笹舟

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  笹舟



思えば笹舟の作り方を

誰に教わったのだろう


ジョギングの途中

笹の葉を折り取り

一艘の

不格好な笹舟を作る


小川に流そうか

それとも……


いちどほどけた舳先へさき

もう一度しっかりと折り込み

勇壮な舟を

目の前にかざす


せせらぎに落とそうと差しのべた瞬間

僕は思い止まり


小さな舟を

遊歩道のベンチの端に置いた


お母さん

これ、どうやって作るの?

そんな母子の会話を想像しながら


あるいは

お母さん自身の胸に

少女のころを思い出す

よすがとなることを夢見ながら


小川に流せば 

それでおしまい

はじめから

なかったのと同じ


不格好な青い舟を尻目に

僕は汗をふきふき


そのまま

遊歩道を走り去った


            (了)

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