ミステリアス風男子と視えちゃう系女子(?)
少々拝借している腕――というか、その先の手の中に握られたモノ。
持ち上げてみれば、ぱっと見る限りスマホとほぼ一緒かな。
なにやらアプリを開いているような状態で固定されているみたいだし、特別な装置ではあるっぽいね。
ふむ、これで操っていたというか、首輪の装着者に指示を出していたんだろうけど……うん、よく分からないや。
とりあえず腕が邪魔なので灰谷の方に投げる。
「――あ、ああ……っ、う、腕……腕が……!」
いや、ホントは腕じゃなくてポケットに入ってたこの装置だけ取ろうかと思ったんだけどさ、しっかり握りしめて動きを止めているものだから、もう一旦腕ごと貰えばいいか、って思って。
ほら、探索者なんてしてると、四肢のどこかが吹っ飛ぶなんて日常茶飯事だしね。
油断してお腹に穴が空いたり、心臓を貫かれたりね。
心臓が貫かれても魔力で無理やり血流を動かしながら、どうにかポーションで回復したり魔法で回復するのも探索者あるあるだから、これぐらいは珍しくもないでしょ。
以前、偶然深層で見かけた探索者も片足飛ばしながら爆笑して嬉々として魔物に突っ込んでたしね。僕も探索者事情には詳しいのだ。
ともあれ、装置を見やる。
たとえばこれがスマホで、しかもアプリとして使役システムを展開できるとなるとかなり大きな影響を持っていたかもしれないけれど、特別な装置じゃなきゃ使えないんだったら、下手に広まり過ぎることもなさそうだ。
微弱な魔力反応があるあたり、魔道具を真似て作られたというところだろう。
ともあれ、魔力の扱いについてもかなり鍛錬を続けてきた僕だ。
当然ながら、魔力を用いた装置なら僕の力でも内部を無理やり読み込んだりもできる――けど、さっっっっぱり分からないね、何これ。
いや、僕ってば魔力は操れるけど、別に魔道具の専門家とか、アプリの開発者とかじゃないし。
奪ってみたのだって、なんかポケットの中でちょいちょい動いてたものだから、ちょっと興味があっただけだしね。
マジシャンのマジックとかのタネを知りたくなるアレと同じ感じ。
タネも割れたし、うん、もういらないや。
ほい、ぐしゃっと。
「あ、ああぁぁぁぁ……――っ」
「さっきからうるさい」
「――ぐぺるぁっ!?」
大鎌の柄の部分で殴り飛ばして壁に叩きつけたのを追いかけて、斬り取った腕をひっつけて安いポーションを垂らしていく。
うん、ひっついた。これで良し。
あとは野垂れ死のうがなんだろうがどうでもいいんだけど、あのお姉さんたちの前で堂々と殺すのはアレだしね。
さて……タネは割れたし、ぶっちゃけ用済みだなぁ。
どうしよ、コイツ。
せっかくだからあっちの女性陣で持って帰ってくれないかな。
このまま死んでも構わないけど、魔物を操るなんて訳の分からない技術も持ってるみたいだし、なんか使い道あるでしょ、きっと。知らんけど。
そう思って『燦華』の面々に顔を向けたら、何故か険しい表情を浮かべて3人ともこっちを見ていた。
なんなら腰を落として構えてるっぽい。
…………え、戦うの?
「……灰谷を――その男を、どうするつもり、ですか?」
は? どうもしませんけど……?
そんな風に返しそうになって、ギリギリで言葉を呑み込む。
ほら、ミステリアスな感じの僕が普通に答えるのもおかしいだろうしね、うん。
……だからって、どう答えるのが正解なんだろ?
いや、とりあえず持って帰るなんて言ってもいいかもだけど、「どうぞどうぞ」ってされても、こんな変態いらないしなぁ。
かと言って、こう……どう答えればいいのか迷うとこなんだよね。
とりあえず、なんとなくそれっぽい感じにもったいぶってみよう。
「さて、どうしようかな? 欲しければあげるよ?」
「え、いらないですけど」
「ちょっと燐!?」
「お待ちになって!? 燐、灰谷はあの技術の持ち主という事もあります! 連れ帰って組織とやらの情報も吐かせるべきですわ!?」
「あ、そっか! やっぱ今のナシで! いります!」
条件反射的にいらないって言われたっぽいけど、やっぱり必要らしい。
燐って子、脊髄反射で喋るタイプなのかな?
まあ今そこに対して特にツッコミを入れるつもりはないけど。
じゃあどうぞって言われたくないし。
という事で、引っ付いたばかりの腕を引っ張って、ご希望の変態さんを山なりに放り投げる。
……どさっと音を立てて落ちたね。
誰もキャッチしてあげないんだ、そっか。
てっきりキャッチぐらいしてあげるかと思ったけど、うん。
ドンマイ、変態さん。
どっかの蛮族とか、昔のヒゲ生やしたダンスしながら果物を剣でキャッチするみたいな、そういうのじゃなかっただけマシだけどさ。
「煮るなり焼くなり好きにすればいいさ。僕はダンジョンの摂理を乱し、魔物の誇りを穢したそいつを裁きにきた、ただそれだけだからね」
知らんけど。
適当にミステリアス感を出すために言ってるだけだけどさ。
そんな事を言ってみせて数瞬、ようやく3人が構えを解いて、安堵したかのように息を吐き出した。
「……あの、助けてくれてありがとうございました!」
「気にしなくていいよ。さっきも言った通り、そいつに用があって、たまたまキミ達がそこにいた。運が良かった、とでも思うといい」
運……むしろ僕は運が悪かった方だけどね。
せっかくのぼっち卒業記念、「一体何者なんだ、アイツは……!?」って言われるための大事な幕開けだったのに、何故かよく分からない変態さんに横入りされたりしちゃったし。
なんかこう、僕よりも変態さんの方がインパクト強かったんじゃない?
だいじょぶそ?
「ところで、あなた、何者ですの?」
「夏純……?」
「探索者の中でもトップ層にいるような者達ですら、下層の魔物を一蹴するなんて真似はできませんわよ? なのに、あなたは一瞬でそれをやってみせた。それだけの実力がある探索者がいるのならば、当然その名を知らないはずもありませんわ。しかし、私達はあなたの事を知りませんわ」
「ふぅん……で、何が言いたいんだい?」
「単刀直入にお尋ねいたしますけれど、あなた――本当に人間ですの?」
ズビシ、と鋭い指摘をしたかのような空気を醸し出しながら、お嬢様口調の夏純と呼ばれる女性が僕を真っ直ぐ見つめる。
……え、いや、人間以外に何があるの?
深淵まで潜ってみたけれど、人間以外に言語を喋るような人間っぽい魔物なんて見たことないんだけど。
でも、だからってここでそんな素を出して対応したらキャラに似合わない気がする。
あーもう。
もうちょっとこう、イニシアティブ握ってやらせてくれないかな?
僕主導でやることしか考えてなかったのに。
帰ったらアドリブの引き出しを増やさなきゃじゃん。
とりあえずそんなことを考えて、僕は少しだけニヤリという擬音が似合うような、そんな笑みを浮かべてみせた。
「……へえ、キミ、なかなか鋭いね?」
「――ッ、やはり……!」
何が「やはり」なのか。
僕には分からないけども、納得できたなら良かったね?
「……ダンジョンを支配する何者かがいるのではないか。まことしやかに囁かれていた噂ではありますが、なるほど……」
初耳ですが??
それってアレだよね、なんかこう、世界が実は謎の組織に操られているとか、そういう、陰謀論ってヤツ?
好きな人は好きだよね、そういうの。
僕も嫌いではないけどさ。
「だったら、どうするつもりだい?」
「可能であれば、お話を伺いたいところではありますが……正直、私たちでは手に余りますわね。紗希、あなたはどうお考えですの?」
「無理に連行するのは不可能だし、どうしようもないな……。私としては、助けてもらった、その事実だけが大切だと考えている。たとえ相手が何者であろうと――それこそ、人間ではない存在であろうと、ね」
太刀を使う武士系女子な感じの紗希さんが、ちらりとこちらを見てからそんな言葉で締め括る。
いや、人間なんだけど?
なんで一番冷静そうなキミまで僕が人間じゃない方向で固まってるのさ。
キミも同じ穴の狢なのかな?
「無理に言及するつもりはない、という事ですわね。燐、あなたはどうですの?」
「それでも、助けてもらったのは事実です! 危険な相手じゃないってことぐらい、みんなだって見てたし、分かってくれるよ!」
「……そうですわね」
……え、こわ……。
3人しかいないのにみんな見てたとか、なにそれ、幽霊的なサムシングでも見れちゃう系女子なの? そのみんなとやらに分かってもらえなかったら呪われたりする感じ? こわ。
魔物の
もうやだ、さっさと切り上げよ。
計画通りひっそりムーブするはずが変態さんに邪魔されるし、なんか普通の人には見えないサムシングが見える系女子だし、ホント散々だよ、もう。
「それじゃ、僕は行かせてもらうよ」
だから引き止めたりしないでね。
あわよくば呪ったりとか、そういうのホントやめてね、と思いつつ、影の中へと潜り込むようにその場を後にした。
――――そう、僕は知らなかったのだ。
燐さんが言った「みんな」というワードが、配信を通してその場を観ている視聴者たちの事だった、なんて。
ダンジョン配信なんて代物がこの2年程で一気に普及していて、彼女たち『燦華』と呼ばれるパーティは、その配信で注目されている人達だったなんて事を。
いや、気が付いてはいたんだよ。
なんか3人からちょっと離れた位置からふよふよ浮いて俯瞰するような位置に飛んでる謎の物体があるなって。
微弱な魔力を放っていたものだから、てっきり弱精霊か何かでも連れてるタイプなのかと思ってたのに、それが撮影用ドローンだなんて分からないよ。まん丸いし。
ドローンってプロペラついてるアレだと思ってたのに、いつから球体になったのさ。
とまあ、そんな風に思うぐらい、僕は自分の興味のない情報をシャットアウトしてしまっていたのだ。
探索者の強さ、魔物の情報を調べる以外、ネットに興味を持たずにひたすらダンジョンに籠っていた僕は、配信なんてものがどれだけ注目されているのかという事も、まったくもって理解していなかったのである。
――――こうして、僕は世間に「ダンジョンの番人、『魔王』が現れた」なんていう話題と共に知られる事になったのであった。
……そういうの、求めてないんだけど。
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