ダンジョンのある日本
ダンジョンの出現は、今からおよそ三十年前。
突如として現れたダンジョンという存在は、それはもう、色々と世間に混乱をもたらした。
まず、そもそも魔物なんて存在は空想上の存在でしかなかったこと。
次に、魔物には科学兵器が効かなかったこと。
魔物を倒すには、当時は未知の力であった魔力というものが必要で、それを身体に取り込んで強くなれる人間でなければならなかったこと。
けれどそもそも、誰でも魔力を取り込んで強くなれる訳ではなかった。
魔物を倒した時、その魔物が拡散するという粒子――通称、魔素。
人間はまず、この魔素を体内に吸収することで魔力を生み出せるようになる人間と、そうならない人間に分かれる。
さらにそこから、魔素の吸収率や、個人が持つ魔力の性質によって戦いへの適性や、その強さの限界値みたいなものもあるらしい。
これらを引っくるめて、最近では『ダンジョン適性』なんて呼ばれている。
僕はこの『ダンジョン適性』が高かったタイプの人間だ。
それこそ、なかなか珍しいぐらいに。
だからこそ、一人ひっそりとダンジョンに篭もるなんていう暴挙が可能だった。
まあ僕の事は置いておくとして、だ。
ダンジョンで手に入る様々な資源を手に入れたり、あるいはダンジョンが引き起こすという『魔物氾濫』ことダンジョンスタンピード対策としてダンジョンの魔物を間引いたり。
そうやってダンジョンで戦う存在に需要が生まれ、探索者という職業が生まれた。
探索者が生まれた当初は、ダンジョンで手に入れた多種多様な素材や宝を国が半ば強制的に徴収するような形で押収したらしい。
結果として探索者がブチギレてダンジョン攻略に協力しなくなり、『魔物氾濫』が発生。結果として町が一つ消えたり、国によっては国さえ消えたりしたそうだ。
そういう事があって、探索者をバックアップするための探索者ギルドなんてものができたのも、需要と供給から、半ば必然の流れだったとも言える。
今じゃ魔物がドロップする魔石がエネルギー源になって生活を支えているし、僕が通うような探索者学校なんてものまで出来ているのだから、人間は存外逞しく適応したものだよ。
そうそう、〝特区〟っていうのは、ダンジョンが現れたその周囲を指した地域名だ。
昔はなんとか市とかなんとか区とか呼ばれていたらしいけれど、今ではダンジョンがある周辺は番号が振られている。
特区は巨大な防壁で囲まれていて、この中では探索者も武器の携行が許可されていたり、税金が安かったりという特典がつく。
もっとも、それで得をするのは探索者や探索者向けの店舗を構えるようなメーカー、ブランドだったりで、ダンジョン適性の低い一般人にとっては怖い場所という印象であるらしいけど。
◆ ◆ ◆
やってきました神奈川第5ダンジョン――旧横浜市北東部。
オーソドックスな上層洞窟、中層は地下空洞といったタイプ。
ホントにあまり特筆するような事もない通常型ダンジョンだ。
ダンジョンには色々なタイプが存在している。
ダンジョン内に太陽のある草原や砂漠、吹雪く雪山だったり、マグマの流れる火山だったりという環境型。
はたまた、地下遺跡だったり荒廃したどこかの都市、村だったりなんていう異界型だったり、はたまたゲームでいうとこのNPCみたいな存在がいて、謎を解いていかなきゃいけなかったりする劇場型なんかも含め、多種多様のバリエーションがある。
出てくる魔物も、基本的にその環境に適したものになりがちだからね。
たとえば環境型で火山地帯にいれば燃え盛る狼とか出てくるし、逆に雪山だったら氷で出来た狼とかいる。
狼くん、定番かつオールマイティーに属性に適応しがち。
それに比べて、通常型は難易度の低いタイプだ。
僕がひたすら籠っていた異界型ダンジョンに比べれば、魔物が属性という特性を持ちにくく、特別な技術がなくても戦える。
まあ、僕ぐらいまで強くなくても、それなりに育っていれば属性問題はまるっと無視して殴り飛ばせたりもするけどね。
「……ッ、ガ……ァ……ッ」
「うん? あぁ、まだ
無造作に片足を持ち上げて踏み潰すように踵を落とす。
その一撃が決め手となって、ネットニュースで話題になっていたこのダンジョン、その中層へと続く門を守る『
ダンジョンで魔物を倒すと、魔物は魔石とドロップ品――牙だったり爪だったり、皮だったりっていう一部分――を落として消えていくのだ。
たまに魔物が使っている装備品なんかも落ちてきたり、「キミどこにこんなの持ってたの?」と言いたくなるような代物が出てきたりもするんだけどね。
噂の『
大剣はロマンだけれど、もはやこんな鉄塊みたいな大剣、誰が使うというのか。
いや、位階が高い僕なら振るうぐらいは造作もないけどさ。
うん、ゴミ☆
それでもいずれはお金になるだろうと考えて、足の爪先をトンと地面に叩きつけ、自分の足元の影を伸ばしてポイ。
これはゲームよろしく時間停止とか遅延とか、そんなおもしろ効果を持ったアイテムボックスだのインベントリだのとは違うけれど、容量だけなら入れておける影の魔法だ。
それでも手ぶらで行動できるし、およそ両手じゃ抱えきれない量の代物も持ち帰れるというメリットは非常に大きい。
中層程度じゃこんなものかとドロップにガッカリしつつ、代わりに部屋の中央に現れた宝箱に目を向ける。
うん、知ってた。
木箱……ゴミです。
ダンジョンの『
これには木箱、銅箱、銀箱、金箱、ゲーミング……げふん、虹箱とランクがある。
苦戦して己の限界を突破するかどうかで、宝箱のグレードは変わるのだ。
つまりレア狙いであまり強くない敵の周回なんてしても、ゴミしか出ないのである。
今の実力に至ってからというものの、『
下層から深層に入る『
まあ、この分だと下層の『
浅い階層は探索され尽くしているし、さっさと先に進んで……なんだっけ、『
そんな事を考えながら、僕は中層へと足を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます