第1話 ひょいひょいメット⑦

 ――翌日。

 ゲロにまみれた道具を脇に置き、事の顛末てんまつを――目も当てられない程のひど惨敗ざんぱいを――つまびらかに説明するという屈辱的くつじょくてきき目に合う。

 突然、家に訪れた開発局の職員――眼鏡を掛けた柔和にゅうわな顔の、如何いかにも気の良さそうな小太りの中年。身嗜みだしみはととのい、仕立ての良いスーツを身に着け、上等なかばんを手にしていた。

 戦いの後、満身創痍まんしんそういの体を引きずり、アレの状態を確認するべく病院へと向かう。奇跡的に二つとも健在で、胸をで下ろし安心したが、その時の受診記録が【新興技術センター開発局】の元に渡っていた。

 契約上仕方がないとは言え、恥ずかしい事この上ない。

 その恥ずかしい負傷が、道具に起因するかを調査するため、わざわざ出向いてくれた次第である。

 そして、それ故にあのひど惨敗ざんぱいの経緯を、説明しなければならなくなった理由でもある。

 特にこれと言った制約がない以上、ペナルティを受ける事はないのだが、本来の用途から逸脱いつだつする道具の使い方をしたい目から、無意識に責任を逃れのようとする心理が働いた。

 露骨ろこつな程にびを売り、大仰おおぎょうなレトリックや、女の極悪非道ごくあくひどうっぷりを随所ずいしょぜ、自らに非がない事を言葉ことばたくみにアピールしながら、心象操作しんしょうそうさこころみる。だが、話せば話す程に、責任の所在しょざいは火を見るよりも明らかで、こちらに非がある事がいなめない。

 なので、最後はいさぎく――誠心誠意を込めた土下座で話をくくる。

「本当にすいませんでした! 何卒なにとぞ何卒なにとぞ穏便おんびんにお願いいたします!」

「や、止めて下さい。困ります。こちらとしても貴重きちょうなデータを取れたと考えています。ですから、頭を上げて下さい」

 おでこをこすり付け、ひれす男に職員は言葉を掛ける。

「しかし、凄いですね、その方は。この道具を着けた貴方を倒すなんて」

「全くって凄くないですけど、不思議にこっちの攻撃が当たらないんですよ。死角に入っても、まるで後ろに目があるみたいに、ひらひらかわして……ひょっとして、あの女もこんな道具を使っているじゃぁないかなって、うたがほどです」

 「ほぉ…」と職員は感心するも、先程までの柔和にゅうわな表情は消えて無くなり、するど眼光がんこうがこちらを見据みすえる。

 そして、わずかにズレた眼鏡の真ん中を、人差し指で押し上げながら、

「その方の話、もっと詳しく聞かせて頂けますか?」

 と切り出して来た。

                                                      つづく

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PocketCity 徳山 匠悟 @TokuyamaShogo

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