第23話 気分るんるん千夏さん

 朝になってもやはり千夏は千夏らしさ全開だった。


 おはようの時点でやけに距離感の近さを覚える。


 初日の朝、馬乗りされたときほどまではいかないが、エンジンがもうかかっているな、という感じが否めない。


「朝からいい男だね、そーくん」

「おだててもなにも出ないよ」

「見返りは求めてないの。なんだろう、思いを口にしてるだけ」

「思いの捌け口ってやつは、もはや栓が行方不明になったとみえる」  


 酒でも入ってるんじゃないかってくらいの顔の赤さ。恍惚としてしまうゾーンにでも突入したんじゃないのかな。


「そーくんへの思いなんて、いまさら隠さないよ。ここには私たちしかいないんだし、なにに気をつかうことがあるの?」

「ごもっともなんだが……ちょっと、圧、感じるんだわ」

「むむむ」


 押してダメなら引いてみろ、とはいう。


 現在の千夏は、押して押して押してみろ、くらいのパワーがある。


「嫌なの? そーくんは」

「悪い気はしないが……なぁ?」

「まだまだ理想は遠いかな? 常に距離感数センチじゃないといや?」

「んなディストピアに適合した未来には中指を立ててやるね」


 そんな、極端に言えば洗脳済みの状態にはなりたくない。俺にだって意思決定の権利があるのだから。


「ひどいなぁ。それはやりすぎにしてもさ、もしもの話をしてもいい?」

「そういうことなら、無責任な回答をさせてもらうぜ。」

「言質とりぃ!」

「まず、馬乗りの解除からお願いしたいものなんだが」

「それは却下かな」

「却下なのかよ!?」

「こうして身体的に近くにいられるのも、いつまでかわからないもの」


 そこに関連する仮定なんだけどさ、と千夏は続ける。


「もし、私の違法行為が明るみになって、ふたりでの逃亡生活を余儀なくされたらさ。そーくんは私と添い遂げる覚悟、あるのかな」


 さっぱりとした言い振りに、俺は質問の重さを忘れそうになっていた。


「添い遂げる、か」

「いや? 私は婚約者として不適切かな。男子が極端に限られているこの世界で、希少な幼馴染である私が」

「適任ではあるし、俺も悪い気はしない。だから、目をガンギマリにさせないでくれ、頼むから」


 ハイライトがさよならバイバイした様子で来られちゃ、俺も反応に気を遣うしかない。



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貞操逆転世界で幼馴染が本気すぎる〜護衛官の癖に俺を束縛する犯罪級ヤンデレなんだが〜 まちかぜ レオン @machireo26

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