しているのか分からない以上、なんとも言えないね」
「……なるほどな。じゃあ、魔物を統べる王、つまり、このダンジョンの主か、と訊けばどう答える?」
「さて、ね。さっきの光景を見せておいて、魔物と僕とが無関係、とは言わないよ。もっとも、魔王ではないけどね」
僕はまだただの人間だし、嘘じゃないよ。
だって僕、まだ〝進化〟してないもの。
つまりまだ魔王じゃないもんね。
《――同胞の悪あがきを確認しました。回答します。あなたはすでに〝外なる魔王〟です》
――ちょっと?
悪あがきって何さ、ちょっと的確なのやめてくれる?
というか『天の声』さんってそんなほいほい気軽に回答しちゃっていい立場じゃなくない?
《――同胞の八つ当たりめいた質問を確認しました。回答します。あなたはすでに『神権保有者』であり、さらに〝外なる存在〟となる事が確定しています。結果、あなたの情報制限レベルは私の一つ下のランクに相当しています。よって、私があなたに回答しても問題はありません》
……八つ当たりごめんて。
いちいちしっかり見抜いて釘刺してくるじゃん……。
にしても、情報制限レベル、ねぇ……。
なんかこう、そこはかとなく知っておきたいかもしれない。
ほら、ミステリアスムーブをする事を考えると、やっぱりこう、裏事情的なアレとか知っておきたいし。
で、そういうの、分かりやすく教えてもらえたりする?
《――同胞の質問を確認しました。回答します。情報制限レベルとは、『魂魄位階』によって与えられている【繝輔Λ繧ー繝ゥ繧ー繧ケ縺ョ譁ュ遶�】――別名、〝フラグラグスの断章〟、〝エイボンの書〟など、あなたに近い存在も含めた、宇宙の叡智が集まる場所……あなた方の世界で言う、【アカシックレコード】へのアクセス制限段階を示すものです。通常の人間種をⅠとした場合、高位聖職者及び【超越者】でⅡ、巫女など、上位存在の〝声〟を聞くだけならばⅢ。下級神程度であればⅣとなります。ちなみに、あなたは情報制限レベルⅤに該当しています》
あ、うん。
そのフラグがどうのっていう、なんか名前からしてヤベーニオイがしそうなサムシングとか、それらが僕に近いみたいに言われたのは聞かなかった事にしておくね?
というか、僕の制限レベルとかいう補足情報はいらなかったよ。
何それ、下級神とかいう存在よりも上位って、それはもう神じゃん。
魔王って次元じゃなくない?
《――同胞の疑問を確認しました。回答します。あなたは単純な魔王種ではありません。〝外なる存在〟とは、通常の情報制限レベルを大幅に上回る存在でもあります。必然、それに見合う制限が付与されます》
……うん。
なんかもう、そっか、としか言えないよね。
とりあえず情報量が多すぎるし、一旦置いておこう。
ほら、護衛してる側の僕があまり注意力散漫って感じで動くのも良くないだろうしね。
「……ところで、魔王さんよ」
「否定したはずだけど?」
「あー、いや、悪い。別に言質を取ろうとか、そういうんじゃねぇんだよ。ただ、名前を知らねぇから、そう呼ばせてもらったってだけだ」
どうやらお兄ちゃん探索者は僕の裏取りをしようとか、そういうつもりは本当にないらしい。
僕が言う通り配信を素直に切ったあたりもそうだけど、実直というか真面目というか。
きっと配信のコメントあたりでは、僕から情報を引き出せだの、場合によっては外まで連れてきてくれなんて言われているっぽかったんだよね。
けれど、配信を切った時に「期待には答えられねぇよ。妹を守るために、下手な真似をする気はねぇよ。恩人を騙すつもりもねぇんだ、ワリィな」とか言ってたし、多分本心なんだろう。
まあ僕は本心で語り合うつもりはないけど。
ミステリアスムーブ続行するし。
「ふふ、まあいいさ。それで、何かな?」
「あぁ、ここって深層、だよな?」
「キミたち人間が呼んでいる深層という場所だね。ここは深層の浅いところだ」
「だよな……。『深層の悪夢』なんて化け物がいたんだ、分かっちゃいたが……」
「ここが、人の侵入を拒む場所……。未だかつて、踏破されたことのない領域……」
いや、人間の僕、踏破しましたけど?
中3の春、クラスでグループが形成される大事な時期を数日さぼって。
登校したら、すでに身内ノリみたいな会話とか始まってたんだよ。
あの時のクラスメート、全員陽キャだったのかな??
……こわ。
クラス全員陽キャのクラスとか、想像してみたら学級崩壊待ったなしじゃん。
「って、ちょっと待て。俺らがここから出るには、深層への扉を守る『
「もちろんいるよ。僕だけなら魔物だってこんな風に襲ってきたりはしないけれど、この有り様だ。キミたちが一緒にいる以上、アレは動くだろうね」
僕だけでも襲われるけどね。
キミたちがいるから襲われてるっていう空気を出してるけど、なんならさっきから魔物にだって普通に狙われてるし襲われるよ。
だから気付かれないように一発で全部倒してるんだけどさ。
「深層へ進む道を阻む『
「わざわざ僕が親切に教える必要があるのかい?」
「できたら、せめて情報ぐらいくれないか? そうすれば俺だって雪乃を守りやすく――」
「――キミたちが戦うことはないんだ。僕が壊してしまうからね。だから、情報なんて与えても意味はないだろう? そんなに情報が欲しければ、自分で踏破しに来ればいい」
「……っ、そうだな。いや、すまねぇ」
……ふ、決まった。
あたかも僕が『
というか、僕もここの深層の『
ダンジョンによって違うっぽいんだもの。
転移トラップで飛んできた僕が知ってる訳ないじゃん。
あー、でも知ろうと思えば知れるかも……?
いや、やっぱいいや。
どうせ部屋に入ったらいきなり〝魔砲〟ぶっ放してさっさと消しちゃうし。
僕もう今日は疲れたから帰りたいんだよ。
なんか〝進化〟とかいうのもあるし。
なんかちょっと機械音声的な感じで「同胞の――」みたいなのが聞こえてきたと思うけど、きっと気のせい気のせい。
「――あぁ、やっと見えてきたね」
剥き出しの壁をくり抜いたかのような洞穴に、上り階段を見つけて声をかけつつ、さっさとその中へと足を進める。
僕の後ろ、ほんの2メートル程度離れてついてくる二人を連れて階層の階段を上っていく。
あとちょっとで上りきるという、『
こっちにお尻を向けて寝ていたっぽいんだけど、きっと気のせい。
パッと見た感じ、なんかライオンみたいな感じだったけど、うん。
ごめんね、出番ないんだ。
「終わったよ」
「……まあ、そうなるわな……」
「……うん。深層の魔物も一発なんだもん……」
「あれ、僕なんかやっちゃいました?」みたいなきょとん顔なんて僕はしないよ。
終始僕の目標は『なんかミステリアスでクソ強いし、なのに見た目の割にやたらと達観していて年齢不詳な、どこか人を食ったような謎のショタキャラ』だ。
そんな僕は自分の強さを自覚して、クールに告げてクールに歩き続けるのだ。
ミステリアスを貫いて歩き始めて数秒、その直線上。
何やら下の階層から上がってきたらしい、人の輪郭をした魔物たち数名が現れた。
筋骨隆々の肉体を持ったタイプの二足歩行の魔物?
ちょっとサイズ小さめな気がしなくもないけど。
それに肌も緑肌じゃなくて、浅黒い人の肌って色だ。
変異種か何かかな?
軽装とは言え武装しているなんて珍しいタイプらしいし、珍しい種類の
「っ、あれは……っ!」
「あれはオー――」
「――『マジカル★マッスル』の精鋭部隊……!? こんなところまで来てくれたのか!?」
…………。
な、なんでもないよ。
うん、ほら。
き、気付いてたし。
《――同胞の滑稽な姿を確認しました。報告します。『管理者』〝Yog〟が笑いを堪えられずにぞわぞわと増殖しながら蠢いています。さすがは【諧謔】である、と称賛しています》
ねえ、やめて?
色々な意味でやめて??
絶対それ、諧謔とか関係ないと思うよ??
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