花王の笛
千織
笛の音が聞こえたら鬼が来る
昔々、
ある日牛車で通りを過ぎだどぎ、小さな童がいたんだど。
女とも男とも見える
「
「
童の声はぁ鈴が鳴るようにかわいらしぐで、一果月は
童は、透き通る
あんまりかわいがらっで、一果月は自分の子さするごどにしたんだず。
童は男の子だっだずども、見目がいいがら時には女子のべべも着たっだど。
それもそれでめんけくて、とにかぐ一果月は童から離れね。
どごさ行くにも童を連れて、朝から晩まで一緒にいだのす。
出会ったどごに桜が咲いでらっだがら、一果月は童を花王と名付けで呼ぶようになったのす。
一果月は花王さ笛を習わせだなす。
小さな口で息を吹ぎ、細っこい指を器用に動かしでら様はいじらしくで、暇せあれば、一果月は花王さ笛を吹かせだど。
いづの日からが、一果月のとごは笛屋敷と呼ばれるようになったず。
ある日のごど、いづものように一果月が花王の笛を聞いでらど。
月が屋敷の池さ映るくれ明るくで雲一つもねぇ日で、二人は中庭さ面したどごにいだっだず。
するど、屋根の上から影が降って来たんだず。
一果月はびっぐりしでよぉ、何事ぞ、と叫んだのす。
見れば庭の真ん中さ、着物着た見目のいい男が立ってらんだど。
「その童はこちらのものぞ。連れて帰らん」
「何を言う。花王は一果月の子ぞ。
主の大声を聞いで、家の者が出てきたんだず。
曲者ぞと言い合って、刀を抜いたんだなす。
それでも男は
一人が斬りかがったらば、男はふわりと宙を舞ったのす。
あの男は化け物に違いね。
と、男衆は思っておののいでらば、その隙に男は花王を羽衣さくるんで担ぐど、山さ翔び去って行ったのす。
♦︎♦︎♦︎
一果月は怒り狂ってよ、大金はたいで強者をたくさん呼んだのす。
街の知恵のある
「
年寄りは諌めだが、一果月の怒りはおさまらね。
男衆に刀や弓を与えでよぉ、山さ入っだのよ。
年寄りの言う通り、岩ばっかりのどごを見つげで、刀が刺さってるのも見えだんだず。
その周りさ数人の月の鬼がいで、その中に花王もいたず。
一果月は小さな声でよ、男らに鬼を射るように言ったなす。
力自慢、弓の名手を集めだのす、木陰から何本も真っ直ぐに矢は飛んで、次々に鬼に刺さったのす。
鬼らは驚いで逃げるのもいれば、武器を手にとったのもいで、男衆はかかっできた鬼さば、さらに弓を引き、刀で斬りつけたのす。
その隙に一果月は花王に駆け寄ったなす。
「
一果月は花王の乱れだ髪を手で直してやって、花王の手を引いで山を降りたず。
一果月は花王が再び連れで行がれねようにど、山の中の洞穴に扉をつけで、簡単には切れね鎖で足を繋いで、自分と見張り番以外には誰にも見られねようにと、花王を隠したんだど。
一果月は、男童女童のかわいらしいべべをたくさん買ってぐのす。
んだども、一向に大きいべべは買わねのよ。
あの童ば
そのうち、一果月は花王と暮らすと言って、屋敷から消えでしまったず。
時々、遠くから笛の音の
飛び抜げで美しかろうものや役立つものは、はぁ人の心を無くさせるものだなす。
花王の笛 千織 @katokaikou
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