バニー・ガール

三月

本文


 キミを取って付けた韻文で褒め称ようとすると、"へそ隠して肩隠さず、肩隠して臍隠さず"とか、そんな風になる(その日は酸素を渡し切った赤血球の如く赤黒いショート丈のトレーナーに、黒のロング・ジャケットが腿まで伸びて、代わりという様に股関節下までの長さしかないレザー・パンツを履き、又以て、スレートグレイのブーツがすね半ばまですっぽり覆っている)。「何か気に食わなきゃ申立てでもして欲しい」という感じで、肩と臍がその受付になっている。それがキミだ。ひとまず、かかる一人にとってはそう言える。


 ――地元の彼女とは違うコトをして欲しい、だなんて頼んだけれど、その要望が満たされることは望んでいない。これは悪戯いじわるだ。僕が首を振らなきゃどうにもならないことだ。そんな奇跡を起こすんだから、前世は女神に違いない(※注:この指摘は詩的雰囲気を醸造するだけでなく、本質を突いていた。例えば古代エジプトにおいて、兄王子を殺された継承順位一位の王女が、探偵役の神官を殺害現場たるピラミッド内部に招き、事件を解決した事例がある。以下A・Marllin『女王と神官の再帰的飲酒遊戯』参照)。


 ——と僕がそう言うと、キミは「窓開けてくれない?いやでもやっぱりウサギがいいなぁ。それか、ええとね、わたしならさいだね」と、こう返した。そこで僕は、そこいらにある(本当はには無かったんだけれど)自棄やけっぱちにデカい敷地内の、これまた自棄っぱちにデカい店内を巡って、贈り物を選り分けた。

 ウサギの扮装である。


 詳しくは言えないが、僕にはこだわりがあった。ウサギには尻尾が要る。そして、人間にはそれが無い。大変な矛盾である。ウサギに扮しようという目的の為には、尻尾を無理やりにでも、それこそお尻の何処かに穴でも見つけて、其処にを差し込みでもする様にして、何か生やしてやらねばならない。

 僕がその旨を提案すると、彼女はその卵状のプラグを撫でて、それきりである。僕にとっては、大変残念な反応となった。きっとウンザリされたり、嫌がってきっぱりした態度に出ると期待していたからだ。


 彼女はプラグを赤ん坊のように口に含めて、それから僕に渡した。言わなくても良いかもしれないが、先から数日後のことである。僕はだったのに、まったく怖気づいたように、それを撫でてみた、すこし湿って、じんわりと熱っぽい。ぼくは「怒らないよね?」と言った、答えを期待することは無く。すると返事が却って来た、熱っぽく擦り寄るという行為を伴って、だ。

 死に至る熱病が神経を犯す病なのは言うまでもなく、記憶と感覚が焼き切れる際にはその痛みを交感神経の作用によって中和する。僕は当時熱病と連関する快感と対外作用による快感と、ある種の共感に因る錯覚との三種を感じ分けていた。つまり恋による麻痺に体温以上の温もり、それと、堪えられた溜息の漏れる様子である。

 キミは立ち上がって、その場をくるり、と回って二人分の作業成果を確認した。そして"やらされてます"、という様に勿体ぶってお尻を揺らし、すると最初に空を切る音未満の揺らぎがあって、次にブゥゥゥゥン、と楽器の弦を弾いたが如く鳴ったのである。僕は満足しているようで、満足し切ってはいなかった。期待された反応がまだ見られていない為である。


 そこで僕は、身体の上の方へ確かめる様に手を這わしていきながら、それを追いかけるように一つ一つを味見して、それから彼女が生態上ようやく頭に血が昇って、赤くなる辺りまで来たら、そこで皮脂と熱とべた付く液の跳ね返りを愉しむように色んな所を押し付けて、そのついでに、プラグを抜いてみた。

 僕は身構えた。彼女が反射的な行動に出ると思ったからである。しかしそうはならない。肉がしっかりと押し返すばかりである。足に温かいものを感じて、ふとプラグに意識を遣ると、力なく垂れる尻尾の根元から白い十字の連続に、こびり付いた柔らかく弾けたような肉が見えてきて…



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